20 追加場所
新しく担当する場所は三カ所ある。
リーナはこれまでの控えの間と同じような部屋だと思ったが、より広い控えの間だった。
「……広いですね」
控えの間に合わせたのか、トイレも広い。
これまでの掃除場所が約二倍になったようなものだ。
未使用でなければ掃除が大変そうだった。
「これまでのように楽な場所ではありません」
リーナに比較的楽な場所が任されたのは下働きだからであり、必ず4時間内に終わらせて地下へ戻すためだった。
だが、召使いであれば関係ない。通常時間で掃除するのであれば余計に。
「ここは会議に使用されることもあるので、トイレも使用頻度が高いのです。備品交換も早く、タオルもよく紛失します。備品管理の重要度が増すでしょう」
リーナはこれまでに担当しているのと同じようなトイレだと思っていた。
自分の甘さを思い知るしかない。
「二階全体がよく使用されるので、トイレもこまめに掃除します。清潔さを保つようにすることで、後宮内の掃除が行き届いていると証明しなければなりません。このような状態の場合は報告が必要です」
「はい」
「トイレの巡回書類には評価という項目があります」
五段階評価で、綺麗な状態であれば五をつける。
使用されていれば評価は次第に下がる。
普通が三。やや汚いが二。
ここまでは評価をするだけでいい。
かなり汚れている場合は一をつけ、清掃部に報告して掃除の指示を出して貰う。
「このように記入します」
メリーネは赤の控えの間と書かれた行を探し、書類の評価の部分に一と記入した。
「備品についても確認します」
メリーネが戸棚を開けると備品があった。しかし、トイレットペーパーもタオルも数が少ない。
「またタオルが紛失していますね」
一目見ただけでメリーネは断定した。
「使用されたためではないのでしょうか?」
「これだけ備品のタオルが少なければ、使用済みのタオルがもっと多いはずです。クリーニングに出したということであれば、その後で補充されるのでもっとあるはずです」
「なるほど!」
さすが清掃部長だとリーナは思った。
「手を拭いた後の使用済みタオルは、手洗い場の下にある箱にいれるのは知っていますね?」
「はい」
「ですが、ハンカチがないことを理由に持ち帰ってしまう者がいます」
後で返せばいいと思い、別のトイレの箱に入れているのであればいい。
だが、月単位でタオルの総数が減っている。
誰かが持ち去ったままになっているのは明らかだった。
「外部の者が持って行ってしまうとわかりません。その場合は仕方がないのですが、それを見た者も無料で貰えると勘違いしている場合があります」
普通に考えれば盗難だ。
しかし、誰が持って行ってしまったのかわからない。
返せとも弁償しろとも言えない。
あまりにもタオルの紛失、正確には盗難が多いため、最高級品だったタオルが高級品に格下げされたほどだ。
「ここは掃除後に備品が補充されます。ですが、書類には掃除する前の評価や備品数を記入します。今ある備品数を数えなさい」
「はい」
リーナがタオル個数を確認すると、メリーネが書類に記入した。
「報告という欄があります。これは、掃除や備品不足を報告した時に記入します」
誰に報告したのかを書く欄で、侍女であれば侍女と書く。侍女見習いなら侍女見習いと書けばいい。
「一の数字でここが無記入なのは、誰にも報告していないということです。不手際になります」
「はい」
「清掃部の通常勤務は十六時までになるので、それまでに報告しなさい。でなければ、命令や指示が出せません」
リーナの勤務時間は十七時まで。
十六時から十七時の間に臨時清掃が必要な場所が見つかった場合は掃除部長に直接伝える。
細々とした説明を聞きながら、リーナは新しい仕事について教わった。
この日はただ報告するだけでいいが、翌日からはリーナが掃除をしなければならない。
リーナが担当する場所が巡回の際に汚れていれば、再掃除の指示後にリーナが掃除しなければならなくなる。
早朝勤務のせいで掃除は一回だけだったが、これからは一日数回掃除しなければならないこともありえる。
相当大変そうだとリーナは感じた。
「私は忙しいので、巡回ルートについてはザビーネに案内させます」
「ザビーネ様ですね。侍女の方でしょうか?」
「副部長です。私のライバルです」
ライバルという言葉にリーナは困惑した。
あまりいい印象がする言葉とは思えない。
「ザビーネについて何かあれば、直接私に言いなさい。清掃部でザビーネよりも上なのは、私だけです。他の者に伝えても意味がありません」
「わかりました」
「ザビーネの失態になりそうなことは絶対に隠してはいけません。ザビーネが何も言わないように指示をしても、従う必要はありません。自らの失態を握りつぶそうとする卑劣な行為です。わかりましたね?」
「……わかりました」
リーナはメリーネの迫力に圧倒された。
さすが清掃部長。
凄く怖いと実感した。





