1356 国王の会議室で
国王に謁見する許可が出た。
リーナが案内されたのは大会議室。
そこには国王、後宮統括である宰相、国王府の官僚たちが多数揃っていた。
「どのような要件だ?」
「会議中だったのでは?」
リーナは会議室の中に通されたことに驚いていた。
「休憩中だ。後宮に関係することらしいな? 宰相も一緒の方がいい用件だと聞いたためにここで聞くことにした」
「そうでしたか。実は愛の日の贈り物についてです。去年のように後宮の方で作りたいのですが、許可をいただきたくて」
「なんだ。そんなことか」
国王は拍子抜けした。
「わざわざ許可をもらいにこなくても、先に後宮の方で話し合えばいいのではないか? 準備や作業の調整が必要だ。問題なくできるようなら、あとで承認を受ければいいだけだと思うが?」
「でも、毎年同じようにしていることではありません。国王陛下と後宮統括である宰相閣下の許可が先に必要だと思いました」
「そうか。まあ、それが正式であり確実でもある。ラーグ、聞いたな? 後宮で愛の日の贈り物の制作をするのは問題ないか?」
「問題ない。だが、飲食物は調理部とカフェ部で扱っている。どちらに依頼するのか、両方に依頼するのかをよく考えろ」
リーナは首を傾げた。
「すみません。それって予算がどこから出るかの違いがあるということでしょうか?」
「それもあるが、調理部にどの程度の菓子職人が在籍しているか知らない。カフェ部に異動した者もいるだろう」
以前は調理部のペストリー課と軽食課が担当だったため、調理部内で調整をかけることができた。
これからは調理部とカフェ部というより大きな単位での調整が必要になる。その点を注意しなくてはいけないことを宰相が話した。
「作る量も関係するだろう。大量に作るのであれば、調理部とカフェ部が共同で行う必要がありそうだ。通常業務との兼ね合いを考えろ。調整については後宮統括補佐の権限でできる」
「わかりました!」
「このような場で言うのもなんだが、エルグラードの歴史において、側妃であるヴェリオール大公妃から正妃である王太子妃になった女性は一人もいない。だが、国王陛下はヴェリオール大公妃が王太子妃になれる可能性を公の場で示した。王太子妃になりたいだろう?」
「そうですね。側妃でも妻ですけれど、クオン様の正妃として認めていただけるなら嬉しいです」
「後宮は側妃の住居だ。正妃は口を出せない。王太子妃になれば、後宮統括補佐の権限はなくなる」
リーナだけでなくその場にいる全員の表情が硬いものになった。
「国王陛下次第ではあるが、ヴェリオール大公妃が優秀さを発揮するほど王太子妃になる日が近づくだろう。それは後宮統括補佐でいる時間が少なくなるということでもある。後宮統括補佐として活躍しているのはわかっているが、全く指示を出さなくても後宮が正しく機能するよう導くことも考えてほしい。わかったな?」
「はい!」
「後宮統括としては以上だ」
「貴重な時間をいただきありがとうございました!」
リーナは一礼すると会議室から出て行った。
「休憩は終わりではないか?」
「そうだな」
宰相に促された国王が頷く。
全員が席に戻った。
「早速発言したいが、いいか?」
「ラーグであればいつでも発言していい」
「では、ここにいる出席者に伝える。先ほど、私の言った言葉を聞いていたな? ヴェリオール大公妃が解雇に反対しているという主張もあった。だが、ヴェリオール大公妃が王太子妃になれば後宮には口を出せなくなる。後宮の盾として使えないということだ!」
宰相は国王府の息がかかっている後宮の上位者の解雇をしたかったが、国王の側近や国王府の官僚たちが反対した。
後宮にいる上位者たちも自分たちの解雇に賛成するわけがなく、宰相が後宮統括として出した指示書に文句をつけ、国王と国王府に撤回の嘆願書を提出した。
現在開かれている会議はそのせいであり、後宮を改革したい宰相と改革をしたくない国王府の官僚たちがそれぞれの主張を国王に伝え、激しい口論を繰り広げていた。
そんな最中にリーナが来たため、国王は丁度良いと感じて休憩時間を取ることにしたのだった。
「不正が見つかった時はさんざんヴェリオール大公妃が権限外のことをしたと主張していたくせに、解雇の話が出た途端盾にするとは呆れるしかない!」
「そうだな」
国王も同意した。
「ヴェリオール大公妃は優秀だ。後宮だけでなく王都や王太子領でも結果を出している。どれほど反対しても猶予は多くない。いずれ消える駒をかばったところで何の意味がある? かばったせいで自らの立場を悪くするだけだ。利口な者であればわかる。わからないのであれば後宮にいる駒と一緒に落ちるところまで落ちるのを覚悟しろ! 以上だ」
リーナが来たことにより、会議室の流れが変わったのは確か。
しかし、国王府が何十年にも渡って作り上げて来た体制を変更させたくないと思っている勢力は強い。
国王府の官僚にとって自分たちの管轄下にあった後宮を長年の政敵である宰相に変えられてしまうことへの反発と危機感が積もりに積もっており、絶対に負けるわけにはいかないという対抗心が強まる一方だった。
「この場においてどうしても話し合わなくてはならないことがある!」
「社交界で後宮のことが話題になっている!」
「しかも、悪いほうだ!」
「後宮の名誉を守るためには後宮で扱うものは最高級品でなくてはならない!」
「だというのに、宰相が反対している!」
「経費削減など言っている場合ではない!」
「金の問題ではない! 名誉の問題だ!」
「後宮の名誉は国王陛下の名誉に関わる!」
「王家の威信にも関わる! 軽視することは許されない!」
国王府が国王や王家の名誉、威信を盾にするのは常套手段。
会議が長引くのは明らかだった。





