195 馬車の中(一)
翌日の出発時、リーナとメイベルの馬車に男性達が乗り込んできた。
ヘンデル、パスカル、ロジャー、ローレン。
王族付きの側近全員とも言う。
「今日は俺たちが一緒だから」
ヘンデルがにこやかに告げた。
早速、メイベルが質問をする。
「ウェイゼリックまでこのままということでしょうか?」
ウェイゼリックというのは、インヴァネス大公領の領都のこと。
「向こうの馬車の状況次第かな。女性だけでくつろいでいるところを悪いねえ。座席は男女で分けるから、女性はゆったり座れるよ」
進行方向を向く座席にヘンデル、パスカル、ロジャー、ローレンの順で座り、向かい側にリーナ、メイベルの順で座ることになった。
「なんで俺たちがこっちかというと、兄弟だけで過ごすためだ。普段は兄弟全員が揃うことなんてないから、この機会に時間を取りたいってクオンが言い出してさ」
「そうでしたか。再編成されたあとはそのまま固定されると思っていました」
少しでも雰囲気を和らげようとメイベルが口を開いた。
「午前中はこのままだよ。昼食の時にまた確認する。誰かが向こうの馬車に移るかもしれないし、向こうの馬車からこっちに誰かが来る可能性もある。喧嘩していなければいいけど、第二と第四が危ないかなあ」
リーナとメイベルはエゼルバードとセイフリードがことあるごとに対立していたことを思い出した。
「まあ、クオンに任せておけばいいよ。それにしてもいい感じの指輪を貰ったねえ」
ヘンデルはにこにこしながらリーナの指輪を話題にした。
「宝石自体は小さいけれど数が多い。贅沢な感じがするよね」
リーナは緊張した。
「本当に……いいのでしょうか?」
「うん。いいんだよ。これは真珠と同じだ」
リーナはハッとした。
「一粒自体は小さい。でも、確かな輝きを宿している。それが多く集まることによって誰もが認めるほどの素晴らしいものになる。指輪に込められた想いを大事にするといいよ」
「そうですね。大事にします」
リーナはその気持ちをあらわすように指輪に被せるように左手を置いた。
「指輪からパワーをもらったら左手はずらして。見えないと牽制の効果がない」
「そうでした!」
リーナはすぐに左手をずらして置いた。
右手にある美しい輝きにはクオンの想いが込められている。
本当に素敵な指輪だとリーナは思った。





