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後宮は有料です! 【書籍化】  作者: 美雪
第三章 ミレニアス編
174/1357

174 シェーブル



 シェーブルは王都と地方を結ぶ継地点として栄えている町の一つ。


 複数の街道へと分岐しているために利便性が高いことに加え、旅行や商業を司る神マーリクの神殿があることで知られていた。


 待機時間が延長されるとわかり、リーナとメイベルは護衛たちに守られながら、シェーブルの中心地である大広場を見学しに向かった。


「たくさんのお店があるわね。あそこにあるのはパン屋じゃない? 見てみる?」

「そうですね」


 二人は日持ちしそうな焼き菓子が売っていないかを確認することにした。


「これ、可愛いですね!」


 リーナが目を留めたのは一口パイという商品。


「普通はホールやそれを切り分けたものなのに、一口サイズは珍しいわね」

「これならクッキーのように手でつまんで食べることができます」

「そうね」


 馬車の中で食べるのに丁度良さそうだと二人は思った。


「リンゴ味やカボチャ味もあります。果物と野菜がとれますね!」

「どの程度の栄養があるのかはわからないけれど、一応はそうなるわね」

「これならお菓子として食べていただけるかもしれません。買いたいです」

「優しいだけでなく、賢い選択だと思うわよ」


 リーナはようやくお金を自分で払う経験ができた。


 だが、キリがいい値段だったこともあり、おつりに硬貨がなかった。


「マーリク神殿にも行きましょうか」


 旅人の多くは商人。旅が無事終われば商売もうまくいくということで、マーリク神は商売の神、あるいは伝令に行く者を助ける交通の神として信仰を集めている。


 神殿はかなりの古さだったが、多くの参拝客でにぎわっていた。


「外観は古いですけれど、中はとても立派ですね」

「そうね。あれで小銭に崩せるわよ」


 メイベルが見つけたのは出入口の側で販売されているロウソクだった。


「買ったロウソクに火をつけて、祭壇に飾ればいいのでしょうか?」

「そう思うでしょう? でも、供物箱に入れるのが正解よ」


 ロウソクを購入して祭壇に捧げるのは、この先の道のりが明るく照らされるように祈るのと同じ。


 しかし、祭壇で灯すことができるロウソクの数は限られているため、買ったロウソクは供物箱に入れておく。


 すると、神官が順番にロウソクの火をつけ、祭壇に飾ってくれることをメイベルが説明した。


「ロウソクの火を捧げることを献灯っていうのよ」

「さすがメイベルさんです。詳しいですね!」

「夫がお土産に買って来たパンフレットに載っていたのよ」

「お土産のパンフレットでも勉強ができるということですね!」

「私もロウソクを購入するわ。供物としてお供えしておけば、この先もマーリク神が守ってくれるはずよ」


 リーナはロウソクを複数購入した。


「なぜそんなに買うの? 一本買えばいいだけでしょう?」


 小銭に崩すためにロウソクを買うのであれば、一本で十分だとメイベルは思った。


「これは一緒に旅行をしている人たちの分です。一人につき一本買うのは大変ですけれど、団体用の大きいロウソクを買えばまとめてお祈りできますよね!」

「リーナは本当に優しいわね。私も団体用の大きいロウソクを買うわ」


 購入したロウソクを捧げるために祭壇へ向かうと、相当古いとわかる石柱が中央にそびえ立っていた。


「あれがマーリク神よ。柱をご神体として祀っているの」


 二人はロウソクを供物箱に入れると、マーリク神とされている石柱に祈りを捧げた。


 この先の旅行が安全でありますように。無事帰って来ることができますように。


 リーナはメイベルと一緒に祭壇の側から離れると、改めて祭壇の方を振り返って見た。


「本当に立派な祭壇です。そして、献灯の光がとても綺麗です。人々の希望と祈りがたくさんある証拠ですね」

「そうね。私は供物箱の数も気になったわ。山積みだったし、何年分もありそうよね」

「ロウソクを灯す担当の神官も大変ですね」

「そうね。せっかくだからお土産コーナーにも寄りましょうか」


 神殿ではロウソク以外にも様々な品を売っている。


 神殿への寄付集めの物販で、最も人気があるのは旅行の安全祈願と商売繁盛のお守りだった。


「やっぱりお守りにする?」

「そうですね。でも、このしおりも素敵です。マーリク神の文様だなんて、縁起が良さそうです」

「好きなものを買えばいいわ」


 二人は土産物を購入した。


「買い物もできたし、お参りもできたし、外出して良かったわね」

「そうですね。小額紙幣も小銭も手に入れることができました」


 リーナとメイベルの笑顔を見た護衛たちも良かったと感じていた。





 ホテルに戻ると、ロビーにいた第四王子付きの護衛騎士が声をかけてきた。


「特別室の方へ来てください」


 何か用件だろうかと思いながらリーナとメイベルが向かうと、エゼルバードとロジャー、パスカルがそれぞれソファに座っていた。


「申し上げます。リーナ殿が戻られましたので、案内しました」


 案内した騎士がそういうと、メイベルがすぐに腰を深く落として一礼したため、リーナも同じようにした。


「外出していたそうですね。どこに行ってきたのですか?」


 エゼルバードが尋ねた。


「申し上げます。ホテル内の店を見た後、大広場とマーリク神殿に行ってまいりました」

「リーナはここに来なさい。他の者は下がっていいですよ」


 エゼルバードは微笑みながら自分の座っている横を軽く叩いた。


 リーナは緊張しながらソファに近寄り、一礼したあとにソファへ座った。


「退屈していたので、話し相手がほしいのです」


 自分が呼ばれた理由をリーナは理解した。


「その旅行用ドレスをどう思いますか?」

「とても美しいドレスです。動きやすくて実用的です」

「気に入りましたか?」

「はい。でも、私には少し豪華過ぎる気がします」

「そんなことはありません。とても似合っています。女性は美しく着飾るべきです。それも仕事の一つだと思いなさい」

「はい」

「ちなみに、そのドレスは私が選んだものです」

「第二王子殿下が?」


 エゼルバードの言葉を聞いたリーナは驚いた。


「ミレニアスでの衣装事情については衣装係よりも私の方が詳しいので、リーナの衣装については意見を出すことにしました。ミレニアス王族に会う機会もありますので、ふさわしい装いをしなければなりません」

「なるほど」

「私のことは名前と敬称で呼びなさい。国境までは忍んで旅行をしているようなものです。王子であることがわかるような呼称は状況によって控えなければなりません」

「エゼルバード様とお呼びすればいいでしょうか?」

「そうです。リーナへの配慮を示すためにも、特別な許可を与えてあげましょう」


 二人の会話をロジャーとパスカルは無言で聞いていた。


 国境まで忍んで旅行をしているような状態なのは事実。王子や敬称を呼ぶのを控えるのも正しい。


 しかし、だからといって王族を名前で呼んでいいとはならない。


 結局、エゼルバードは名前で呼ばれたいだけ。リーナをお気に入りに認定したのだと思っていた。


「退屈な馬車での移動時間に、リーナから面白い話を聞きたいと思っていました。ですが、シェーブルに宿泊することになりました」

「シェーブルに宿泊するのですか?」


 リーナは驚いてパスカルを見た。


 シェーブルは昼食のために寄るだけで、休憩のあとはまた馬車で出発する予定のはずだった。


「ロジャー、説明しなさい」

「馬車の点検を行った結果、何台かの馬車の車輪に問題が見つかった。総点検と車輪交換に時間がかかるため、シェーブルに宿泊することになった」


 シェーブルで昼食のために立ち寄ったホテルはウェストランドが所有するホテル。


 休憩用の部屋を確保していただけに、それを宿泊用にあてることになった。


「菓子を買いに行ったと聞きました。どのようなものを買ったのですか?」

「ホテル内のお店でカップケーキを買いました」

「ここのホテルで美味だとされているのはチョコレートです。あとで一緒に買いに行きましょう」


 エゼルバードは暇つぶしとして買い物の予定を入れた。


「外出先について詳しく説明しなさい」

「パン屋とマーリク神殿です」


 リーナは一口パイを購入したことや、神殿で旅の安全を祈願し、お守りなどを買ったことを話した。


「リーナは優しいですね。自分のことだけでなく、他の者の分まで祈願するとは」

「そう言っていただけて嬉しいです。祈願して良かったです」

「ところで、その一口パイというのはどのようなものですか? 本当に一口サイズなのですか?」

「お召し上がりになりますか?」

「見るだけでよかったのですが、暇なので味見をしてみましょうか」


 リーナが買ってきた一口パイとお茶が用意された。


 一口パイを食べたエゼルバードは眉をひそめた。


「塩気が強く油っぽいですね。中身もねっとりしています」


 エゼルバードはパイを飲み込むと、お茶を飲んだ。


 その行動を見たロジャーはエゼルバードなりに我慢していると思った。


 普通であれば、少しでも気に入らないものは絶対に食べない。


 毒のせいで味がおかしい場合に備え、少しでも違和感があれば食べないというのが王族の基本行動だった。


「このパイは美味しくありません。ですが、食べやすいように一口程度のサイズにしているという点は評価できます。ロジャー」

「なんだ?」

「もっと美味しい一口パイを作らせなさい。リンゴとカボチャ味です。チョコレートも。このようなものを食べていたのでは、リーナの味覚が育ちません」

「わかった」


 ロジャーはすぐに立ち上がると、用件を伝えに部屋を出た。


 リーナはエゼルバードの退屈しのぎとしての話を続けた。


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