24 孤立と孤独
リーナは真面目で誠実。努力もしている。
しかし、長所が短所になってしまうこともある。
悪いことにつながり、思わぬ結果になってしまうことも。
リーナが新しく掃除担当になった場所の前任者は解雇された。
問題が見つかったという理由だが、リーナが掃除されていない場所を発見したのがきっかけだった。
前任者は借金があった。多額で返済できず、投獄されてしまったらしいという噂が流れた。
後宮における借金は普通の借金とは違う。
だからこそ、返せない場合の扱いも通常の借金とは違う。投獄されてしまうのだ。
家族等が代わりに返済をすることができればいいが、誰も返済できない場合は強制的な労働に従事しなくてはいけない。
罪を犯した者は罪を償うために強制労働を課せられる。
つまり、借金を返済できなければ犯罪者と同じになってしまう。
最悪の場合は処刑になると誰もが思っていた。
リーナは自分のせいで前任者が投獄されたと感じ、胸が苦しくなった。
清掃部内においては全て前任者が悪い、自己責任だという判断だった。
仕事をきちんとしていないばかりか、多額の借金をするほど生活が乱れていた。
一生懸命仕事をして、前任者の失態を報告したリーナを褒めた。
しかし、掃除部内における受け取り方は違っていた。
今回のことは他人事ではない。自分にもあり得ることだった。
同僚、あるいは仕事に関係する誰かの報告、告げ口がきっかけで解雇され、投獄になるかもしれないと思った。
リーナのしたことは正しいかもしれないが、召使いの一人が解雇された。
真面目過ぎるからこそ、正直に上司に報告してしまうのだ。
掃除部への報告であれば、掃除部内でうまくおさめることもできる。
だが、上位の清掃部ではそれができない。
清掃部の侍女達は、自分達よりも格下である召使いのことなどどうでもいい。
自分達の責任を問われないために、召使いの責任だといって厳しく断罪する。
階級差や出自の身分差があるからこそ、召使いは簡単に解雇されてしまう。
解雇されたくない。投獄されたくない。強制労働をしたくない。犯罪者になりたくない。
だからこそ、都合の悪い報告を清掃部にするような者とは付き合わないほうがいいと考えた。
中にはリーナを清掃部の手先、スパイのようなものと思う者もいた。
リーナの早すぎる出世に嫉妬する者も多くいたため、リーナは大勢の召使いが暮らす地下では孤立してしまった。
何かと相談に乗ってくれたカリンを始め同室だった者達も、リーナとは少しずつ距離を置いた。
下働きは召使いよりも階級が低い。召使いに睨まれるのは危険だ。
部屋にいる時はリーナを励ましてくれるが、部屋の外では一緒に行動しない。
階級差があるということを理由にして入浴や食事も別にするようになった。
巻き添えを受けないようにするためなのは言わずもがな。
リーナもカリンや同室者に迷惑をかけたくなかった。
一人で大丈夫だといい、自分だけで行動するようになった。
元々、地上の二階以上で働く召使いや上級召使いは、地下や一階で働く者からは敬遠されていた。
出世コースに乗れた者とそうでない者の差は大きい。
借金を返済できそうな者と、返済できない者の差でもある。
リーナもそのことを知っている。
二階の勤務になってしまった以上は仕方がないと受け入れた。
やがて、リーナは部屋を移動することになった。
新人が増えるというのが理由だった。
新人は下働き見習い。最初から部屋代が高い二人部屋に入るのは厳しい。
そこで別の部屋の者が二人部屋に移動し、空いた部屋に新人が入ることになった。
四人部屋以上の大部屋の誰が移るかというのは、借金の金額で決められた。
部屋代が高くなることを考えれば、すでに多くの借金をしている者にとっては、余計につらくなるだけになる。
そういったことを考慮し、最も借金が低いリーナが選ばれた。
リーナは借金が増えないように倹約していたからこそ、より部屋代が高い二人部屋に移動することになってしまった。
また借金が増えた……。
リーナは泣いた。
努力している。真面目に頑張っている。様々な工夫をしている。
だというのに、後宮での生活は何かにつけて有料だ。お金がかかる。借金が増えてしまう。
返済を諦めている者も多い。
なんとかなると楽観している者もいる。
借金を返済するよりもこのままいい生活を享受したいと思う者もいる。
わかっている。大勢の人々がどう思っているのかを。
だからこそ、リーナは負けそうになった。
自分もそうしたほうがいいのではないかと思えた。
借金が増えていくのが辛くてたまらない。
リーナは考えに考え、悩みに悩み続けた。
一人で。
日々、リーナは孤独感に蝕まれていった。
季節が変わっても、状況は変わらない。
孤立と孤独がリーナの心を追い詰めた。
そして、答えが出た。
リーナは借金を気にしないようにするための行動をすることにした。
それは生活や勤務に必要だからではなく、自分が欲しいからという理由によって何かを買うことだった。