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後宮は有料です! 【書籍化】  作者: 美雪
第三章 ミレニアス編
183/1357

183 手をつなぐ


 王太子一行は昼食場所を第一組が宿泊するホテルにした。


 明日になればエゼルバードとセイフリードが要塞に来るが、レールスに到着するまでの道中で問題がなかったはずがない。


 クオンとしては気になっていたために、パスカルとロジャーを呼んで報告させることにした。


 王太子が少数の護衛と外出、極秘でホテルに来ていると知ったパスカルとロジャーは、即座に昼食の個室へかけつけた。


「弟たちが苦労をかけた」


 何も報告していない状態でクオンからそう言われたパスカルとロジャーは深々と頭を下げた。


「仲が悪いのはわかっている。言い合いは仕方がない」


 見抜かれている。


 パスカルとロジャーだけでなく、護衛たちもそう思うしかない。


「ミレニアスに行くにあたって深刻な問題はあるか? あるようなら今のうちに改善しておかなくてはならない」

「深刻とは言いにくいのですが、懸念すべきことがあります」


 パスカルは伝えておくべきだと判断した。


「今回のミレニアス行きにあたっては侍従が同行していません。側近が世話役を兼ねることになっていますが、重要度が高いものを優先して対応します。その影響で侍女が補佐的な役回りをすることが多くありました」


 侍女……。


 クオンが思い浮かべたのはリーナだった。


「侍女は二名いるのですが、リーナだけが呼ばれることが多くありました。何事も経験ではあるのですが、二人の王子の間を行き来するのは大変です。国境を越えてからも同じような状態は避けたいと思う次第です」


 クオンは考え込んだ。


「リーナを呼べ。午後の視察に連れて行く」


 その場にいる全員が、なぜそうなるのかと不思議に思った。


「繁華街を回る。弟たちの我儘に付き合わせただけに、ちょっとした気晴らしだ」


 王太子は女性に厳しい。視察にも連れていかない。邪魔だと判断する。


 そんな王太子が自ら女性を同行させると判断した。


 そのことにクオン以外の全員が驚かずにはいられない。


 デートじゃん! 


 ヘンデルは心の中で叫んでいた。




 午後の視察に行くのは全部で六名。


 クオン、ヘンデル、パスカル、クロイゼル、アンフェル、そして、リーナだった。


 リーナが同行するのは普通の観光客に見えるようにするためというのが表向きの理由だった。


 チャンス。これは絶対に大チャンス!


 ヘンデルはそう思っていた。


 ミレニアスの移動中はずっとクオンの側にリーナをつけ、二人の仲をより好意的なものに変化させていくべきだと進言したというのに、クオンに却下されていた。


 王太子の移動日が増えるほど王都不在が長くなり、費用も増えていく。


 公務であるため、私的な目的を優先するなどもってのほかという正論にヘンデルは負けた。


 この機会で取り返す!


 ヘンデルはかなりの気合を入れていた。


「行くぞ」


 誰よりも先に歩き出したクオンに、ヘンデルは早速心の中でダメ出しをした。


「待って!」

「なんだ?」

「リーナちゃんを加えたのはカモフラージュのためだよ? なんで置いて行くのさ!」

「ついてくればいいだけだ」


 恋愛音痴め!


 ヘンデルは心の中で二度目の駄目出しをした。


「よく考えよ。俺たちは六人。いかにも護衛って感じのクロイゼル達が一緒だ。クオンは護衛役を演じることなんかできない。となると、クオンとリーナちゃんが護衛対象で、俺とパスカルが案内役って配役に決まってるじゃん!」

「勝手な配役をするな」

「じゃあ、パスカルと手をつながせる? クオンの弟カップルに偽装する設定で」


 クオンの表情が一瞬で固まった。


「私は護衛として同行します。いつでも剣を抜けるよう手は空けておくべきかと」


 パスカルは理由をつけて辞退した。


「じゃあ、俺がリーナちゃんと手をつなごうかな? はぐれちゃうと困るし、楽しく一緒におしゃべりしていれば観光客に見える。丁度良いよね」

「却下だ」


 ヘンデルの予想通り、クオンは反対した。


「リーナは私の側に来い。ヘンデルには近づくな」

「俺、案内役だし。どうしても側になるよ? パスカルだって、クオンとリーナちゃんが手をつないで移動した方がいいと思うよね?」


 ヘンデルはパスカルを味方につけようとした。


「手をつなぐ必要はない。パスカルならそう判断する」


 クオンもまたパスカルを味方につけようとした。


 クオンとヘンデルに見つめられたパスカルは決断するしかない。


「恐れながら申し上げます。王太子殿下の移動は速く、リーナがついていくのは大変ではないかと思われます。速度調整のためにも、王太子殿下がリーナの手を引くことについては一考の余地があると思われます」


 クオンはリーナに視線を移した。


「嫌ではないか?」

「手をつなぐことでしょうか?」

「そうだ」

「光栄です」


 リーナは答えた。


「でも、大丈夫です。私の足が遅くてご迷惑をおかけするわけにはいきません。遅れそうな場合は走りますから!」


 クオンはリーナを走らせるつもりはなかった。


「手をつなぐ。そうすれば遅れない。歩いて移動できる」

「わかりました。ご配慮に深く感謝いたします」


 クオンとリーナが手をつないだ。


 やった! 手をつないだ!


 ヘンデルは大きな達成感を得た。



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