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後宮は有料です! 【書籍化】  作者: 美雪
第八章 側妃編

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1385/1385

1385 歌劇場への外出



 外出禁止で落ち込んでいるリーナに希望の光を届けたのはエゼルバードだった。


「王立歌劇場に行けるのですか?」


 エルグラードとローワガルン大公国をつなぐ高速馬車路の話し合いをするため、ローワガルンの大公世子ハルヴァーが来訪している。


 外務統括のエゼルバードや関係者との会談日程に合わせた催しがあり、王立歌劇場でもローワガルンに関係した上演が連日行われていた。


 リーナが外出禁止になっていることをエゼルバードは知っていたため、気分転換としてリーナが王立歌劇場に行くのはどうかと思った。


「ヴェリオール大公妃として行くと、外交に口を出しそうだと思われてしまいます。ですので、あくまでも正体を隠しての極秘参加になります」

「エゼルバード様はヴェリオール大公妃付きの侍女を勉強のために順番に派遣するのはどうかと考えている。リーナも一緒に行きたいかな?」


 エゼルバードとパスカルの説明を聞いたリーナの返事は決まっていた。


「ぜひ行きたいです!」


 とにかく外出したい。


 エゼルバードが作ってくれた機会を逃したくないとリーナは思った。


「リリーとハイジの派遣に一緒すればいい。若い者同士で行ったほうが自然に見えるはずだからね」

「はい!」

「勉強させていただきます!」


 リーナ付きとしての勤務があることから、やはり部屋に籠るような生活が続いていたリリーとハイジは笑顔を浮かべた。


「ロビンとデナンの予定は僕のほうで合わせる。ピックのほうはロスターに確認してもらっているから」

「皆で行けるのですね!」

「配属が分かれてから会いにくいだろう? この機会に会って話をするといいよ」

「ありがとうございます! やっぱりお兄様はわかっています!」

「パスカル様に心から感謝いたします!」

「ご配慮に心からお礼申し上げます!」


 リーナ、リリー、ハイジは満面の笑み。


「エゼルバード様のおかげだ。感謝を忘れないように」

「エゼルバード様、ありがとうございます!」

「心から感謝申し上げます!」

「御礼申し上げるとともに、真摯に勉強いたします!」

「きっと良い経験になります」


 エゼルバードも笑顔。


 兄の相談に乗り、無事目的を果たすことができたと感じた。


「どんな装いにするのか話し合わないと」

「そうですね!」

「衣装の勉強もできますね!」


 楽しい外出になりそうだった。





 侍女が勉強として王立歌劇場に行く日になった。


「なぜ、お忍びで行けるのかわかりました」


 リーナが行く日のドレスコードは仮面舞踏会だった。


 これは王立歌劇場の演目に合わせたドレスコードで、参加者は仮面をつけなくてはいけない。


 エルグラードの者は赤い仮面、ローワガルンの者は紫の仮面をつけることになっていた。


「これなら正体がわかりません!」

「そうですね!」

「さすが第二王子殿下です!」

「でも、不安だな」

「視界が悪い」


 新人の侍女や騎士が大掛かりな催しに参加することで経験を積むということになっているが、リリー、ハイジ、ロビン、デナンは護衛任務もする。


 ヴェリオール大公妃付きの護衛騎士も会場にいるが、お忍びのために貴族の服を着用しており、少し離れた位置からの護衛になってしまう。


 そのため、リーナのことはリリー、ハイジ、ロビン、デナンが体を張ってでも守るように言われていた。


「仮装しているせいで、身分とかも全然わかりませんね!」

「古い時代のドレスばかりです!」

「本当に古い時代に来たみたいです!」


 リーナ、リリー、ハイジは楽しい方のドキドキが止まらない。


「デナン、大丈夫かな?」

「招待状がある者しか参加できない。身元を確認できる者だけしかいないとはいえ油断はできない。近づく者には注意だ」

「わかっているよ。でも、身分証もしっかり確認しているかな?」

「考え出したらキリがない。とにかくリーナ様を守る壁になれ。いや、盾だ」

「それが騎士の心得だね」


 五人はパスカルにもらったチケットを見せて王立歌劇場の中に入った。


 ロビンとデナンは武器を携帯していたため、身分証と武器の携帯許可証も提示した。


「武器を持つ者しか身分証を確認していない。身体検査をしていないだけに、許可外の武器を携帯している可能性もある」

「真面目に考えるほどキリがないなあ」

「王族が参加している催しではないせいで自然と警備が甘くなっているかもしれない」


 ロビンとデナンは小声で話し合う。


 一方、リーナ、リリー、ハイジは大声で話し合っていた。


「すごいです!」

「素敵ですね!」

「特別な感じがします!」


 王立歌劇場内はエルグラードを示す赤とローワガルンを示す紫の装飾で飾り付けられている。


 その豪華さは目を見張るものがあった。


「紫のバラの花があるなんて!」

「造花でも十分綺麗ですね!」

「本物らしく見えるので高価だと思います!」

「赤い仮面をつけている人が圧倒的に多い。エルグラードが優勢だ」

「ローワガルンは貴族や外交関係者だ。駐在大使館の者もいる」

「関係者であれば平民もいるよね?」

「俺たちがまさにその関係者だ」

「それもそうだった」

「白い仮面の人もいるわね?」


 リリーが気づいた。


「本当ですね」

「白は聞いていませんよね」


 すぐにデナンが近くにいる者に確認した。


「白は王立歌劇場の関係者だそうだ」

「侍従?」

「上位の係員だ。現場や客に問題がないか、追加の指示が必要かどうかを監視している。仮面舞踏会の雰囲気を壊さないためにつけているらしい」

「なるほど」


 五人は混雑するホールを抜け、チケットにあるボックス席へ向かった。


「ここですね」


 中には六つの椅子がある。


 ピックが体調不良で欠席するため、五人で貸し切りだった。


「王族席はなしか」

「カーテンで隠されている」

「王族があそこにいると礼をしたり国家斉唱をしたりします」

「いつか見てみたいです」

「同じく」


 エゼルバードやハルヴァーが出席する観劇日はすでに終わっている。


 他の日はエルグラードとローワガルンが交流を深めるための観劇日になっており、招待状を持つ者だけが参加できるということだった。


「なかなか面白いですね」


 第一幕が終わった。


 オペラの内容は宝石を巡る人々の話だった。


「ローワガルンと言えばダイヤモンドや希少価値の高い宝石の取引で有名です。エルグラードとローワガルンの交流を深めるための催しにふさわしいオペラです」

「続きが楽しみですね」

「そうですが、幕間に食事をしておかないとお腹が空いてしまいます」


 今回のチケットはビュッフェ付き。


 幕間中に食事を済ませるため、五人は悲劇の間のほうに向かった。


「予想通り混んでいますね」

「でも、ここで食事をしないとですよね?」

「次の幕間でもいいのですが、いつ来ても混んでいます。食事は外部に発注しています。前半は補充されますけれど、後半は補充されません。品切れということです」


 王立劇場を何回も利用しているリーナが説明した。


「早い者勝ちか」

「並ぶしかない」


 五人は長い行列に並んだ。


「お皿の見た目が綺麗になるように料理を取ってくださいね?」

「わかっています」

「教えられました」


 今回のお忍び外出に備え、リリーとハイジはヴェリオール大公妃付きの侍女らしく振舞うための特別指導があった。


「僕も大丈夫です!」

「山盛りだ」

「一種類だけのつもり?」

「せっかくいろいろな料理があるのに」


 ロビンはブルスケッタばかりを取っていた。


「カトラリーを使う食事は大変だから、手でさっと食べられるものにした」

「フォークも武器になる。気をつけろ」

「そうだった!」

「お皿を盾にすればいいわよ」

「大皿だからできるわよね」

「待ってください。話題がおかしい気がします」


 リーナが口を挟んだ。


「ちょっと物騒な話題です。やめたほうがいいのでは?」

「すみません。夫婦喧嘩の話なんてよくないですよね」

「ここはビュッフェだけに、食事を取り合う話題だろう?」

「宝石を取り合う話のあとは食事をとり合う話なんて」

「実際に取り合っているよ。大勢並んでいる。人気の料理は早い者勝ちだしね?」


 五人は笑い合った。


「飲み物もほしいですね」

「それも並んでいそうです」

「時間的に間に合うかどうか」

「あとで見てみましょうか」


 食事を終えてから飲み物がある方に行くと、かなりの列ができていた。


「こっちのほうが長いかも」

「でも、飲み物だから進みは早そうだよ」

「並びますか?」

「時間的に悩みますよね」


 リーナは腕時計で時間を確認した。


「バーに行くとしても微妙です」

「遅れて戻るのはダメですからね」

「勉強のために来ているのに、マナー違反をするわけにはいきません」

「失礼」


 後ろのほうから声がかかった。


 振り向いた五人は驚愕の表情に早変わり。


「飲み物の話をしていました。二つあるのですが、よろしければいかがですか?」


 プラチナブロンドと空色の瞳。


 男性は仮面をかぶっていたが、隠しようもない美しさと独特の雰囲気があった。


 ボス!


 アスター・デュシエル!


 五人は心の中で叫んだ。


「ワインでしょうか?」


 真っ先に対応したのはリリーだった。


「ブドウジュースです。渡すはずの相手がいなくなってしまったので困っています。無理にとは言いません。どうしますか?」

「結構です」


 リリーは安全ルールの基本通りに断った。


 しかし。


「いただきます!」


 リーナはブドウジュースを受け取った。


「ご親切にありがとうございます!」

「もう一つあります。どなたかいかがですか?」

「では、私が」


 ハイジがもらった。


「ありがとうございます」

「良い夜を」


 男性は言ってしまった。


「知らない人から飲み物を貰ってはダメですよ?」


 リリーは仮面の下で眉間にしわを寄せた。


「仮面のせいでそう見えるだけで、実は知っている人かもしれませんよ?」

「わかりません。仮面をかぶっている時は誰なのかわからないというのがルールでありマナーでもありますから!」

「私が味を確認します」


 毒見役のつもりでグラスをもらったハイジはブドウジュースを飲んだ。


「どうですか?」

「びっくりするほど美味しいです! さすが王立歌劇場のブドウジュースですね!」

「もらい物を飲んだら怒られるよ」

「我慢すべきだ。勉強に来ているのを忘れたのか?」


 ロビンとデナンは護衛だからこその判断をした。


「私がそのジュースを飲みます!」

「ダメだよ!」


 リーナのジュースをリリーが代わりに飲もうとしたため、ロビンが止めた。


「何かあったら困るじゃないか!」

「だから私が飲んで確かめるのよ!」

「僕が飲むから!」

「こんなところで争うな。俺が飲む」


 デナンがリーナの持つグラスを取ってブドウジュースを飲んだ。


「どう?」

「変じゃないよね?」

「……俺の人生で一番美味いブドウジュースだ!」

「私もそう思ったわ!」

「王立歌劇場ですよ? 変なジュースが出るわけありません。私のジュースだったのに……」


 リーナはドレスを汚ささないように水を選択すると教えられているため、基本的に水しか飲まない。


 しかし、本当はジュースも飲んでみたい。


 今回は人助けということでジュースが飲めると思っただけに、その機会が失われてしまったことにがっかりした。


「すみません」

「次の幕間に並びましょう」

「ダッシュで僕が並びに行きますから!」

「私が行くわ!」

「ブドウジュースが品切れになっていませんように……」


 次の幕間になったらすぐに飲み物コーナーに行くことが決定した。


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