201 女性の間(二)
一時間後。
メイベルは疲れていることを理由にリーナと一緒に退出することを告げた。
アリアとシャーロットはリーナだけを引き留めたが、メイベルが残らせるわけがない。
明日の予定に備えて早めに休むからと言って辞退し、リーナと二人で部屋を退出した。
自分の部屋に着くと、リーナとメイベルは揃って大きな息を吐いた。
「メイベルさん、すごかったです! 一言もしゃべらずに終わりました!」
リーナは部屋を出る時に軽く頭を下げるだけで終わりだった。
「こういうのはアリシアやローラの方が得意なのよ。ちょっと不安だったけど、なんとかなったわね。一時間で良かったわ。二時間だったら厳しいわ」
「余裕そうでしたけれど?」
「社交は戦いと同じなの。不安そうに見えてしまったら負けよ。どんどん相手に押されてつけ込まれてしまうわ」
「戦い……」
「もしアリシアやローラがいたら不合格だと言われたでしょうね」
「不合格? どうしてですか?」
「相手の情報を入手できなかったからよ」
メイベルは自分たちの情報を与えないため、アリアとシャーロットが興味を持ちそうな一般的な話題として婚活を取り上げた。
インヴァネス大公子と年齢差のある婚約者候補だけに、飾りでしかないのは最初からわかっている。
婚約者候補から外されたあとの婚活に興味があると思ったからで、その狙いは見事に当たった。
しかし、二人は次々とメイベルに婚活の質問を重ね、メイベルがそれに応える形になった。
そのせいで二人やミレニアス側の情報をメイベルが質問しにくいまま時間になってしまった。
「単に一時間をやり過ごすだけなら上々、リーナが話さないで済むようにできた部分は合格でしょうけれど、エルグラードの婚活情報を与えてしまったわ。全てを合格にしないと社交上手とは言えないのよ」
「社交は難しそうです」
リーナとメイベルは晩餐会やその食事について話していたが、ドアがノックされたために中断した。
部屋に来たのは未成年であることを理由に早めに退出したセイフリード、側近として一緒に退出したパスカルだった。
「時間的にもさっさと終える。何か問題があったか?」
メイベルは女官たちがリーナと話したがったこと、レーベルオード伯爵家のことで質問してきたこと、一言もしゃべらせずに別の話題で対応したことを報告した。
「予想通りだ。余計な事を言っていないだろうな?」
「言っていません」
「明日は午前中だけ外出する。大公家の配慮で領都観光をすることになった。お前たちも同行しろ。九時までに僕の部屋に来い」
「かしこまりました」
「リーナのドレスは贈り物だけにもらっていい。だが、宝飾品は借り物だ。失くしたり傷つけたりすると問題になる。さっさと返しておけ」
リーナは自分がまだ借りた宝飾品を身に着けたままであることに気付いた。
「申し訳ありません! すぐに外して返します!」
「デカベルの不手際だ」
「申し訳ありません。すぐに返却手続きをします」
「早く寝ろ。何かあるか?」
セイフリードが視線をパスカルに向けた。
パスカルはリーナとメイベルに向けて優しく微笑んだ。
「二人とも疲れたはずです。ゆっくりと休んでください。何かあれば遠慮なく言ってください。早急に対処します」
「わかりました」
「ありがとうございます」
セイフリードとパスカルが部屋を退出する。
リーナはすぐに宝飾品を外し、メイベルが返却するために部屋付きの侍女を呼んだ。





