244 格差(二)
「厳しく言いましたが、これはあくまでも一般常識に当てはめた場合です。今後についてはエルグラードとミレニアスで話し合われるので、その時にどうなるかが決まります」
「では、両親と会っても大丈夫になるということでしょうか?」
「勘違いをしてはいけません。会おうと思えば会えます。ですが、必要な手続きや注意点があるというだけです。パスカルと同じです」
インヴァネス大公妃はパスカルの生母。
だからといって、パスカルとインヴァネス大公妃が自由に会うことはできない。
親子であっても、エルグラードの貴族とミレニアスの王族という立場を考慮しなければならない。
パスカルは王族の側近として貴重な情報を知っている。それを母親に話すと重大な違反行為になってしまう。
売国行為の嫌疑を疑われないよう適切な距離を置き、正式な許可や手続きを取って面会する。
リーナも同じようにすればいいだけだということが説明された。
「一生会えないわけではありません。国籍や身分が違うと面倒になってしまうだけです。それは仕方がありません。国境を越えるにも許可が必要ですからね」
「それもそうですね」
よくよく考えればそうだったとリーナは思った。
「それよりも、素性が判明したのを喜ぶべきです。王族と貴族の間に生まれたので、血筋はかなりの良さです。両親が誰かわからない平民の孤児よりもはるかに良いではありませんか」
「そうですね!」
「エゼルバード、そろそろ時間だよ」
午後の予定に遅れそうな気がしてシャペルが声をかけた。
「そうですね。では、行きましょうか」
エゼルバードが席を立った。
「急いで歩いてくれると嬉しいけれど、無理だよね?」
「当然です。私はエルグラードの王族ですよ? インヴァネス大公妃は私よりはるかに格下ではありませんか」
「はるかに格下?」
リーナは思わず声を上げた。
「私は生まれながらにしてエルグラードの王族です。インヴァネス大公妃は元エルグラード貴族で臣下の立場ではありませんか。婚姻によってミレニアス王族になっただけで、私と同等になれるわけがありません。ミレニアスにおいても、インヴァネス大公妃は外から来ただけの者、生まれながらにして王族の者よりも序列は格下です。リーナはそう言ったことも勉強しなくてはなりませんね」
「申し訳ありません。勉強いたします」
「本当に残念です。リーナは生まれながらにしてミレニアス王族になれたはずだというのに、その権利を先のミレニアス王に奪われてしまったのですからね。腹立たしいとしか言いようがありません」
生まれながらの王族と、そうでない王族の差は大きい。
王族と貴族の差も。
身分について、リーナはもっと勉強しなければならないと感じた。





