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後宮は有料です! 【書籍化】  作者: 美雪
第三章 ミレニアス編
171/1358

171 商業棟



「リーナ用の財布を買いたいわ。ここの施設に詳しい者はいる?」


 メイベルは四人いる護衛に尋ねた。


「一階はほとんどが食品です。衣類や日用品は二階の方に扱う店があるはずですが、財布を売っているかどうかはわかりません」

「急ぎましょう、視察が早く終わるといけないわ」


 メイベルはリーナの手を取ると、急いで二階へ向かった。


「女性用の財布がほしいの。どこにお店があるか知っている?」


 メイベルは近くにある店の者に尋ねた。


「うちの商品を見てくれよ。いいものがあるよ!」


 メイベルはポケットから一ギール札を取り出した。


「商品ではなく情報を売らない?」

「このまままっすぐ、左側にあります。赤い看板のところがわかりやすい」


 教えてもらった店に行くと、メイベルはいくつかの財布を選んだ。


「この中から選んだらどうかしら?」


 メイベルが選んだのはいかにも女性らしい明るい色合いの財布だった。


「黄色にします。金運が上がると張り紙に書いてあります」

「縁起担ぎは大事よね!」


 メイベルは黄色の財布を購入してリーナに渡した。


 だが、ポケットに入らないことがわかった。


「バッグもほしいわね。お菓子も買いたいし、急ぎましょう!」


 自由行動の時間は限られている。


 商業施設が充実しているのはいいが、人が多く移動にも時間がかかる。


 メイベルとリーナは急ぎ足にすることで移動時間の短縮に務めた。


「あとはお菓子ね」

「そうですけれど、かなりたくさんあります。お店も種類も」


 どれにするか迷ってしまうとリーナは思った。


「大丈夫よ。店として売れ筋のものは目立つ場所に置いてあるわ。売れているのは人気がある証拠と思っていいのよ」

「では、目立つ場所にある商品を買えばいいということですね?」

「そうよ。でも、さっさと売りさばきたいものも目立つ場所や手前に置いてあるわ。食品の場合は消費期限を確認しないとね。すぐに食べてしまうものであればいいけれど、日持ちすると思って買ったらそうではなかったってことになると困るでしょう?」

「さすがメイベルさんです!」


 あまり時間がないのもあって、メイベルが目についた菓子箱を手に取り、リーナが消費期限を確認、問題なければそのまま購入することにした。


「取りあえずはここまでよ。馬車に戻りましょう」


 セイフリードよりも先に戻るため、リーナとメイベルは急いで出入口の方へ向かった。


 ところが、少し先に豪華な帽子をかぶった女性とその一行がいた。


「すごい帽子ですね……」


 生花に見間違うほどの精巧な花の飾りがふんだんに取り付けられ、白い鳥の羽飾りが何本もついている。


 ドレスのスカート部分もふんわりとして幅を取っており、どう見ても身分が高い裕福な者に見えた。


「あまり近づきたくないわね。問題を起こしたくないわ」


 豪華な帽子の女性一行も出入口の方へ向かって移動していたため、リーナたちは距離を取りながら同じ方へ進んだ。


 しかし、途中で豪華な帽子の女性の足が止まった。


 気になる店があったようで、付き添いの女性が店員と話し始める。


 時間がかかりそうだった。


「今のうちに追い抜きましょう」

「そうですね」


 リーナとメイベルは頷き合い、距離を詰めた。


 それによって、豪華な帽子の女性一行が誰なのかがわかった。


 キフェラ王女……!


 リーナは王族付きの侍女になる前、キフェラ王女と偶然会ったことがある。


 そのことをキフェラ王女が覚えていると面倒なことになる可能性が高いため、リーナはキフェラ王女からできるだけ離れ、可能な限り顔を合わせないようにすることになっていた。


 さっさと通り抜けるしかないわね!


 メイベルはキフェラ王女の視線が店の方に向いているうちに、後ろの方を通り抜ければいいと思った。


 だが、キフェラ王女の視線が移動した。


「そこの女性、待ちなさい! 緑のドレスよ!」


 キフェラ王女の声が響き渡る。


 自分のことだと思ったリーナは動揺しながらも立ち止まった。


 見つかった? でも、私以外にも緑のドレスを着ている人がいたのかもしれないし……。


 リーナがそう思っている間に、キフェラ王女が近寄って来た。


「リリーナ? ああ、やっぱりそうだわ!」


 リーナも周囲にいる者も一瞬で固まった。


「髪色を見て、もしかしてと思ったのよ。こんなところで会うなんて奇遇ね。どこに行くの?」


 ミレニアスに……。


 だが、言えないとリーナは思った。


 キフェラ王女はリーナが第一組にいることも、ミレニアスに行く理由も知らないはずだった。


「私が誰だか覚えていないわけではないでしょうね?」

「……ここは一般の人が多くいる駅です。軽々しくお名前を言うことはできません」

「その様子だとわかっているようね。遠出でもするの? 旅行? デート? 誰と一緒なの?」

「許可がないとお答えできないといいますか」

「誰の許可がいるっているのよ?」

「そこの鳥女! 僕の連れに近寄るな!」


 突然、鋭い声が響いた。


 声の主が誰だかわかった者は、心の中で盛大なため息をつくしかない。


「さっさと離れろ!」


 不機嫌極まりない表情を浮かべて近寄ってくる美少年は第四王子のセイフリード。


 側近であるパスカルや護衛騎士たちも一緒だった。


「あら? パスカルじゃないの。ということは」

「お待ちください。ここは目立ちます」


 パスカルはキフェラ王女を牽制した。


「連れって言ったわよね? もしかして、リリーナは私たちと一緒なの?」

「問題発生とみなす。女性たちを抱え、緊急移動を指示する」


 パスカルの指示を聞いた護衛たちは、リーナ、メイベル、キフェラ王女、その侍女のレーテルを抱え上げ、出入口に向かって走り出した。


「ちょっと! 緊急ってどういうことなのよ! パスカル、説明しなさい!」


 セイフリードは視線を驚き叫ぶキフェラ王女、黙って運ばれていくリーナたち、そしてパスカルに向けた。


「あの女は問題しか起こさない。出歩かせるな」

「担当者に強く注意しておきます」


 パスカルはそう答えたが、問題を起こすのはキフェラ王女だけとは限らなかった。


 いきなり鳥女とは……。


 セイフリードの暴言にパスカルは深いため息をつきたい気分だった。


「お前も担当者だろう?」

「申し訳ありません。以後、注意します。対応は私共にお任せください。突然叫ばれるのも、相手を不快にさせるとわかりきった言葉もお控えくださいますようお願い申し上げます」

「どのような問題も解決するのが優秀な側近だ。行くぞ」


 セイフリードが歩き出す。


 パスカルは黙ったままそのあとに続いた。


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