234 検分作業
クオンにエスコートされて部屋に戻ったリーナは、クオンが馬車の中で言った言葉の意味を理解した。
部屋中に衣装関連の品が出されていた。
ソファの上にも椅子の上にも、とにかく物だらけ。
そして、このような状況なのは間違いなくエゼルバードのせいだった。
「エゼルバードはどうした?」
「寝室にいます」
ロジャーが答えると、クオンはすぐに寝室へと足を向けた。
寝室には確かにエゼルバードがいた。
椅子に座り、真剣な表情でドレスをスケッチしていた。
「エゼルバード」
声をかけられたエゼルバードははっとするような表情をした後、すぐに微笑んだ。
「戻られたのですね」
「わかっているとは思うが、リーナは私の恋人だ。着替えが必要な場合は衣装部屋を使え」
「わかっています。さすがにその程度の配慮は女性に対して当然です」
「あとで様子を見に来るが、リーナには十分な配慮を心がけるように」
エゼルバードは夢中になると自分のしたいようにする。
他のことはどうでもよく、扱いが雑になるのが普通。
そのせいでリーナに何かあっては困るとクオンは思っていた。
「わかっています。ご心配なく」
エゼルバードは微笑んだものの、クオンはエゼルバードに疑うような視線を向けずにはいられなかった。
兄だけに弟のことはよく知っている。
クオンは衣装部屋から出て来たメイベルに視線を移した。
「メイベル、女性としてしっかりとリーナを守れ。厳命だ」
「もちろんでございます。エゼルバード王子殿下は王太子殿下のご意向を尊重されます。ご安心下さいませ」
「今夜、リーナは私の部屋で休ませる。寝間着だけでは廊下を歩けない。迎えに来るまでに体が冷えないようにガウンや外套を準備しておけ」
エゼルバードは驚いた。
「リーナを兄上の部屋に連れて行くのですか?」
「衣装の検分は就寝時間までに終わるのか?」
エゼルバードはベッドの上にある衣装に目を移した。
「……終わりません」
「だからだ。私の部屋に連れて行くしかない。またあとで来る」
クオンはリーナの髪に軽く口づけると、パスカルを伴って寝室を出た。
「パスカルはロジャーと話し合っておけ」
「ノースランド子爵、重要な話があります。時間を取ってくれませんか?」
「今か?」
「今すぐです」
「わかった。シャペル、ここはお前に任せる」
「了解」
クオン、パスカル、ロジャーが部屋を出ていく。
シャペルが大きな伸びをすると、寝室からメイベルが顔を出した。
「エゼルバード王子殿下がお呼びです」
「はいはい」
シャペルだけが寝室に来ると、エゼルバードは眉をひそめた。
「ロジャーは?」
「パスカルに重要な話があると言われて席を外しました。どの程度で戻るかわかりません」
「そうですか。では、これから持ち物の検分について説明します」
まずは一枚目のリストの順に検分する。
メイベルはリストの順番通りに品を用意する。
シャペルは書記になり、リストと対になる備考欄を作成して特記事項を記す。
リーナは二枚目のリストを複製する作業を行い、一枚目は最後に複製する。
「分業することで効率よく行います。時間が限られているので急ぐように」
「わかった!」
「かしこまりました」
「頑張ります!」
リーナの衣装の検分及び関連作業が始まった。





