214 目が覚めて
リーナは目が覚めた。
ここは……?
天蓋付きのベッド。だからこそ、自分に割り当てられた客間ではないことがすぐにわかった。
顔を横に向けると、クオンの姿が目に映った。
腕を組み、目をつぶっている。
座ったまま寝ているようだった。
側にいてくれた……。
リーナの心の中に安心感が広がった。
嬉しくもあり、幸せでもある。
日々多忙なエルグラード王太子の姿を見ることができるのは、侍女でしかないリーナにとって貴重で特別なことだった。
「クオン様」
このままでいたい気持ちを抑え、リーナはクオンに声をかけた。
「起きたのか」
すぐにクオンが反応した。
「うたた寝でしょうか? きちんと体を休めないと風邪をひいてしまいます」
「執務をしながら眠ってしまうこともある。気にするな」
クオンは優しい口調で答えた。
「それに、私のベッドはリーナが使っている」
「申し訳ありません!」
リーナはすぐに上半身を起こした。
「大丈夫だ。起きなくていい」
クオンは慌ててベッドから出ようとするリーナを止めた。
「話がある。そのままで聞いてくれるか?」
リーナは上半身を起こしたままクオンをじっと見つめた。
「疲れたはずだ。少しは休めたか?」
リーナは頷いた。
「みっともない姿を見せてしまい申し訳ありませんでした」
「謝る必要はない。強いショックを受けたことは明らかだった。別邸を見れば、インヴァネス大公の娘だと証明できると思っていたはずだ」
リーナはうつむいた。
「そうです」
「私も同じだ。期待していた」
「申し訳ありません」
「謝る必要はないと言っただろう?」
クオンは椅子から立ち上がると、ベッドのへりに腰かけた。
「人生は何が起きるかわからない。良いことも悪いこともある。全てを失ってしまったように感じても、私がいることを忘れるな。リーナに希望と生きる喜びを与える。そうであるために、私は努力するつもりだ」
「クオン様は優秀な王太子です。私のために努力する必要はない気がします」
「もう決めた。これからはリーナを守るための努力をしていく」
「ありがたいですけれど……大丈夫です。自分で頑張らないといけません。どんなにつらくても現実は受け止めないとですから」
「リーナは強い。残念だ」
「え?」
リーナは驚いた。
「残念? 強いことはいいことですよね?」
「私のことを頼ってほしかった」
「頼っています。ベッドも使わせていただいています!」
「そのような意味ではない。私を直接頼ってほしい」
「そう言われても……どうすればいいですか?」
「どうするか教えてもいいか?」
「ぜひ教えてください!」
次の瞬間、クオンの手が伸びてリーナを抱きしめた。
「私に寄りかかれ。支えている。大丈夫だ」
温かい……。
リーナはクオンのぬくもりによって癒されていくような気がした。
「クオン様は優しいです。私を励まそうとしてくれているのがわかります」
「悲しい時やつらい時には私を頼ってほしい。リーナを支える。安心させたい」
「とても嬉しいです。こうしていると安心します」
「私も同じだ。安心する」
優しい時間が流れていった。





