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後宮は有料です! 【書籍化】  作者: 美雪
第三章 ミレニアス編
159/1358

159 縁談



 インヴァネス大公の要望により、エルグラード国王、王太子、宰相との話し合いが短時間だけということで行われることになった。


「クルヴェリオン、インヴァネス大公の娘との縁談を受け入れるのか? それともキフェラ王女と同じく断固拒否するのか?」


 縁談について聞いたエルグラード国王は、早速確認した。


「検討する余地はある」


 クオンの答えを聞いた国王と宰相は驚愕した。


「それは受け入れるということか?」

「現時点においては仮定を前提にしている。決定できることではないが、否定はしない」


 国王は喜びの表情でインヴァネス大公に顔を向けた。


「インヴァネス大公も娘とクルヴェリオンの縁談を進めていいのだな?」

「前向きに考えたい」


 インヴァネス大公も答えた。


「だが、リリーナの生存確認をして大公女にする手続きが必要だ。縁談について具体的に話し合うためにも、エルグラード王家に協力を頼みたい」


 現在、インヴァネス大公夫妻の娘リリーナである可能性が浮上しているリーナはエルグラード国籍の平民。


 そのままではインヴァネス大公家の娘としての縁談にできないというのは当然のことだった。


「確認するが、本当にインヴァネス大公の娘なのか? 行方不明になったのは七歳の時だろう? 見た目だけで判断できるとは思えない」

「本人確認が難しいことはわかっていた。だが、リリーナは私と同じ髪色と瞳の色だ。その点については私の色と見比べることで判断できる」

「なるほど」

「リリーナ本人でなければ答えられないような質問をしたが、それについても正確に答えていた。ミレニアス語も話せる。総合的に見て、本人だと判断した」


 リリーナが行方不明になった当時、インヴァネス大公夫妻は内縁状態だった。


 それだけに娘がいること自体を隠しており、領地で密かに暮らしていたことさえ一般的には知られていない。


 前ミレニアス王が死亡扱いの手続きをしたことで娘の存在が公になったが、本当は行方不明の状態だと知るのは王族や重臣などのごく一部だけ。


 細かい特徴やリリーナの情報を詳しく調べてなりすますのは極めて難しいことをインヴァネス大公は説明した。


「実を言うと、リリーナだと思われる者が見つかったという報告が何度かあった。だが、特徴が合わなかった」


 要人の娘としての捜索届には金髪と灰色の瞳の少女だと載せていた。


 しかし、金髪の色合いは多くあり、灰色についても濃淡の差がある。


 インヴァネス大公と全く同じ色ではないという時点で、別人だとすぐにわかった。


「今回は髪や瞳の色が完全に一致している。初めてのことだ。間違いないだろう」

「そうなのか」

「私も妻もリリーナ本人だと確信している。帰国する時に娘も連れていくことができるようにしてほしい」

「クルヴェリオン、それでいいか?」

「無理だ」


 クオンは答えた。


「リーナはエルグラードの国民登録をしている。実はミレニアス人だったと主張されても、それが事実であることを示す客観的かつ物的な証拠がない」


 誘拐されたばかりであれば見た目で判断しやすく、肖像画などを見て容姿確認を行うことができる。


 だが、十年以上経過している状態だけに、髪や瞳の色が同じであることやミレニアス語が話せるといったことだけでは確実性に乏しく、推測の域を出ない。


「証言だけは不十分、現状維持というのが法例における判断になる。ミレニアス王族の娘かもしれないというだけでは、エルグラード国民の身柄を引き渡すことはできない。これは自国人を保護するための正当な処置だ。エルグラードの法律や正式な手続きを無視することはできない」

「ここはエルグラードだ。エルグラードの法律を厳守しなければならないのは当然のことだ」


 宰相が厳かな口調でそう言った。


「しかも、リーナは第四王子付きの侍女として後宮で働いている。後宮や王族の情報を知っている者には強い守秘義務が課せられる。国外に出すことについても慎重でなくてはならない。他国への情報漏洩があると大問題になってしまう」

「それもそうだな」

「それについては疑問がある」


 インヴァネス大公が反論するかのように言葉を発した。


「キフェラ王女も後宮に長年滞在しているはずだが、いつでも帰国させると言っている。それならば、リリーナが帰国するのも大丈夫ではないのか?」

「それは違う」


 クオンが答えた。


「キフェラ王女は側妃候補の一人として後宮にいるが、出入りできる場所にかなりの制限がある。リーナは王族付き侍女だとしてより多くの場所に出入りでき、内部の事情も知っている。王族の側付きとしての勤務もしているため、保持する情報量と重要性が違う」

「後宮や王族の情報をミレニアスに与えるわけにはいかない」


 リーナをミレニアスに引き渡すことは、エルグラード王族や後宮の情報を引き渡すことになる。


 それだけに国王も慎重さが必要だと感じた。


「だが、縁談は悪くはない。クルヴェリオンと婚姻すればエルグラード国籍になる。住むのも王宮になるだろう」


 縁談の成立を前提にして考えれば、リーナがミレニアス国籍になるのもその身柄を引き渡すのも一時的なことでしかない。


 本来の身分であるインヴァネス大公女の身分を取り戻すための帰省であり、その時にエルグラード王族や後宮の情報を軽々しく話さなければいいだろうと国王は思った。


「そろそろ時間だ。舞踏会がある。続きは明日の午前中だ。準備があるため、私はこれで失礼する」


 クオンは急いで部屋を退出した。


「クルヴェリオン王太子は本気で縁談を受けるつもりなのだろうか? 全く嬉しそうな表情をしない。あまり気が乗らなさそうに見えるのだが?」


 インヴァネス大公は率直に感じたことを口にした。


「驚くほど乗り気だ」


 国王の印象は全く違った。


「これまでは縁談を完全に拒否していた。検討する余地があると言ったのは、本気で結婚することを考えている証拠だ!」

「王太子の婚姻についての態度は結婚するかしないかの二択だ。検討する余地があると言う言葉は結婚する方の解釈になる」

「そうか。だが、リリーナは誘拐され、想像を絶する苦労をしたのは間違いない。エルグラード王太子妃の座を魅力的に思う者もいるだろうが、私は娘の幸せを一番に考えたい。必ず幸せにすると約束してくれなければ、婚姻させるのは難しい」

「それはクルヴェリオン次第だ」

「周囲が身分にふさわしく配慮することはできる。だが、夫婦関係については当人同士の問題だ。幸せだと感じるかどうかは、インヴァネス大公の娘次第とも言える」

「それはわかっている。とにかく、娘がエルグラードにいることがわかって本当に良かった。はるばる来た甲斐があったというものだ」

「インヴァネス大公、密約のことは知っているのか?」


 国王は息子がいない内に話しておきたいと思った。


「キフェラ王女との婚姻に関する密約のことなら知っている」


 国王とミレニアス王は密約を交わしていた。


 王太子が三十歳までに結婚相手を選ばなければ、キフェラ王女との婚姻を勅命にするという内容だった。


「キフェラ王女という部分をインヴァネス大公女に変更することは可能か? インヴァネス大公女と婚約中にクルヴェリオンが三十歳になった場合、キフェラ王女との婚姻を勅命で出すというわけにはいかない」

「密約を結んだのは兄だ。帰国したあと、リリーナのことと合わせて検討するように伝えておく」

「わかった」

「舞踏会の支度がある。失礼する」


 インヴァネス大公も部屋を出ていった。


 部屋に残ったのは国王と宰相だけになった。


「驚いた……だが、大きな前進があった!」

「王太子の目に留まる女性が見つかって何よりだ。早急に調査する」

「明日の朝までにできるだけの情報を知っておきたい」

「わかった。できるだけの情報を集めるよう部下に命じておく」


 宰相は歴代最高と言われるほどの優秀さであり、その部下たちも極めて優れている。


 任せておけばいいだろうと国王は思った。


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