1353 後宮からの説明
後宮における変更の説明役としてリーナの部屋に来たのはメリーネだった。
「ヴェリオール大公妃にご挨拶申し上げます。後宮における様々な変更がありましたのでご説明させていただきます。ヴェリオール大公妃関連ではかなり大きな変更がありました」
やっぱり!
リーナは緊張した面持ちでメリーネを見つめた。
「すでにご存じかと思いますが、組織改編により、真珠の間の担当がなくなりました。森林宮からの出向者ばかりでしたので、王宮への出向に切り替えられました」
「レイチェルから聞きました」
「それに伴い、真珠の間及びその周辺を警備していた警備室や警備調査室もなくなりました」
全員が宰相府や第一王子騎士団からの派遣者だったため、元々所属している宰相府や第一王子騎士団で仕事をすることになった。
「秘書室もなくなりました」
「秘書室がなくなる? メリーネたちはどうなるのですか?」
「二月から異動します。上位役職者の秘書になります」
秘書室長だったメリーネは後宮長の秘書になる。
他の者も新設される運営管理部や他の部署の役職者に付く秘書になることが説明された。
「買物部もなくなります」
「ええっ!」
リーナは信じられないと思った。
「どうしてですか? 後宮の福利厚生に関係していますし、独自収入にもなっているはずです! 黒字なのになくすなんておかしいですよね?」
「そろそろ買物部長を選んでもおかしくありません。ですが、部長職の給与は高いので、人件費が増えて困ります」
「そのために買物部自体をなくしてしまったのですか?」
「購買部と統合することになりました」
購買部は高級品で買物部は消耗品などと分けていたが、宰相はその必要はないと考え、全てを一つの部にまとめることにした。
「旧購買部を本店、旧買物部を支店として分けることになりました。ですので、買物部はなくなりましたが、全員が購買部内の本店か支店に所属することになりました」
「びっくりしました……」
「まだあります。買物部で行っていた軽食販売がなくなります。その変更により、調理部の軽食課がなくなりました」
「ええっ!!!」
またしてもリーナは驚いた。
「どうしてですか? それも黒字だったし、大好評でしたよね?」
「買物部が軽食を販売することになった理由を考慮した結果、継続する意味がないと判断されました」
官僚食堂が改善されたため、後宮が作ったものを販売する必要がなくなった。
また、購買部の本店において外部から仕入れた菓子の販売を継続するため、支店で消費期限が短い菓子パン等を販売しなくてもいいと判断された。
「では、後宮の者は空腹を満たすために軽食ではなくお菓子を買うしかない状態に戻ってしまうのですか?」
「カフェがあります。軽食を含めた需要の拡大を見据え、カフェ部が新設されました」
軽食課は買物部用の軽食作りとカフェの運営業務で負担が増えていた。
軽食課は太陽宮だが、カフェで勤務する場合は月光宮という場所の違いもあって行き来するのが大変でもある。
そこでカフェ専用の部が新設された。
「飲食物についてまとめますと、調理部は無料で提供。カフェ部は有料で提供。購買部では外部の商人から仕入れた消費期限の長い菓子を販売します」
「なるほど!」
宰相は効率化のための組織改編をした。
リーナが作った秘書室、買物部、軽食課はなくなってしまったが、その仕事内容は形を変えて他の部署に引き継がれていることがわかった。
「一応、確認させてください。なくなった部署に所属していた人たちは異動しただけで解雇されてはいませんね?」
「解雇されてはいません。異動しただけです」
「良かったです」
リーナはホッとした。
「解雇についてご心配されていたのでしょうか?」
「宰相閣下がどんな改革をするかわかりません。予算を減らすのに一番簡単なのは人員削減ですよね? なので、解雇があるのではないかと気になっていました」
「現在の後宮は以前よりも人員が減っているため、解雇には慎重です」
「そうですか」
「私からの説明は以上になります。何かありますでしょうか?」
「後宮統括補佐のことについて何か聞いていますか?」
「いいえ。後宮統括補佐の人事権は後宮にありません。国王陛下とその直属である後宮統括にあります。後宮統括である宰相閣下にお問い合わせください」
「そうですか」
「個人的な発言をお許しいただけますでしょうか?」
「構いません」
「後宮の説明を聞き、リーナ様が苦心して作られたものがなくなってしまったように思われたかもしれません。ですが、そうではありません。効率的に維持していくための変更があっただけです。リーナ様によって正しく導かれた後宮を守るため、皆で励んでおります。ご安心ください」
「ありがとう」
リーナは微笑んだ。
「メリーネとはなかなか会えなくなりそうですが、新しい仕事を頑張ってください。優秀なので大丈夫でしょうけれど、体には気をつけてくださいね」
「ありがとうございます。では、失礼いたします」
メリーネは深々と一礼すると退出した。
「なんとなく……わかった気がします」
リーナは目を閉じると深いため息をついた。
「後宮は正しい方向に向かっています。私はもう必要なさそうです」
「いいえ!」
レイチェルが即座に反論した。
「リーナ様はエルグラードに必要な方です! 全てのことをリーナ様が担当されるのは大変だからこそ、皆でお支えするということです!」
「メリーネを始め、後宮にいる人々も同じです! リーナ様を支えるために頑張っています!」
ヘンリエッタも声を張り上げた。
「……そうですね。宰相閣下が私のしてきたことを全て残してくれて良かったです。これからも私のできることを探して頑張ります!」
リーナは自らを鼓舞するようにそう言って笑顔を浮かべた。
レイチェルとヘンリエッタが優しく微笑み、部屋中にいる侍女たちの心が安堵する。
リーナの影響力が人々に強く広がっていることの証だった。





