184 連れて来た理由
王太子一行は見張りの塔へ向かった。
リーナはすでに見学していたが、クオンがレールスの街並みを一望したいと希望した。
「王都にもこのように街並みを見渡せる場所がある。行ったことがあるか?」
「ありません」
リーナは正直に答えた。
「そうか。では、いつか見せてやる。王都がいかに巨大かがわかる」
「クオン様から見るとレールスの景色はどうなのでしょうか?」
「国境が近いと感じる」
クオンの答えはリーナの予想外だった。
てっきり街並みのこと、自然が多いことなどを言うと思っていたが、全然そうではなかった。
「要塞からの方がよく見える。夜明けと同時にどの程度まで視認できるのかを確認した。防衛拠点の視界は非常に重要で、戦争になってから調べるのでは遅い」
戦争!
リーナは驚いた。
「もしかして、エルグラードとミレニアスは仲が悪いのでしょうか?」
「友好国ではある。だが、国境問題を抱えている」
エルグラードとミレニアスの国境付近では慢性的な問題をいくつも抱えている。
最も懸念されているのは犯罪者の密入国。
森の中に国境線があるために密入国がしやすく、取り締まるのが難しい。
エルグラード側はミレニアスの方で密入国者が森に入らないような対策や、エルグラードから国外逃亡した犯罪者をミレニアスで捕縛してほしいと要請している。
だが、ミレニアス側における実害がないことで費用負担も多いことから非協力的だった。
今回のミレニアス訪問はそのような問題について話し合い、解決を目指していきたいことをクオンは話した。
「とても難しそうです……」
「そうだな。だが、王太子としてエルグラードと国民を守らなければならない。良い成果を出せるよう努める」
クオンはリーナの手を優しく握り直した。
「そろそろ降りる。ゆっくりでいい」
「はい」
二人は階段へ向かう。
その様子を少し離れていた場所から見ていたヘンデルは、どう見てもデート中のカップルだと思っていた。
「もっと甘さがほしいなあ。パスカルはどう思う?」
「尾行されています」
「第二と第三の配下だよ。いつものことじゃん」
お兄ちゃんのことが大好き過ぎる弟たちだからなあ。
それはそれで良いことだとヘンデルは思っていた。
「女性連れもいます」
「別関係もいるのかな? まあ、こっちも離れて護衛を配置している。距離が近い者だけは要注意で」
「わかりました」
ヘンデルとパスカルは急ぎ足でクオンとリーナのあとを追った。
王太子一行は繁華街の視察に向かった。
クオンは小物入れを専門に扱う店に目を留めた。
「ここに入る」
「ここ?」
ヘンデルは不思議に思った。
「もしかして、土産品がほしい?」
「弟たちのせいでリーナが苦労した。何か買うつもりで連れて来た」
「ああ、なるほど」
それでリーナを視察に連れて行くことにしたのかとヘンデルは思った。
「だったら小物じゃなくてアクセサリーにしたら?」
クオンはリーナに視線を変えた。
「アクセサリーの方がいいか?」
「何もいらないです」
リーナは迷うことなく答えた。
「そういうわけにはいかない。弟たちは我儘だ。そのせいで面倒に巻き込まれたはずだ」
「そうですけれど、私だけではないです。全員が大変でした。パスカル様やロジャー様の方がもっともっと苦労されていたと思います」
リーナは正直だった。
「私だけ何かを買っていただくわけにはいきません」
「わかった。第一組の分を買う。どのぐらいいる?」
大体の人数をヘンデルが答えた。
「でも、俺たちだって大変だったよ? 第一組だけ全員何かもらえるのは不公平な気がする」
だからリーナちゃんに宝飾品を買うだけでいいよ。
ヘンデルがそう言い終える前に、
「第二組の分も買う。それでいいだろう」
「クオンらしいなあ」
ヘンデルは肩を落とした。
「なぜがっかりする? 好きな小物を選べるだろう?」
「全員支給なら同じものがいいんじゃん?」
「同行者は好きなものを選んでいい」
「お言葉ですが、護衛が優先です」
クロイゼルが答えた。
「選定は別の者に任せたく」
「第一組のものはパスカル、第二組のものはヘンデルが選べ。リーナは好きなものを選んでいい」
リーナは首を傾げた。
「私は第一組ですので、パスカル様にお任せします」
「それでは一緒に連れて来た意味がない」
「でも、お揃いの方が嬉しいです。一人だけ仲間はずれは寂しいので」
なるほどとクオンは思った。
「では、私が買うものを探す。手伝ってくれるか?」
「はい!」
リーナはクオンの買い物を手伝うことになった。
なんかいい感じ!
ヘンデルはホッと胸をなでおろした。





