242 セイフリードなりの配慮(二)
「そういえば、パスカルからティアラの話は聞いたか?」
セイフリードが確認するように尋ねた。
「ティアラですか?」
リーナが思いついたのは、インヴァネス大公妃から借りた宝飾品のティアラだった。
「お母様から借りたティアラのことでしょうか?」
「違う」
「何かご存知なのでしょうか? パスカル様からは何も聞いておりません」
メイベルも知らなかった。
「リーナはレーベルオードの養女になった。そこで、レーベルオードで所有しているティアラを送ってほしいという伝令をパスカルが父親に送っている。平民はティアラをしないが、貴族は公式行事や正装の時にティアラをつける。ないのは不味い」
リーナもメイベルもその時になってティアラの存在を思い出した。
貴族の女性であれば、よほどのことがない限りティアラが必要になる。
養女とはいえ、名門伯爵家の令嬢がティアラをつけないのはおかしい。
侍女として同行する場合は必要ないかもしれないが、伯爵令嬢として出席するのであればティアラが必須だった。
リーナは自分のティアラを持っていない。
王都を出発した時は平民だったため、用意していなかった。
「チューリフに到着するまでには届くだろう。エゼルバードと衣装を見に行くと、それに合わせた小物や宝飾品も購入しようとするかもしれない。だが、ティアラは必要ない。もしエゼルバードがティアラを買おうとしたら、レーベルオードのものが届くことになっていると答えろ」
「わかりました!」
「まあ、それでも……牽制になるかどうか怪しいが」
「牽制?」
「ミレニアスは身分や階級が全てと言ってもいい国だ。レーベルオード伯爵令嬢になっただけましだが、養女だ。元平民として軽視されるかもしれない。兄上の恋人だと知られれば、悪意をぶつけられるだろう」
リーナは首をひねった。
「先ほど、クオン様の恋人になるのは名誉なことで、周囲の評価や評判が良くなるとおっしゃっていましたよね? なのに、悪意をぶつけられるのでしょうか?」
「貴族社会、王宮や後宮における嫉妬や悪意は凄まじい。犯罪行為につながりかねないこともある。絶対に身の安全をおろそかにするな。そう言った意味では、僕のところに来るというのはいい判断だ。王族の近くにいれば護衛が多くいる。暇だとしても、メイベルや護衛を伴ってうろつくな。ミレニアス側の誘い、特に外出は断れ。僕と会う約束があるために無理だと言ってもいい。多用するのはよくないが、そういう手段も可能だと覚えておけ」
「わかりました」
リーナは頷いたが、セイフリードは本当に理解しているのか怪しいと感じた。
「メイベル、リーナから目を離すなよ?」
「もちろんでございます。王太子殿下からも言われております」
「ならいい。これ以上僕の読書を邪魔するな。お前たちは読書をするか、部屋の隅でこそこそ話していろ」
セイフリードは閉じていた本を開いて読書を再開した。
リーナとメイベルは大図書室内に何か勉強に使えそうな本がないかどうかを探したあと、結局は部屋の隅でこそこそ話をすることにした。





