235 心配なのは
検分作業は夕食時間のために一旦中断されることになった。
エゼルバードとシャペルが部屋を出ていくと、リーナとメイベルはホッとするように大きな息をついた。
「作業が進んだのはいいとして、王族とずっと一緒の部屋にいるのは疲れるわね」
「そうですね。気を使います」
「取りあえず、夕食は私の部屋で食べましょう」
「はい!」
リーナとメイベルは夕食を自室で取ることになっていたが、必ずリーナの部屋で二人一緒に取っていた。
しかし、現在の状況では無理。
食事が乗ったワゴンを召使いから受け取ると、二人はワゴンを押して一旦向かい側にあるメイベルの部屋に行った。
いつもであれば打ち合わせと私的な会話を楽しむが、二人はさっさと夕食を食べ終え、リーナの部屋に戻った。
「私は確認済みの衣装を片付けているから、リーナは入浴しなさい。王太子殿下が迎えに来る前に支度をしておかないとだから」
「メイベルさん、そのことでちょっといいですか?」
「何?」
「着替えについてです。寝間着の上にガウンを着用するように言っていました。それは寝間着で廊下を歩けないからです」
「そうね」
「私はクオン様の恋人になりました。もしかして……その……今夜は……何かあるのでしょうか?」
真っ赤になってうつむくリーナを見て、メイベルは察した。
「さあね。でも、何もないわよ。たぶんね」
なにせ慎重熟考の王太子。軽率なことは絶対にしない。
ある意味、安心安全。ぐっすり眠れるだろうとメイベルは思っていた。
「私……好きな人と一緒に寝室で過ごすのは、結婚したあとにする方がいいと思っていて」
「私もその考えに賛成よ。でも、考え方には個人差があるわ」
「そうですよね。人によって違いますよね」
「王太子殿下はリーナを大切にしているわ。どうしたいのかを正直に伝えれば、リーナの気持ちを尊重してくれると思うわよ」
「そうですね」
リーナは頷いた。
「メイベルさんに相談して良かったです! では、入浴してきます!」
リーナはバスルームへ向かった。
一人になったメイベルはため息をつく。
「私は寝間着の方が心配よ」
お洒落な寝間着も可愛い寝間着もない。ごくごく普通のシンプルなものしかない。
なぜなら、平民用だから。
「養女になることがわかっていれば、貴族用の寝間着を用意できたのに!」
どうしようもないとメイベルは思った。





