185 お揃いがいい
クオンは慎重で熟考する性格。
しかし、専門店だけに商品数が多く、一つ一つじっくりと選んでいる時間はない。
そのためにもリーナに手伝ってもらうつもりだった。
二人がさまざまな商品を見ていると、ヘンデルとパスカルが来た。
「ちょっとごめん。確認してほしい」
ヘンデルとパスカルはそれぞれが選んだ小物入れをトレーに乗せていた。
「数がないらしくて全員分を同じにするのは無理。なんで、同一価格帯でデザインだけ変えることにした。どう?」
「もっと良いものにしろ」
クオンは即断した。
「さすが目が肥えているなあ。でも、全員分だと予算がかかる。経費節減だよね?」
「私が個人的に出すからいい。複数でもデザインは全てバラの花にしろ」
「バラの花に?」
ヘンデルやパスカルが選んだのは男性が好みそうなデザインばかりで、バラの花のデザインはなかった。
「バラは国花だ。エルグラードを感じられる品がいい。しばし国を離れるだろう?」
さすが。
ヘンデルとパスカルは英断だと思った。
「もう一回選び直す。そっちはどう?」
「丁度候補が決まったところだ」
クオンがリーナと一緒に選んだのは銀色の薬入れで、蓋の部分に細工が施されたものだった。
「どれがいい?」
「これが気になります」
リーナが選んだのはバラの螺鈿細工が施されたものだった。
「これは何でしょうか? 宝石みたいに綺麗ですけれど、石に見えません」
「貝だ。殻の内側をはがして張り付けている」
クオンが答えた。
「真珠のような光沢や質感があって美しい。気に入ったか?」
「美しいです。でも、その分高そうです」
「内陸部では珍しいかもしれないが、海の近くではそれほどでもないだろう」
「さまざまなものを見ましたが、これが一番惹かれました」
「色はどうだ? 白とピンクがある」
「白がいいです」
「これにする。五つ買う」
「なんで五個?」
わからないとヘンデルは思った。
「私と弟たちの分だ。もう一つはリーナに与える。一緒に選んだ記念だ」
「私の分ですか?」
リーナは驚いた。
「一番惹かれたのだろう? リーナにも与えたい」
「ありがとございます! 嬉しいです!」
リーナは満面の笑みを浮かべた。
「リーナの分はピンクにするか?」
「白がいいです。お揃いの方が嬉しいです。その方が記念になります」
「そうだな」
クオンもまた笑みを浮かべた。
「思ったよりも早く選び終わった。第一組と第二組のも見てみるか」
「そうしてくれると嬉しい。早く決まる」
「支払いはあとでまとめてする」
クオンはそう言うと、リーナの手を取って移動した。
ヘンデルはすぐに店員を呼んだ。
「これと同じもの、七個ある?」
「ございます」
「二個分は俺が個人的に買うから今支払う。いくら?」
店員から聞くと、ヘンデルは小切手帳を取り出して支払いを済ませた。
「ご家族の分ですか?」
妹たちへの土産にするのかもしれないとパスカルは思った。
「違う。俺とパスカルの分だよ。クオンたちとお揃いのやつが欲しいよね?」
ヘンデルらしいと思いながらパスカルは頷いた。





