217 湖(一)
朝早く、クオンはエゼルバード、セイフリード、側近や役職者たちを招集して会議を行った。
現在の状況やミレニアスの対応などを報告させるが、特にこれといって大きな問題は起こっていない。
リーナのこと以外は。
そこでクオンは午後のお茶会までリーナの面倒を見るようエゼルバードに指示をした。
セイフリードと一緒にいると図書室に籠ってばかりになってしまうため、気分を変えるためにも女性の扱いに長けているエゼルバードに任せてみることにした。
「一緒に散歩をしましょう」
突然、部屋に来たエゼルバードを見てリーナはたじろいだ。
エゼルバードの笑みには美しさ以外のものも含まれていると感じたからだった。
「エゼルバードの笑顔に見惚れないとは、なかなかだ」
エゼルバードの美貌は多くの人々を惹きつけ虜にする。時に崇拝の念を抱かせるほどの威力があるが、リーナは見惚れないどころか引いてしまう。
そのことにフレデリックは興味を持った。
「大変光栄なのですが、部屋で待機するように言われています。外出は難しいと思います」
「先ほど兄上からリーナの面倒を見るように言われました。午後のお茶会のことは聞きましたか?」
「はい。別邸でお茶会をすると聞きました」
リーナは昨日見た別邸に行くのかと思うと気が重かった。
しかし、ミレニアス王族であるインヴァネス大公の招待を断れる立場ではない。
調査でショックを受けてしまったリーナのために、特別なケーキを用意すると知らされてもいる。
配慮に感謝するためにも、絶対に行かなければならないと思っていた。
「兄上は会議ですし、セイフリードといると図書室に籠るだけになってしまいます。気分転換のためにも外に出ましょう。庭園を通りながら散歩して、湖で特別な船に乗ります。きっと楽しめますよ」
「昼食の時間もある。さっさと行くぞ」
「上着を持って来なさい。湖は寒いでしょうからね」
「はい!」
リーナはすぐに上着を取りに向かった。
整えられた庭園を歩いて抜けると、湖の側に小さな建物があった。
建物の中にはソファなどが置かれており、湖側には板張りのバルコニーがせり出している。
そこが船着き場だった。
用意されていたのは王族用の特別なゴンドラで、金の装飾が施されている豪華なものだった。
「定員があります。全員は乗れません」
そう言ったのは、船着き場にいたフェリックスだった。
「フェリックスは帰っていい」
フレデリックは船を用意してくれればいいと思っていたが、フェリックスは違う考えだった。
「僕も乗ります。定員上限まで乗せたくはないため、王族の護衛は一名だけです。他の護衛はここで待機してください」
フェリックスが示したルールだと、護衛をつけられるのはエゼルバード、フレデリック、フェリックスの三人。
次に優先されるのは、面倒をみるように言われたリーナ。その側を離れないよう言われているメイベル。
さらに側近のウィリアム、ゼクス、ロジャー、シャペルということになる。
「嫌ならゴンドラには乗せません。フレディたちは。僕とエゼルバード王子とリーナで楽しんできます」
フレディは不満たっぷりの表情になった。
「余計な一言だ。護衛は一人でいい」
ゴンドラは乗員を乗せると、ゆっくりと船着き場を離れ、湖の奥へと進んでいった。
「エゼルバード、寒くはないか?」
季節的にはまだ早いため、湖上はかなり涼しい。
「大丈夫です」
フレデリックの気遣いに、エゼルバードは素っ気なく答えた。
「リーナは寒いでしょう。その上着ではね。私の方にもう少し寄りなさい」
エゼルバードはそういうと、自分のマントを広げてリーナを内側に入れ、しっかりと抱き寄せた。
「これで少しはましになるでしょう。あまり長い時間ではないでしょうが、つらい場合は言いなさい」
「……はい」
エゼルバードが優しいのも配慮してくれるのも嬉しい。
しかし、周囲の視線がつらいというのがリーナの本音だった。
「ところで、このまま何も説明がないまま、ただゴンドラに乗っているだけではないでしょうね?」
「この湖はインヴァネス大公家が所有しているネース湖だ」
すぐにフレデリックが話し始めた。
「インヴァネスの領都ウェイゼリックは二つの湖に挟まれた場所にある。領都の水源はウェイゼリック湖で、ウェイゼリック城の水源はネース湖だ」
ウェイゼリック湖の方は領民や観光客が利用することができるが、ネース湖はインヴァネス大公家の者かその許可がある者しか利用できない。
森の中には狩猟用の別邸がいくつもある。だが、湖遊びをするための別邸は一つしかないことが説明された。
「俺も小さい頃はここへ来たが、泳げないと危ないと言われ湖では遊ばなかった。湖についてはフェリックスの方が詳しい」
フレデリックは説明役をフェリックスに任せることにした。





