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後宮は有料です! 【書籍化】  作者: 美雪
第二章 侍女編
153/1357

153 勉強中



 保護期間が終わっても、リーナの業務が変わることはなかった。


 仕事のメインは第四王子図書室に待機する伝令役。


 但し、他の仕事も少しずつ学ぶ必要がある。


 メイベルが第四王子にとって重要な部屋を掃除する際は、それを手伝うことになっていた。


 また、第四王子の世話役もできるように、衣装の用意や飲食物の給仕等についてもローラとアリシアに少しずつ教わる時間が増えた。


 アリシア、ローラ、メイベルはリーナを王族付きの侍女として必要なことを教え、セイフリード王子が成人して王宮に移る際、リーナもまた第四王子付きの侍女として王宮に移ることができるようにしたいと考えていた。


 王太子にそうしろと命令されたわけではないが、セイフリードが後宮に住む期間は一年程度しかない。成人する少し前には王宮に移ってしまうはずだった。


 セイフリードがいなくなれば、後宮の第四王子のエリアは封鎖され、臨時で第四王子のエリアで働く者の派遣期間が終了する。


 アリシアは王宮の女官として残り続けるが、ローラとメイベルは夫と相談し、基本的には仕事を辞めるつもりだった。


 そうなると、リーナだけが残る。


 どうなるかは王太子の意向次第だけにわからないが、多くのことを学んでおけば、必ずリーナの役に立つだろうという配慮だった。





 リーナは図書室で本を読んでいた。


 見ているのは貴族爵位保持者の情報が載っている貴族名鑑。


 リーナは貴族の爵位名を暗記しながら自分の家名についても考えることにした。


「リーナ、お茶を用意しろ」


 セイフリードが命令した。


「はい」


 リーナは配膳室へ向かった。そして、ワゴンを押して部屋に戻ってくると、セイフリードは顔をしかめた。


「また実験台か」


 リーナはお茶の淹れ方を何度もアリシアとローラに教わり直したため、前よりも美味く淹れることができるようになった。


 しかし、まだまだ練習中。アリシアやローラが淹れるお茶の方には敵わなかった。


 セイフリードとしては、元々美味くお茶を淹れることができるアリシアかローラが淹れるべきだと思っており、そう伝えたこともある。


 だが、アリシア達は忙しい。状況次第ということになったが、結局はリーナがお茶を淹れることになることが多かった。


 リーナの淹れたお茶を飲んだセイフリードは、すぐにカップをテーブルの上に置いた。


「駄目だ」

「申し訳ありません」


 今回もリーナの淹れたお茶は不合格だった。


「僕は熱いお茶が好きだ。そのことは知っているな?」

「はい」

「熱いお茶を淹れるには、熱いお湯が必要なのはわかるな?」

「はい」

「熱いお茶を淹れると、お茶の成分が出やすい。ミルクを淹れるのであればいいが、僕はストレートで飲む。濃いお茶は飲みたくない」

「濃かったということでしょうか?」

「特別な許可を与える。これを飲んでみろ」


 セイフリードはそういうと、顎をしゃくった。


 リーナはワゴンにあった新しいカップに手を伸ばしたが、すぐにセイフリードが叫んだ。


「違う! 僕に出したやつだ!」

「え?」


 リーナは驚いた。


「王子殿下にお出ししたものを飲めということでしょうか?」

「そうだ。ポットに残っているお茶は時間が経過している。僕に出したものとは濃さも味も違う。それを確認しても意味がない。僕に出したカップのお茶の味を確かめろ」

「でも、王族が口にしたものを私が飲むのは無礼になってしまうので」

「早くしろ! ついでに下げろ!」


 リーナは素早くテーブルに近づき、セイフリードに出したお茶を飲んだ。


 その瞬間、リーナは自らの失敗を悟った。


 確かに濃いかも……。


 セイフリードはやや薄めの味が好きであることをリーナは知っている。余計に駄目だった。


「わかるか?」

「はい。よくわかりました」

「お前は茶葉をスプーンに盛り過ぎだ。もっと少なくしろ」

「わかりました」


 リーナがそう返事をした時だった。


 突然、ドアが開いた。


 姿をあらわした者の姿に、リーナもセイフリードも驚いた。


「兄上!」


 セイフリードが声を上げた。


「突然、どうされたのですか?」

「様子を見に来た」


 クオンはそういうと、リーナの方に視線を移した。


 リーナはセイフリードに出したお茶のカップを手に持っているところだった。


「お茶はまだあるのか?」

「……はい。でも、濃くなってしまいました」

「練習しているとアリシアから聞いた。味見する。私にも用意しろ」


 クオンはそう言うと、空いている椅子に座った。


「ストレートでいい」

「はい」


 リーナは新しいカップにお茶を注ぐと、クオンの元に持って行った。


 セイフリードは唖然とした。


 リーナが出したのはポットにある残り物のお茶だ。王太子に残り物のお茶を出すのは無礼なだけでなく、絶対に濃くなっているに決まっている。


 せめて、お湯を足すぐらいは思いついても良さそうだというのに、リーナはそのままカップに注いだ。


 絶対に濃いに決まっている!


 即叱責したいところだが、兄の前でするのはためらわれた。


 セイフリードは兄の反応を見ることにした。


 クオンはお茶を一口飲むと静かに言った。


「ミルクを持って来い」

「王太子殿下に申し上げます。セイフリード王子殿下はいつもストレートですので、ミルクがありません。配膳室の方に取りに行って来てもいいでしょうか?」

「構わない」


 セイフリードはリーナを叱責するのを堪えることにした。


 お茶は濃かった。だからこそ、ミルクを持って来いと言ったのは明らかだが、叱責はなかった。


 叱責しなくてもいいという兄の判断をセイフリードが覆す気はなかった。


「リーナ、新しいお茶のワゴンも持って来い。僕のお茶は淹れ直しだ」

「かしこまりました!」


 リーナは図書室を退出すると、全速力で配膳室へと向かった。





 リーナが戻ると、図書室の中の人数は増えていた。


 ヘンデルとパスカルがいる。


 リーナは困惑の表情を浮かべた。


「リーナちゃん。俺にもお茶頂戴」

「はい。あの……」

「カップが足りないようです。持ってきてください」


 すぐにパスカルがカップの数に気付いた。


「はい!」


 リーナはまた配膳室に戻ることになった。


 配膳室の者はまたリーナが来たために驚いたが、客人が来たため、カップが足りないという説明を聞き、慌ててまたお茶のセットを用意した。


 カップだけでなくお茶の用意もしたのは、配膳室の者も第四王子がお茶にうるさいことを知っているため。


 また駄目出しになった際に取りに来なくて済むようにという配慮だった。


 リーナが戻ると、セイフリードはすでにお茶を飲んでいた。


 ヘンデルにもお茶が出されており、ミルクピッチャーがテーブルの上にある。お茶がないのはパスカルだけだった。


「何度も大変でしたね。あとは私の分だけです」


 リーナがいない時にパスカルが代わりにお茶を淹れ、ミルクを用意したようだった。


「パスカル様、ありがとうございます」

「セイフリード王子殿下に淹れるつもりで、お茶は薄めにしてみてください」

「はい」


 リーナは新しいお茶のセットを使い、パスカルにお茶を出した。


「普通のお茶が欲しい者には問題なさそうですが、セイフリード王子殿下は気にしそうです」


 パスカルは一口飲むとそう言った。


「リーナはお茶を蒸らす間にカップにお湯を入れて温めていますが、そのせいで濃いお茶が出てしまうのでしょう」


 薄めのお茶が好きな者にお茶を用意する場合は、先にカップを温めるようパスカルは助言した。


「お茶の葉を入れたら、すぐにカップのお湯を捨てます。そこにお茶を注げば、薄くて熱いお茶が飲めます」


 なるほどとリーナは思った。


「もう少し濃い方がいいという場合は、蒸らし時間を適度に調節すればいいでしょう。お茶の葉を少なめにするのもいいですが、味と香りが足りず、渋みが出るまで蒸らすことにならないよう注意してください」

「わかりました」

「お茶入れは簡単だと思う者もいますが、相手の好みに応じて満足する一杯を提供するのは難しいことです。王族付きであっても個々の技能差が出ます。これからも練習してください」

「はい」

「私はミルクティーが好きだ」


 突然、クオンがそう言った。


「リーナが淹れたお茶は私にとっては問題なかった。ミルクで調整もしやすい。だが、セイフリードの好みはストレートだけに難しいかもしれない。だが、自らの技能を向上させるよう努めて欲しい」


 王太子であるクオンが侍女に対してこのような言葉をかけることはない。


 本人がいくら否定しても、リーナを優しく見守りたいという気持ちのあらわれとしか言いようがなかった。


「はい、頑張ります!」


 リーナは笑顔を浮かべ、元気よく答えた。


 パスカル、ヘンデル、セイフリードの三人は無言でお茶を飲んだ。


 このまま王太子を、そしてリーナを見守りたいと思っていた。


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