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後宮は有料です! 【書籍化】  作者: 美雪
第二章 侍女編

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136 借り物競争



 最後の催しは、侍女見習いによる借り物競争。

 

 まずはスタート地点から少し離れた場所に設置された箱から自分の番号が書いてある封筒を探す。


 その中にあるカードには借りる物が書かれているため、大宴の間にいる人々から指定されたものを借りて来る。


 借り物ではあるが、指定品を持っている相手でもいい。


 カードにメガネとある場合、メガネだけを誰かから借りてくるか、メガネをかけている者を連れて来るということだ。


 審判がカードに書かれたものと持ってきたものを見比べて問題がなければゴールできる。


 これはリレーのように順番に箱へ向かうのではなく、侍女見習いが一斉にスタートするのもあって、封筒が奪い合いになるのは必至だった。


 借り物競争が始まった。

 

 カードに何に書かれているのかはわからない。


 準備段階でわかってしまうと事前に用意でき、同僚達が準備しておくという方法が可能になってしまう。


 そこで、カードは側妃候補付きではない後宮関係者によって用意されていた。


 リーナは自分の番号に対応する箱の所に行った。


 先に箱までいった侍女見習いが手に持てるだけの封筒を取った。


 箱を持ち上げたり抱え込むのは禁止。


 取れるだけの封筒を取り、自分の番号を探しながらライバルが自分の封筒を探すのを邪魔する方式だった。


「あったわ!」


 他の侍女が返却した封筒の中からリーナは自分の封筒を見つけた。


 すぐにカードに書かれているものを確認する。


 ……嘘でしょう?


 何かの間違いではないかとリーナは思ったが、少なくとも見間違えではない。


 カードには『王族』と書かれていた。


 王族を借りることができるわけがない。普通なら。


 ……あっ、でも!


 人を借りることもできるルールをリーナは思い出した。


 手紙配達リレー競争の時も王族にサインを貰うという題目があった。


 それと同じで、わざと王族に関わる題目を取り入れているのだろうとリーナは思った。


 リーナは緊張した面持ちで王族席に向かうと、同じように王族席に向かう侍女見習いがいた。


 きっと同じ題目だろうとリーナは安心した。


「申し上げます!」


 一番先に王族席についた侍女見習いが叫んだ。


「カードには王族の物とありました。何か一つ、ハンカチなどを貸して頂けないでしょうか? これはチーム戦です。他の者に迷惑をかけるわけにはいきません。どうか、寛大なお心でお許しいただけないでしょうか?」


 二番目についた者も不安そうな表情で口を開いた。


「私も王族の物を借りるようにという指示でした。何かお持ちのものを一つ、お貸しいただけないでしょうか?」


 三番目はリーナ。


 クオン、エゼルバード、レイフィールの視線がリーナに向けられた。


 リーナは困惑していた。


 王族の物? 王族ではなくて? もしかして、『王族』というのは『王族の物』ということ?


 リーナは不安でいっぱいになってしまった。


 だが、注目されているのはわかっている。何も言わないわけにもいかないと感じた。


「……申し上げます。私のカードには王族とありました。王族の物を何かお借りすることだと思うので、何かお借りすることはできますでしょうか?」


 リーナの言葉を聞いた全員が驚愕した。


 てっきりリーナも『王族の物』を借りに来たと誰もが思っていたが、そうではなかった。


 カードに書かれていたのは『王族』。


 リーナはそれを『王族の物』だと解釈した発言をしたが、そのような解釈ではないと思った者もいた。


 クオンもその中の一人。


 ……題目が王族だというのか? 王族を借りるということか?


 後宮関係者は真っ青だった。


 なぜなら、カードの題目に『王族』はない。『王族の物』だけのはずだった。


 何らかのアクシデントで『王族』のカードが混入してしまった。しかも、そのことを馬鹿正直な侍女見習いが言葉にしてしまった。


 最悪な状況というしかない。


「本当に王族とあるのですか? 王族の物ではなく?」


 質問したのはエゼルバードだった。


「見せろ」


 レイフィールは席を立つとリーナの所へ行き、封筒を受け取ってカードを確かめた。


 確かに『王族』だった。それしか書かれていない。


 レイフィールは他の侍女見習いの方を見た。


「お前達の持つ封筒とカードも見せろ。確認する」


 次々とレイフィールは別の封筒に入っていたカードを確認した。


 リーナ以外のカードには『王族の物』と記入されていた。『王族』ではなかった。


「カードの言葉は間違いない。王族の物と書くはずが、何らかの事情によって王族だけしか書かれなかったのではないか? 一枚だけしかない」

 

 レイフィールはそう言うことで、カードを持って来たリーナの責任ではなく、カードを用意した際の問題にできないかと思った。


「後宮の失態です」


 エゼルバードが指摘した。


「王族の物を借りるというだけでもかなりのことです。だというのに、王族と書かれたカードが用意されるとは……兄上、いかがいたしましょうか?」


 エゼルバードは、カードが用意されたという言い回しにした。


 リーナはカードを見てその内容を伝えただけ。カードそのものを用意したわけではないということで、責任を問わないようにできないかと考えた。


「私にもカードを見せろ」


 レイフィールはクオンの所に行くとすべての封筒とカードを渡した。


 クオンも確認したが、リーナの番号が書かれた封筒の中にあるカードだけが『王族』で、他の番号の封筒の中にあるカードは『王族の物』だった。


 レイフィールが指摘したように、何らかの事情で書きかけのカードが混入されてしまった可能性もなくはない。


 エゼルバードの指摘も間違いではない。


 これは後宮の失態だ。処罰することができる絶好のチャンスだった。


 しかし、クオンは迷った。


 単純に無礼だと発言してしまうと、後宮だけでなくカードを持って来たリーナもまた無礼なことをした一人になってしまう。


 そうなれば、リーナの処罰は確定だ。


 後宮関係者が責任を逃れるため、何らかの理由をつけてリーナに押し付けようとするかもしれない。


 トカゲのしっぽ切り、スケープゴートだ。


 それはクオンが望む処罰ではない。


 これは余興だと言い、わざと寛大な対応を見せることもできなくはないが、エルグラードの王太子は後宮の催しや余興を楽しむような者ではない。


 エルグラードの王太子が後宮のことを良く思っていないことは知られている。


 このことを問題にして強く責めるに決まっている。


 普通なら。エルグラードの王太子なら。これまでの自分なら。


 クオンの頭脳はめまぐるしく働き、答えを導き出した。


 今、ここにいるのは王太子だ。クオンではないと。


「王族を迎えての催しだからこそ、様々に趣向を凝らすというのはわかる。中には王族に関わるようなことを取り入れ、楽しませようと思ったのかもしれない。だが、私は後宮の催しを楽しむような者ではない。その点を深く考慮した上で、どのような催しをするのか考えるべきではないのか?」


 クオンは淡々と言葉を口にした。


 リーナから視線を外して。


「先ほども、王族にサインを求めるという出し物があった。よくない。レイフィールが寛大さを示したために黙っていた。だというのに、またしても同じようなことが起こった。王族に物を借りるなど無礼だ。ましてや王族を借りるなどありえない。後宮は何を考えている? 本当に私達を歓待しているつもりなのか?」


 クオンは後宮監理官に顔を向けた。


「後宮監理官」

「はっ!」


 呼ばれた後宮監理官がすぐに駆けつけ、片膝をつくと頭を下げた。


「この件は処罰対象だ。お前の責任も問われるだろう」

「恐れながら申し上げます。これは後宮の催しです。開催を申し出たのは後宮で、国王府は国王陛下のご判断の下に承認しただけです。私や国王府ではなく、後宮長や後宮の責任を問うべきです」

「後宮長」

「はい」


 今度は後宮長が駆けつけた。


「聞いたな?」

「はい。ですが、私からも申し上げたいことがございます。私は後宮全体の責任者ではありますが、催し担当の責任者が全てを取り仕切っております」

「その担当者は誰だ?」

「今回は特別な催しですので、特別催事長です」


 特別催事長は後宮華の会のために各部署をまとめるための臨時職でしかなく、出し物担当長の責任だと答えた。

出し物担当長は借り物競争担当長や手紙配達リレー担当長の責任だと答えた。


 次々と下の役職者に責任を押し付けているのが非常にわかりやすい。


 このままだと、カードに記入をした者や封筒に入れた者の責任にして終わりかもしれない……いや、待て。よく考えろ。


 クオンの頭の中に警報が響いた。


 カードを記入した者や封筒に入れた者は自分がやったと認めてしまうと処罰されるのがわかっている。


 自分ではないと主張するかもしれない。


 誰がどのカードを書いて封筒に入れたのかわからない。分業して適当に書いて適当に入れた。王族と書かれたカードは見ていないと主張するかもしれない。


 そうなると、準備段階においては王族というカードを入れた封筒はなく、準備後に何者かが問題のカードを封筒のカードとすり替えた可能性が出てくる。


 それが誰なのかわからないということになれば、何者かの責任ということにもできなくはない。


 そして、その何者かがリーナだと判断されてしまう可能性もあった。


 王族の目に留まるため、リーナが自分の封筒のカードを入れ替えたという疑惑がかかるかもしれない。


 たった一枚しかないからこそ、そのように考えることができる。


 そもそも、後宮華の会の侍女や侍女見習いの出し物は能力検定というのは建前で、実際は王族の目に留まる女性探しの機会だ。


 側妃候補付きの侍女や侍女見習いに知らされてはいないが、偶然リーナが知ってしまった。そのせいでカードを入れ替えたというあらすじを誰かが考えるかもしれない。


 クオンは考えれば考えるほど、リーナがスケープゴートに利用されてしまいそうな気がした。


「この件に関しては早急に対処する。後宮監理官と後宮長はなぜこのような事態が発生したのかを調査して報告せよ。ヘンデルは後宮華の会に関する通達書類を確認し、必要と思われることを調べて報告せよ」

「はい」

「かしこまりました」

「仰せのままに」

 

 ヘンデル、後宮監理官、後宮長が返事をした。


 クオンはリーナを見た後、王族席の側まで来ていた侍女見習い達のことも見た。


「侍女見習いは関係ない。お前達は事前に用意された封筒とカードを持って来ただけだ。但し、四百十三番の者からは詳しい証言を取る。多くの人々が出し物を見ていたが、行動精査もする。パスカル」

「はい」


 すぐにパスカルがクオンの側に寄った。


「この者から証言を取れ。お前が担当だ。安全面も考慮せよ」

「わかりました」

「後宮華の会はここまでだ。閉会にする。エゼルバード、レイフィール、緊急会議だ」

「はい」

「わかった」


 突然の問題発生により、後宮華の会は閉会になった。


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