227 レインボーケーキ
リーナたちが母親の部屋に戻ると、何人もの召使いが茶会の準備を行うためにせわしなく出入りしていた。
インヴァネス大公はリーナの姿を見るとすぐに話しかけて来た。
「フェリックスから指輪のことを聞いた。このことは多くの者に知られたくない。先ほどその話を聞いた者と私以外には他言無用だ」
「わかった」
答えたのはクオンだった。
「調査員にも伝え、証拠の一つとして検討させたい。それには、立会人と調査員が全員揃う必要がある。クルヴェリオン王太子とフレディは私と共に来てほしい。赤の応接間で緊急の話し合いをする。証拠を確保するため、王都にフェリックスを向かわせる。構わないか?」
「構わない」
クオンが同意すると、フレデリックが言葉を発した。
「私でなければダメなのか? 立会人はウィルかゼクスでもいいことになっているはずだ」
「お前が来い。本来は別の者などありえない。だが、お前が欠席すると困ったことになるため、仕方なく代理を認めただけに過ぎない」
フレデリックはため息をついた。
「昨日の調査に立ち会ったゼクスも連れて行く。ウィルはここに残れ」
「わかりました」
「私の側近も同行させたい」
クオンが要望を出す。
「パスカルか?」
「そうだ」
「問題ない。茶会は妻が代理で催すことにする。リリーナは他の者と共にここで待っていてほしい。特別なケーキを用意している。好きなだけ食べるといい」
インヴァネス大公は微笑んだ後、ドアへと向かった。
フェリックスもすぐに続き、クオンとパスカル、フレデリックとゼクスも同じく部屋を退出していった。
「難しい話は任せておけばいいわ。私たちは美味しいお茶とお菓子を楽しみましょう」
「はい」
「すぐにケーキを」
インヴァネス大公妃の指示に従い、給仕役がケーキを運んできた。
大きなワゴンに乗って運ばれてきたのは、何種類ものロールケーキを積み重ねたタワーケーキだった。
七色のリボンやチューリップの花、フルーツが飾られている。
「レインボーケーキです!」
「覚えていてくれて嬉しいわ」
インヴァネス大公妃はとても嬉しそうに言った。
「お父様がどうしてもこのケーキを用意すると言い張ったのよ」
「ケーキを好きなだけ食べてもいいと言った理由がわかりました。このケーキなら様々な味を楽しめます」
「これは七歳の誕生日に用意されるようなケーキですか?」
「そうです」
エゼルバードの質問に答えたのはインヴァネス大公妃だった。
「王位継承権がある子どもが七歳になると、王宮の虹の間で虹をテーマにした誕生日会が開かれます。レインボーケーキはその時にお祝いの品として饗されるのです。フェリックスが七歳の時には、虹色のしおりがはさまっている七冊の本が積み上げられた形のタワーケーキでした」
「ウィル、フレディの誕生日にもレインボーケーキが作られたのですか?」
「七色の宝石があしらわれた金の王冠が頂上に乗った七段のタワーケーキでした。飾り付けは七色の花とリボンでしたね」
七歳の誕生日にレインボーケーキを用意するというのはミレニアス王家のしきたりで、縁起担ぎとしての行事であることも説明された。
「リリーナの名前はユーノ神殿の加護の名前から名づけました。少しでも我が子に良い未来が訪れて欲しいと願う気持ちから選びました」
「そうですか。リリーナという名前は母親の名前と似ているので親子らしいですね。ですが、私はリーナという名前も良いと思います。親しみを感じられる名前ですからね」
エゼルバードはリーナを見つめて微笑んだ。
多くの者がうっとりするような笑みだったが、リーナはケーキの方が気になって仕方がなかった。
「エゼルバード様はどのケーキを選ばれますか? チョコレート味でしょうか?」
「どのような味があるのかをまずは検討しなくてはいけません。変わった味があるのであれば、試してみたい気もします。リーナはどうしようと思うのですか?」
「私は全ての種類のケーキを食べたいので、少量ずつ盛り合わせて欲しいです。一つだけを選ばなくていいですし、様々な味が楽しめます」
「それは名案ですね。私もそうしましょう」
「では、全員同じようにしましょう」
全ての種類のケーキを少量ずつ盛り合わせたものが用意された。
「味の方はどうかしら?」
「とても美味しいです」
インヴァネス大公妃に尋ねられたリーナは嬉しそうに答えた。
「エゼルバード王子はいかがかしら? お口に合えばいいのですが」
「ピスタチオのケーキが美味しいですね。とても香ばしいです。少し変わっているのもあります」
通常、ケーキや菓子に使われるのはアーモンドやクルミ、ピーナッツだった。
「夏になると、ピスタチオのアイスクリームがデザートに出ました。チョコレートソースをかけて食べるのですが、とても美味しいです。お父様の好物です」
「ナッツとチョコレートの相性はとてもいいですからね。私もそのアイスクリームを食べて見たくなりました」
菓子や食べ物の話題により、茶会の雰囲気は和やかになった。
ケーキをおかわりするかどうかも確認された。
「ピスタチオのケーキが欲しい」
セイフリードがおかわりをリクエストした。
いつも少食なのに、おかわりをしてくださるなんて!
リーナは嬉しさに笑顔を浮かべた。





