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後宮は有料です! 【書籍化】  作者: 美雪
第三章 ミレニアス編
191/1358

191 争いの種(二)



「兄上の侍女ではなく僕の侍女にしたい」

「それにつきましても、王太子殿下に直接お聞きください」


 パスカルはそう言うしかない。


「リーナは争いの種だ。誰かがしっかりと管理した方がいい」


 セイフリードはずっと感じて来たことを言葉にした。


「兄上の侍女だというのに、エゼルバードやレイフィールが気にしている。誕生日プレゼントを贈るほどだ。なぜだ?」

「単に気になるからではないでしょうか?」


 パスカルは慎重に言葉を選ばなければと感じた。


「リーナは王太子殿下、第二王子殿下、第三王子殿下のために貢献したことがあります。そのせいで好印象を持つのは当然のこと。役立つ者であれば自分の管轄にしたいということではないかと」

「兄上から奪うつもりか?」

「いいえ。奪えないからこそ、今のような状況なのだと思います」


 パスカルはそう思っていた。


「第二王子殿下や第三王子殿下にとって王太子殿下は絶対です。王太子殿下が望まれるものを欲しがるわけにはいきません。ですが、どのような意味で王太子殿下がリーナを評価しているのかがわかりにくいのではないかと。正直、私もわかりかねます」


 それはパスカルの本音。


「女性として好ましいと感じられているようですが、個人的に親しくなろうとされているようにも見えません。適切な距離を置こうとされているようでいて、他の者との扱いが違うのも明らかです。あくまでも推測ですが、王太子殿下もご自身の心を計りかねているのかもしれません」


 それについてはセイフリードも考えていた。


「兄上は女性を好きになったことがあるのか?」

「恋愛感情という意味ではわかりません。王太子殿下のプライベート担当はヘンデルですが、ヘンデルも対応しにくいと感じています。判断が難しいのではないかと」

「エゼルバードはリーナをかなり気に入っている。わざわざ早起きをしていた。この点は警戒すべき部分だ」


 そうかもしれないとパスカルは思った。


「エゼルバードは兄上が大好きだ。そのせいで兄上が気にするリーナをエゼルバードが気にするのもわかる。だが、それだけで終わらない場合は面倒なことになる」

「それはわかっております」

「やはり争いの種だ。忌々しい!」

「忌々しいのであれば、欲しがらなければいいのではないでしょうか?」

「わかっていない。エゼルバードよりも僕の方がましだろう?」


 パスカルは無言。


「なぜ、肯定しない? エゼルバードの方がましだというのか?」

「正直に申し上げますが、暴言を吐く男性と優しい微笑みを作れる男性では、後者の方が有利です」

「僕だって作り笑いぐらいはできる」

「では、してみてください。どの程度か確かめます」

「そんな簡単にできるわけがないだろう!」

「第二王子は慈愛溢れる偽りの笑顔と、冷酷な表情を一瞬で使い分けることができます。表情を変化させる能力に関しては、殿下よりも上です」

「簡単に言うな! だったらお前がやってみろ!」


 セイフリードは挑発した。


「笑顔ですか?」

「そうだ。慈愛溢れる偽りの笑顔をしてみろ」


 パスカルは微笑んだ。


 その表情は温かく優しい。


「いかがですか?」


 パスカルは優しい口調で丁寧に尋ねた。


 セイフリードは相当苛ついた。


 普通に多くの人々を騙せる笑顔だと感じたために。


「嘘臭い。リーナは騙せても、僕は騙せない」

「状況的に私がどのような表情をしても、殿下には偽りの笑顔にしか見えません」

「言い訳だ」

「では、殿下の番です」

「なんだと?」

「慈愛溢れる偽りの笑顔をしてみてください。それができなければ、第二王子殿下の方がましということでは?」


 セイフリードはパスカルを睨みつけた。


「ムカつく!」

「殿下の優れている部分は明晰な頭脳だけではありません。その顔立ちも使えます。活用されてはいかがですか?」


 それはセイフリード自身も考えたことがある。


「第二王子殿下に勝ちたければ、リーナには優しくしてください」


 セイフリードはそっぽを向いた。


「僕の本を持って来い。赤いカバーのついた本だ。リーナたちがいなければ部屋に戻る」

「わかりました。では、こちらでお待ちください」


 パスカルは立ち上がるとセイフリードの部屋に向かった。


 その足取りは速いが心は重い。


 争いの種……。


 セイフリードの言葉は、パスカルに強い不安を感じさせていた。



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