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後宮は有料です! 【書籍化】  作者: 美雪
第三章 ミレニアス編

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249 恋人らしい時間



 昼食が終わると、ヘンデルとメイベルが馬車を降りた。


 またしても馬車の中にはリーナとクオンだけになった。


「クオン様、チューリフまではこのような小さな町しかないのでしょうか?」

「いや。大街道沿いには大きな町もある」


 クオンは馬車の中にある収納場所から地図を取り出した。


「今はここだ。もう少し先に行くとやや大きな丸印があるだろう?」

「ありますね」

「通常はこの町で休憩する。だが、我々は人も荷物も多く、移動速度が遅い。送別式典があったために無理だった」

「それでもっと手前の小さな町で休憩したわけですね」

「その通りだ」


 クオンは地図上の大街道を指先でなぞっていく。


「ここにトライバルという都市がある。今夜はここにある国営ホテルに宿泊する」

「国が運営するホテルということですよね? 立派なのでしょうか?」

「聞いた話では、良い方だと聞いている」


 エルグラードは広大な領土中に早馬を送るための施設としての駅がある。


 ミレニアスには駅がほとんどない。既存の都市・町・村をそのまま活用している。


 しかし、既存の宿泊施設は平民や商隊向けで、王族や貴族のための施設として国営ホテルがあることが説明された。


「ミレニアスの国営ホテルはただのホテルではない。軍事拠点の一種だ」


 ミレニアスは国軍の規模が大きくない。地方の治安維持は各領の警備隊が主力になっている。


 それはすなわち各領主が持つ兵力が多くて重要ということになる。


「領主が国王派であればともかく、そうでないと信用しにくいだろう? だからこそ、王族やその臣下である貴族が安全に宿泊できる国営ホテルが地方にある」

「エルグラードにも国営ホテルがあるのでしょうか?」

「国営ホテルはない。その代わりに駅や軍事拠点がある」


 エルグラードは豊かな国土を狙う周辺国に対抗するための軍事拠点を国境付近や中継地点に作り、伝令が迅速に報告するための駅も整備されている。


 しかし、それらの維持には莫大な費用がかかってしまう。


 近年はさまざまな工夫を凝らし、費用の捻出を抑えていることをクオンは話した。


「ミレニアスの国境に向かうまでに駅を利用しただろう?」

「しました」

「第一組はかなり整備された駅を使ったはずだ。リーナはどう思った?」

「とても便利だと思いました」


 駅によって違いはあるが、旅行者が必要としている宿泊施設、食事施設、さまざまな補給品や土産を扱う店も揃っていた。


 多くの人と物資が溢れており、このような施設があれば旅行中も安心だろうとリーナは感じたことを説明した。


「よかった。私の第二組は全く違う状況の駅を利用した」


 規模も小さく利用者も少ない。何もかも最低限しかないような駅を使うことで、クオンは駅の見直しについて考えるつもりだった。


「王太子はいつでも国王代理を務められるようにできるだけ王都にいることになっている。王都を出るのは貴重な機会だけに、駅の現状を知るための視察がしたかった」

「そうでしたか」


 単に人数が多いと大変だという理由だけで組み分けや出発日時が違ったわけではないことをリーナは知った。


「駅は早馬制度を支えるために作られた。情報伝達を早くすることで国内中の情報を集め、国王が迅速に指示を出したり対応したりする。軍事拠点の一種だったが、時代が過ぎるにつれて商業的な要素が強くなった」


 軍用品や救援品に限らず、さまざまな物資を運ぶための輸送拠点になった。


 それが国内の経済活動を支えることで、エルグラードは軍事大国になるだけでなく経済大国にもなった。


「戦争か平和のどちらかの時代に偏った視点ではなく、いついかなる時もあらゆることに活用できる新しい駅の普及を目指したい」

「難しくないですか?」

「難しい。だが、難しいといって何もしないのでは変わらない。私の目指す駅の在り方を検討して少しずつでも再整備をしていきたい。国と国民を末永く守るための施設として駅を最大限に活用していくのも、王太子であり内務統括である私の務めだ」


 クオン様はすごい……。


 やはり王太子、次の国王になる者なのだとリーナは感じた。


「クオン様は移動中も多くのことを考えているのですね。私は駅を見て便利で快適な施設だと思うだけでした。勉強不足で申し訳ありません」


 しょんぼりするリーナに、クオンは優しい眼差しを向けた。


「気にするな。ミレニアス訪問で見聞を広めてほしいが、それを国政に活かすのは私の役目だ。リーナには別の目的や役目がある。それでいいが、私が重要な仕事をしていることを理解してくれると嬉しい」

「もちろんです!」

「だが、二人きりの時は遠慮しなくていい。恋人として自由に振る舞えばいい」


リーナは考え込んだ。


「クオン様は寛大です。でも、自由と言われるとかえって困ることもあります」

「それはわかる。だが、好きにすればいいだけだろう?」

「好きにすればといわれても……私の人生は決まっているような生活ばかりだったので」


 両親と生活していた頃も、孤児院の頃も、後宮で働いていた頃も、ノースランドで過ごしていた頃も、一日の予定は大体決まっている。


 良く言えば規則正しく、悪く言えば自由時間は少なかった。


 自由気ままに過ごすというのは、リーナにとってはかえって難しいことだった。


「後宮で健康のための改善があって、必ず休みを取ることになりました。でも、休みになると何をしていいのかわからなくなって困ったことがあります」


 クオンはリーナが毎日休みなく働いていたことを思い出した。


「休むのは重要だ。過労で倒れただろう? ああならないように休まないといけない」

「それはわかります。でも、休日に何をすればいいのかと思って、結局は日向ぼっこをしていました」

「エゼルバードに日光浴を勧められたこともある。健康にいいらしい」

「そうでしたか。では、日向ぼっこは正解ですね!」

「一緒に過ごす時間の中に、日光浴があってもいいかもしれない」

「そうですね。でも、今は無理ですよね? 窓際に座るぐらいしかできません」

「確かにそうだな。他に何かしたいことはあるか?」

「したいこと?」

「恋人としたいことだ。あるなら教えてほしい。できるかどうか検討する」


 リーナは考え込んだ。


「クオン様は恋人と何がしたいですか? 教えてほしい」

「実際に試してもいいということか?」

「もちろんです。そのために聞いています」


 クオンはリーナを優しく抱き寄せた。


「こうしてみたい。というか、もうしているわけだが」


 リーナは恥ずかしさと嬉しさでいっぱいになった。


「恋人らしいだろう?」

「そうですね」

「とても嬉しい気分だ。幸せな時間でもある」

「そうですね」


 二人の唇が重なる。


 間違いなく、恋人らしい時間だった。


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