207 調査(二)
リーナは分厚い質問書に回答を記入することになった。
インヴァネス大公の娘であれば知っていると思われるような内容について、どの程度正確に答えることができるかを確認するためだった。
十年以上も前のことになるため、記憶にないこと、質問に答えられない場合もありえる。
全問正解しなければいけないということではないため、はっきりしない場合は曖昧な答えを書かず無記入にするということだった。
全然書けない……。
リーナはずっと自分はエルグラード人で、エルグラードで生まれて育ったと思っていた。
ミレニアスという国の基本知識や常識問題については全く答えられなかった。
「あの……質問したいことがあるのですが、よろしいでしょうか?」
「どのようなことですか?」
調査員の一人が応対役として返事をした。
「私がインヴァネス大公夫妻の娘かどうかはわかりません。それを調査するためにこのような質問書に答えると思うのですが、おかしいと思うことがあります。そのことについて、お聞きしてもいいでしょうか?」
「おかしいと思うこととは何ですか?」
「私の世話役は何名だったかという質問があります。何人もいたということは答えられますが、毎日同じ人や数がいるわけでもありませんでした。はっきりしないので無記入になるのでしょうか?」
「曖昧な回答は困ります。無記入で結構です」
調査員が答えた。
「毎朝何時に起床していたかという質問があります。起床時間は常に同じではありませんでした。毎朝同じではないのではっきりとしていません。無記入になるのでしょうか?」
「はっきりしないものは無記入です」
「ミレニアス王や王太子の名前など、王家や王族の構成に関する質問があります。ミレニアスでは一般常識だと思うのですが、当時の私はどの国に住んでいるのかを知りませんでした。ですので、答えられるわけがありません。わからないことがすでにわかっているのに、なぜこのような質問があるのでしょうか?」
調査員たちは誰も答えられなかった。
「この質問書は本当に七歳の子供向けとして作成されたものなのでしょうか? もっと年上の者を前提として作成されている気がするのですが?」
クオンは質問書の内容が気になった。
「どのような質問が書かれているのか知りたい。質問内容が不適切なものばかりでは、質問書の作成段階で問題があったことになる。立会人が確認すべきではないか?」
「質問書の作成は王の臣下が行っており、インヴァネス大公家は一切関わっていません」
フェリックスも同じく、質問書の内容に疑問を持った。
「僕が知る情報では、姉上は王宮で暮らす王族とは違う生活をしていました。だというのに、王宮で暮らす王族の生活や教育を前提に質問しているのでは? それでは姉上が答えることはできません。曖昧な答えが禁止ならなおさらです。僕も立会人による質問書の確認を要求します」
調査員が話し合う。
しかし、ミレニアス王の許可がなければ質問書を見せることはできないという判断になった。
「質問書の内容が不適切なものばかりであれば、質問書による調査は意味がない。だというのに確認できないだと? 立会人が何かを確認を要求するたび、ミレニアス王の許可が必要だという気か? ふざけるな!」
クオンが怒りをあらわにすると、一気に部屋の空気が張り詰めた。





