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後宮は有料です! 【書籍化】  作者: 美雪
第三章 ミレニアス編

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238 寝ている



 リーナはクオンと手をつないで移動していたが、不安を感じていた。


 これからクオンの部屋に行くことへの不安もあるが、たくさんの護衛騎士に囲まれていたからでもあった。


「クオン様」

「なんだ?」


 リーナは尋ねたため、クオンは立ち止った。


「早く歩き過ぎたか?」


 クオンは歩くのが早い。


 移動速度が遅いのは時間の無駄になり、安全度が下がるからだった。


「随分と護衛の方が多くいますが、何かあったのでしょうか?」

「安全に配慮しているだけだ。邪魔が入らないようにするという意味もある」

「邪魔ですか?」

「私の部屋に連れて行くのをよく思わない者がいるかもしれない。インヴァネス大公夫妻もその対象だ」

「私がクオン様のお部屋に行くことについて、知らないと思うのですが」

「ここはウェイゼリック城だ。城内でのことは筒抜けだと思い、用心しなければならない。それに顔合わせもある」

「顔合わせですか?」


 誰との顔合わせなのだろうかとリーナは疑問に思った。


「ラインハルト、そうだな?」


 クオンは側にいる第一王子騎士団長ラインハルトに視線を向けた。


「御意。王太子殿下の特別な女性の顔を知らないわけにはいきません。全員がリーナ様の姿を拝見するために来ております」


 護衛騎士との顔合わせだった。


「続きは部屋で聞く。廊下に長居したくない」

「はい」


 大勢の護衛騎士に守られ、リーナとクオンは部屋に着いた。


 護衛騎士たちは控えの間まで、その先に進んだのはクオン、リーナ、ヘンデル、パスカルの四人だけだった。


「休む前に指示を出す。明日はレイフィールが戻る。先触れなどが到着次第すぐに報告を入れろ。全体会議は八時、ミレニアスに関する会議が九時から。変更はないな?」

「ない」


 ヘンデルが真面目な表情で答えた。


「では、七時だ」

「了解。言いたいことは山ほどあるけれど、クオンらしくあるのが一番だと思うからやめとく。パスカルは?」

「リーナの護衛の選定に関しては、ラインハルトに一任されるのでしょうか?」


 クオンはしばし考え込んだ。


「基本的にはラインハルトに任せるが、口出ししてもいい。リーナはレーベルオード伯爵令嬢だ。兄として安全に配慮するよう要求するのはおかしくない」

「では、選定には私の了承も必要だとラインハルトに伝えても?」

「それでいい」

「最後に。リーナは王太子殿下の恋人ですが、レーベルオードを名乗る以上、私や家に及ぼす影響は計り知れません。そのことをご理解いただきたく思います」

「心配するな。寝る場所がないから連れてきただけだ。下がれ」

「御意」


 ヘンデルとパスカルは揃って答えたあと、一礼してから退出した。


 クオンはリーナの手を引き、ドアを開けて移動する。


 行先はもちろんのこと寝室。


 視界に大きなベッドが入ると、リーナの緊張度は一気に高まった。


「外套はもういらない」


 外套は廊下を歩く時の防寒具であり、寝間着やガウンを隠すためでもあった。


 寝室まで来た以上はいらない。


 外套を着たまま寝るわけもない。


 クオンが外套のボタンをはずすのをリーナは無言で凝視していた。


「不安か?」


 クオンの視線もまたボタンを外す手先に向けられており、リーナの方は向いていなかった。


「クオン様、私はまだ……」


 心の準備ができていない。


 リーナは勇気を振り絞って言うつもりだった。


 しかし、クオンの言葉の方が早かった。


「ここで休むだけだ。何もしない」

「ごめんなさい」

「謝る必要などない。私は急いではいない。むしろ、迫られると困る」

「困るのですか?」

「父上から正式な許可をもらうまでは何もしない。許可が出ても、リーナの気持ちを尊重する。大丈夫だ」

「私もその方がいいです。ありがとうございます」


 クオンはリーナの外套を脱がせると、ソファの上に放り投げた。


「ベッドに行け。私は入浴してくる。先に休んでいても構わない」

「そうします。おやすみなさいませ」


 クオンはリーナの唇に軽く口づけた。


「おやすみ」


 クオンはバスルームに移動した。


 寝室に取り残されたリーナは頬を赤らめたまま立ち尽くしていたが、気持ちを切り替えるように首を振ると、特大のベッドに向かった。





 入浴したクオンが部屋に戻ると、リーナはすでに眠っていた。


 予想通りではあるが、二人だけで話をする時間もない。


 がっかりしている自分にクオンは苦笑した。


 これまでは妻以外の女性を自分のベッドに入れるべきではない、恋人であってもダメだと思っていた。


 だというのに、クオンはリーナを自分の部屋に呼ぶことをためらわなかった。


 それだけクオンがリーナとのことを真剣に考え、受け入れようとしているからでもある。


 クオンはベッドに上がると、毛布の中に入った。


 リーナは遠慮するかのように端の方で背中を丸ませながら眠っていた。


 寝返りを打ったら落ちるのではないかとクオンは感じ、もっと真ん中の方へ寄せようとした。


「……」


 クオンはリーナの様子が不自然だと感じた。


 まだ眠っていないのか?


 しかし、目を閉じている。寝たふりをしているのかもしれなかった。


 クオンはリーナの位置や毛布などを整えてからベッドに横たわり、眠っているふりをしているリーナを抱きしめた。


 温かい……。


 リーナの体温を感じながら、クオンはリーナを見つめた。


「リーナ、起きているか?」


 起きてますけれど寝ています……。


 リーナは心の中で答えた。


 もうベッドに入った。寝ている。寝なければいけない。気にしないようにして。


 明日も仕事があるし! 


 それがリーナの気持ちだった。


「ゆっくり休め」


 クオンはリーナの額に口づけると、自身も眠るために目を閉じた。


 クオンが眠ってしまったように動かないことを感じたリーナは安心した。


 クオン様、温かい……。


 リーナが眠りにつくのは早かった。


 規則正しい寝息になると、暗い部屋にクオンは小さくため息をついた。


 眠れない……。


 クオンの寝つきはすこぶる悪い。ようやく恋人にした女性を抱きしめている状態であれば尚更だった。


 それでも寝るしかない。もう寝る。いや、寝ている。リーナと一緒に。


 ……幸せなことだ。こうしていられるのは。


 クオンにとってはリーナといるだけで、貴重で特別な夜だった。



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