245 午後の時間
「エゼルバード王子、午後もお会いできて嬉しいですわ。リーナも」
インヴァネス大公妃は微笑みながらエゼルバードとリーナを迎えた。
部屋にはリーナの素性調査について知らない女官や侍女がいる。
私的にインヴァネス大公妃がエルグラード第二王子とレーベルオード伯爵令嬢の二人と交流する時間ということになっていた。
「お節介だということは重々承知しております。ですが、リーナはレーベルオード伯爵令嬢で、パスカルの妹。不安なこともあると思うので、少しでも力になりたいのです」
「インヴァネス大公妃は優しいですね。リーナは法的な手続きによってレーベルオードになりました。同じ経験を持つインヴァネス大公妃であれば理解できることもあるでしょう」
インヴァネス大公妃は元レーベルオード伯爵夫人。
生まれながらにしてレーベルオードだったわけではなく、婚姻という法的な手続きによってレーベルオードの一員になった経験を持つ。
しかも、レーベルオードに馴染めず離婚した。
レーベルオード伯爵家の養女になったリーナが苦労しそうだと感じ、息子の妹になった縁で手を差し伸べようとするのはおかしくなかった。
「エルグラードに訪問した時にいろいろと買い揃えました。全てエルグラード製品ですわ。ミレニアスの流行はエルグラードを意識したものなので、参考品として買い揃えたのです」
インヴァネス大公妃はそう言ったが、リーナを引き取ることを考えてエルグラードで買い込んだものだった。
「既製品ですけれど、リーナに贈ります。私の息子たちの姉妹として仲良くしてほしいのです。きっと両国の友好につながるはずですわ」
「インヴァネス大公の許可が出ているのですか?」
「もちろんです。クルヴェリオン王太子の許可があれば問題ありません」
「わかりました。では、この件は再度私の方から兄上に伝えておきます。インヴァネス大公妃が子どもたちのこと、エルグラードとの友好を重視していることも合わせてね」
「ありがとうございます。ぜひお願いいたしますわ」
ヴェリオール大公妃は別室にお茶の用意をさせていることを伝え、そこで話し合いをしたいと申し出た。
エゼルバードは了承し、リーナを連れて別室へと移動した。
お茶や菓子が饗されると、インヴァネス大公妃は内密に聞きたいことがあると伝え、女官や侍女を全員下がらせた。
「どうしても直接リーナに聞きたいことがあります。クルヴェリオン王太子の恋人だというのは本当なの?」
インヴァネス大公妃は真剣な表情でリーナに尋ねた。
「エルグラードで会った時にそのような話はしなかったわ。おかしいと思うのは当然よね? あのあと、クルヴェリオン王太子に自分のものになるように言われたの?」
リーナはエゼルバードの方を見た。
「エゼルバード様、どうすればいいのでしょうか?」
「ここには秘密を守れる者しかいません。いずれわかることなので、教えるのは問題ないでしょう」
エゼルバードはそう言ったあと、リーナが右手の薬指につけている指輪に視線を向けた。
「そのような指輪をつけていれば、ほとんどの者が何かしら思うことがあるはずです」
「そうですね」
リーナはエゼルバードの言う通りだと思った。
「ご説明すると、少し話が長くなってしまうかもしれません。それでもよろしいでしょうか?」
「もちろんよ。きちんと説明してほしいわ」
「わかりました」
リーナはきちんと話すことにした。





