237 検分再開
やがて、部屋のドアがノックされクオン、ヘンデル、パスカルが入って来た。
「まあ、こうなるとは思った」
居間だけでなく寝室の方にも衣装関連のもちものが溢れている状態。
衣装にこだわるエゼルバードの検分は長引くだろうというクオンの予想通りだった。
「リーナは?」
「衣装部屋にいます」
メイベルがすぐに衣装部屋の中にいるリーナを呼びにいった。
「ずいぶんと豪華な外套だ」
クオンがそう言うと、エゼルバードが微笑んだ。
「廊下は寒いので外套を着用させることになったのですが、身分にふさわしいものということでこちらにしました」
「もっと目立たないものはないのか? 黒がいい」
「女性用の外套に黒があるとでも? 葬儀用がいいとおっしゃるのですか?」
クオンは黙り込んだ。
「恋人であるリーナを兄上の部屋まで連れて行くことは、インヴァネス大公の耳に入るでしょう。ですので、隠すよりも堂々とした方がいいと思います。リーナを大切にしている証拠ですので」
クオンはリーナを迎えに来ることを隠すつもりはなかった。
リーナを恋人として扱うことはすでに決定事項であり、状況を見ながら少しずつ公にしていくつもりだった。
「行くぞ」
クオンはリーナの手を握ると、視線をエゼルバードに向けた。
「エゼルバードに役目を与えたのは私だが、リーナの部屋に夜間長居すべきではない。検分するのは二十四時までにしろ。終わらないとしても、それ以降の滞在は認めない」
「わかりました」
エゼルバードはすぐに了承した。
側に控えていたロジャーとメイベルはすぐに時計を見た。
猶予は二時間程度。
エゼルバードのペースを考えると、検分が終わりそうもなかった。
リーナと王太子一行が退出すると、エゼルバードは本音を口にした。
「今夜、兄上がリーナをどう扱うのか気になります」
それはエゼルバードに限ったことではなく、多くの者が気にしていることだった。
しかし。
「それよりも検分だ。時間がない」
ロジャーの口調は厳しい。
容赦なく仕事をさせる側近に変貌したことをエゼルバードは察した。
「お前は天才だ。本気を出せ」
「嫌な言葉ですね。まるで、常日頃は凡人であるかのように聞こえます」
ロジャーはメイベルに顔を向けた。
「早速始める。急げ!」
リーナの部屋に滞在する時間は限られている。
一秒でも無駄にはできなかった。





