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後宮は有料です! 【書籍化】  作者: 美雪
第三章 ミレニアス編
248/1358

248 後ろの馬車



 昼食のため、大街道の途中にある小さな町の外れでエルグラード一行は停まった。


 何千もの人々を受け入れる施設や場所が町にはない。


 一時的休憩するだけであり、事前に用意されていた軽食が配布された。


「失礼します。昼食をお持ちしました」


 側近らしい声かけをしたヘンデルがドアを開け、メイベルと一緒に馬車へ乗り込んできた。


「軽食になります」


 サンドイッチが入った箱が一人につき一箱。


 それ以外にも焼き菓子の詰め合わせの箱があり、メイベルが持ってきたバスケットの中には何種類かのフルーツと飲み物の瓶が用意されていた。


「豪華です!」


 分厚い肉やフライなどが具として挟み込まれている手の込んだサンドイッチで、以前配布されたものとは全然違うとリーナは思った。


「あの……エンゲルカーム夫人のサンドイッチも同じでしょうか? もし違うようならお肉のサンドイッチを食べませんか?」


 リーナがそう言うと、メイベルは苦笑した。


「同じサンドイッチですのでご心配なく」

「そうですか。良かったです」

「リーナ様の優しさは大変素晴らしい美徳です。ですが、ご自身の食事を他の者に与えるのはおやめください。マナー違反です」

「すみません」

「大丈夫だよ。リーナちゃんが優しいのはわかっているし、ここには俺たちしかいないしね」

「ですが、公式な場でしてしまうと大変です。一応はマナー違反であることは教えておく必要があります」

「わかっている。でも、俺が注目したのは別の部分だ。前よりも豪華なサンドイッチだと思ったわけだよね?」

「そうです。こんなに厚切りのお肉が入っているなんてすごいです!」

「肉好きのメイベルの影響をひしひしと感じる発言だ」


 ヘンデルは苦笑した。


「たぶんだけど、王太子付き侍女官になったからじゃないかなあ。ただの侍女だったらもっと貧相な具材だった気がする」

「ミレニアスにおける女官と侍女の差を感じます」


 肉入りかどうかで。


 それがメイベルの本音だった。


「どの程度の配慮があるのかはわからない。できればどこかに待遇についてのメモを残しておいて。すぐに改善してほしいレベルだったら俺かパスカルに報告してほしい」

「わかりました」

「クオンでもいいよ。リーナちゃんはしばらく一緒だろうから報告しなくてもわかるかもしれない。でも、食事内容とか部屋の感じとか、ミレニアス側の対応なんかもメモしておいてくれると助かる。あとで報告書を書く時に役立つから」

「わかりました」

「体調が悪くなった時はすぐに言うこと。医療用の馬車に医者がいる」

「体調は大丈夫です!」

「リーナちゃんは馬車酔いしないみたいで良かったよ」


 普段は馬車酔いしない者でも、長期の旅行中だと馬車酔いをしてしまう場合もある。


 現時点において、リーナやメイベルについては全く問題がなかった。


「弟たちの様子はどうだ?」


 クオンは後ろの馬車の状況が気になった。


「任せてくれればいいよ」


 ヘンデルは即答したが、問題がないとは言わない。


 何かありそうだとクオンは察した。


 仲が良いとは言えない弟たちが何時間も同じ馬車に乗って何もないわけがないとも。


「それではわからない。ミレニアス側に兄弟仲が悪いと思われるのはよくない」

「それは王子たちもわかっているはずなんだけどさあ」


 エゼルバードとセイフリードが嫌味の応酬を繰り広げた。


 視察や会議で疲れたレイフィールがうるさくて眠れないと叫び、三者で激しい口論になった。


 ちょっとしたストレス発散は仕方がないということで、側近たちは静観して様子を見ていた。


 だが、結局はメイベルが乗っていた馬車にセイフリードとパスカル、レイフィールとローレンが移動、メイベルはエゼルバードとロジャーが乗る馬車に移ることになった。


「こんな感じ。俺はメイベルに聞きたい。どんな感じだった?」

「リーナ様について質問されました。ずっとです」


 メイベルはげんなりした表情になった。


「王太子殿下の恋人になったのでいろいろと知っておきたい、配慮するためにはよく知っておかないといけないというのはわかります」


 命令ではなく正論で情報提供を迫る手法。


「ですが、ロジャー様も加わり、洗いざらい話せといった感じでして……」

「んで、洗いざらい話してたわけ?」

「のらりくらりとかわしたつもりです。そのせいで延々と続きました。終わらなくて……」


 昼食休憩になってようやく脱出できたとメイベルは思っていた。


「昼食後は入れ替えをお願いいたします。第二王子殿下とロジャー様ですよ? 精神的に耐えられません。心情的には瀕死状態です」

「午後は俺の番かなあ」


 エゼルバードはクオンを崇拝している。


 クオンの情報を最も多く知っているヘンデルが来れば、情報収集の機会にできると思うため、エゼルバードたちは同乗を嫌がらない。


「嫌だなあ。でも、パスカルに行かせると、第三と第四の相手をしないとだしなあ」


 レイフィールは視察や出張が多いために王宮にいることが少ない。


 そのせいで王宮のこと、特に兄の様子を聞きたがる。


 ヘンデルとレイフィールは親しいこともあって遠慮なく話せるが、機密情報の話題になるのは困る。


 そこでパスカルを会話に引き込み、だんだんとパスカルだけに相手をさせるよう誘導したことで、ヘンデルはようやく解放されたと思っていた。


「午前中は私が耐えました。午後はヘンデル様に耐えていただきたいです」

「何かいい手はないかなあ。メイベルも考えてよ。でないと、俺かメイベルが犠牲者になり続けることになるよ?」


 クオンとリーナの馬車は固定。


 他のメンバーについては他の馬車でやり繰りをしなければならなかった。


「第二王子殿下と第三王子殿下をセットにすればいいのではないでしょうか?」


 それが普通ではないかとメイベルは思った。


「退屈を持て余す王子と体が動かせなくて苛つく王子が一緒にいるとどうなる?」


 言い争いになる。


 ヘンデルとメイベルはため息をついた。


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