210 午後の調査(一)
セイフリードとの昼食時間は非常に早く終わった。
午後の調査が始まるまでには時間がある。
そこで午前中の調査がどのようなものだったかをリーナがセイフリードに報告し、メイベルが内容を書き留めておくことになった。
「ミレニアスが調査に消極的であることは想定内だ」
リーナの説明が終わると、セイフリードはいつも通りの冷静な口調で言った。
「お前の素性調査は個人の問題だけではない。インヴァネス大公家とミレニアス王家、そしてエルグラード王家とレーベルオード伯爵家を巻き込む重大事項だ。簡単に判断できるわけがない。調査の結果も重要だが、そのあとでどのような交渉をするかの方がより重要だ」
「そうなのですね」
「どのような結果が出ても、兄上がいる。お前は幸運だ」
その通りだとリーナは思った。
「とても心強いです」
リーナは右手を見つめた。
クオンにもらった指輪が美しく輝いている。
リーナは指輪の力を確かめるように手を添えた。
クオン様……。
そう思った時だった。
突然ドアが開く。
部屋へ入った来たのはクオンだった。
「午後の調査が始まる。移動する」
「はい」
リーナは嬉しそうに答えると、クオンの側へ行った。
「どうした? 何か良いことでもあったのか?」
午前中の調査は散々だったとクオンは感じていただけに、リーナの明るい表情を見てほっとした。
「クオン様のことを考えていたのです。丁度来てくださったので嬉しくなりました」
「私のことを考えていたのか?」
意外だと感じたクオンは驚いた。
「守りの指輪を見ていたのです」
クオンはリーナの右手を見つめた。
「そうか。少しは元気が出たか?」
「出ました! 午後の調査も頑張ります!」
クオンは優しく微笑むとリーナの手を取った。
「行くぞ」
「はい!」
手をつないで部屋を出ていく二人。
「恐らく無自覚だ」
「恐らくそうではないかと」
セイフリードとメイベルは呟いた。





