17 ラッキーデイ
パスカルを待たせないよう、リーナはできるだけ急いで購買部に戻った。
パスカルは十人以上の女性たちに囲まれていた。
「リーナ!」
リーナの姿を見ると、パスカルは嬉しそうに名前を呼んだ。
パスカルの周囲にいた女性たちの視線がリーナに集まる。
「お待たせして申し訳ありません」
リーナは女性たちの視線に緊張しながら頭を下げた。
「気にしなくていいよ。新商品のお菓子が出ていたから、どんな味なのか気になってしまってね。箱買いして近くにいる者に試食して貰った。評価が高いから王宮で配る分としてもう一箱買ったよ」
パスカルは箱を入れた紙袋を持っていた。
「リーナも食べたかった?」
「いいえ。大丈夫です」
「それは困るな。ちゃんと取っておいたのに」
パスカルはポケットから小さな包みを取り出した。
「これはリーナの分。あとで試食してみるといい。チョコレートだよ」
「ありがとうございます」
優しい……。
リーナは嬉しくなった。
パスカルは微笑むと、周囲にいる女性たちを見回した。
「試食に協力してくれてありがとう。僕はこれで失礼する。リーナはついてきて」
パスカルが移動していく。
リーナは女性たちに一礼すると、パスカルのあとに続いた。
無事メリーネに挨拶をしたあと、リーナは部屋に戻った。
本来は勤務時間だけに誰もいない。
パスカルに貰った新商品のチョコレートを食べてみることにした。
「甘くて美味しい!」
久しぶりに食べるチョコレートは、想像以上に美味しかった。
お金があればチョコレートを購買部で買える。お金がなくてもツケで買える。
だが、リーナはツケでお菓子を買うつもりはなかった。
いつか借金を返したら、自分のお金で買いに行きたい!
そのためにもっともっと頑張ろうと思った。
夕方になると、勤務時間を終えたカリンが戻って来た。
「カリンさん!」
リーナは真っ先にカリンに話を伝え、パスカルに貰ったお菓子を渡そうと思っていた。
「昇格したの?」
カリンはリーナの制服を見て驚いた。
「朝食後に呼ばれて、召使いになれました」
「大出世じゃない!」
リーナは下働きになって間もない。
これほど早い昇格は、間違いなくエリートコースに乗った証拠だった。
「自分でも信じられません。これからも真摯に励むようにと言われました」
「良かったわね! じゃあ、今夜はお祝いね!」
「まだお話があります」
「待って。私は仕事で汗だらけなの。まずは一緒に入浴に行きましょう」
「はい」
リーナはカリンと一緒に入浴施設に行った。
体を洗って大きな浴槽に浸かると、カリンに話の続きを聞かれる。
周囲にたくさんの人がいるのでなんとなく話しにくい。
困っていると、リーナが購買部にいたのを目撃した者が近づいて来た。
「外部の人と一緒にいたでしょう?」
なぜ外部の者と一緒だったのか、貢がれていたのかなどと質問される。
それを聞いた他の者も次々と寄って来た。
「凄い美形だったって聞いたわよ!」
「王子様みたいな人だったって」
「もしかして、本当に王子だったりして?」
「まさか! 王族が購買部に行くわけがないでしょう!」
「でも、後宮に出入りできる人だし、貴族?」
「官僚かも」
「偉そう」
「お金持ちかも?」
「もしかして、見染められたとか?」
「玉の輿じゃない!」
「凄いわ、リーナ!」
話が勝手に盛り上がっていく。
リーナは偶然会っただけであり、二度と会うことはないだろうと伝えたが、周囲は全く耳を貸さなかった。
誰もが夢を見たい。
リーナの話は想像を含まらせるには十分だった。
「いつか素敵な男性と出会いたいわ!」
「お金持ちの男性に見染められたい!」
「借金を返済して後宮を出たいわ!」
長い話になり、リーナはのぼせ気味で浴槽から脱出した。
そして、贈り物として貰った菓子をカリンや同僚達に配りたいと伝えた。
カリンは喜んだが、数に限りがあるため、掃除部の者というよりは同室者や一緒に仕事をしたことがある者を優先して配る方がいいと助言した。
まずは夕食が先だということになり、リーナはカリンと共に食堂に向かった。
制服によってリーナの昇格を知った者からの視線が大量に降り注ぐ。
しかし、カリンがリーナを庇うように寄り添った。
「大丈夫よ。昇格したことが気になるのは普通のことだから。気にしなくていいわ」
「そうよ!」
「おめでとう、リーナ!」
「一緒にお祝いしましょう!」
「良かったわね!」
同室の者やリーナによく声をかけてくれる者、一緒に仕事をしている者がリーナを守るように周辺の席に陣取り、わざと大きめの声でリーナを擁護する発言をした。
「休みも全くとらずに頑張っていたものね!」
「倹約して借金を増やさないように工夫したわ!」
「真面目に努力してきたからこそ昇進したのよ!」
リーナは嬉しかった。
自分を認めてくれる者がいると感じた。
夕食を食べ終わると、リーナは自分を擁護してくれた者達を部屋まで呼び、お菓子を配った。
「美味しい!」
「甘いわ!」
「幸せ……」
「リーナが昇格したおかげね!」
「お菓子が食べられるなんて思わなかったわ!」
「ありがとう!」
笑顔が溢れるのを見て、リーナも嬉しくなった。
「でも、リーナは食べなくて良かったの?」
リーナが全てのお菓子を配ってしまったことをカリンは気にしていた。
「大丈夫です。試食用のチョコレートを貰ったので、カリンさんが戻る前に食べました」
「そうだったのね」
「だったらよかったわ」
「そうよね。リーナが貰ったのに一つも食べないというのもなんかね」
「大丈夫です。こんなに喜んで貰えて嬉しいです!」
「私も嬉しいわ!」
「私も!」
「お菓子を食べて嬉しくない人なんかいないわよ!」
笑い声が部屋中に響く。
リーナは楽しくて幸せな時間を過ごすことができた。





