1352 追加の人事通達
新年の追加人事が決定した。
森林宮から後宮に出向していたヴェリオール大公妃付きの侍女は真珠の間付きを解かれ、王宮への出向に切り替えられた。
ヘンリエッタたちは王宮に住み込んでいる王太子付き兼ヴェリオール大公妃付きの侍女と相部屋になり、王宮でのルールや仕事を学ぶことになった。
「後宮の組織改編により、真珠の間付きがなくなりました。ヘンリエッタたちはヴェリオール大公妃付きの後宮係になります」
出向先や担当名、住み込む場所等は変わるが、仕事内容はこれまでと同じ。
「王宮の侍女の中途採用については一部解除されましたので、王宮の侍女の試験が行われます。合格していない者は受験させます」
森林宮からの出向者であるヘンリエッタたちとクオンが直接採用しているリリー、ハイジ、ジゼの三人は王宮の侍女試験に合格していない。
その全員は二月中旬以降に行われる王宮の侍女試験に向けて猛勉強することになったことも説明された。
「よろしくお願いしますね!」
王宮への出向になった侍女たちにリーナは微笑んだ。
「勉強することが一気に増えて大変だとは思いますが、王宮に住みながら働くことは必ず役に立ちます。侍女試験に合格すれば王宮が採用する侍女になれるらしいので、全員頑張ってください!」
「これからも真摯にお仕えいたします。侍女試験にも必ず合格いたします」
出向者のまとめ役に任命されたヘンリエッタが深々と頭を下げた。
「何かあれば遠慮なく私や王宮での勤務経験が長い役職者に聞くように。教えられることは全て教えます」
レイチェルが声をかけた。
「はい。よろしくお願いいたします」
「本日は新年人事の説明役が来る予定です。気になることがあれば、説明役にお尋ねください」
「第一王子騎士団からも説明役が来ますよね?」
「来ます」
「きっとユーウェインについても説明がありますよね」
「最終勝者になりましたので、何らかの説明があると思われます」
「クオン様は実力をきちんと評価してくれます。それは喜ぶべきことですけれど、ヴェリオール大公妃付きでなくなるとしたら喜べません」
リーナはため息をついた。
「リーナ様の気持ちはわかります。ですが、王太子殿下は実力に見合う正当な評価をされるだけです」
「ヘンリエッタはどう思いますか? 遠慮なく意見を聞かせてください」
「リーナ様のお気持ちはお察しします。ですが、王太子殿下は熟考されて判断されると思います。護衛については男性の方がよくわかっているので、お任せすればいいと思います」
「バーバラはどう思いますか?」
「ユーウェイン様が護衛騎士にふさわしい実力をお持ちです。同世代において最も優秀であれば、王太子付きになるのが普通だと思います」
リーナ様は頷く。
「そうですね。でも、王太子付きになったらお兄様の担当ではなくなりますよね?」
「ここだけの話ですが、ロビンがパスカル様付きになります」
リリーの言葉に全員が驚いた。
「ロビンがお兄様付きに?」
「そうです。小隊戦に参加した結果、異動の内示が出たと聞きました」
リリーは妻として夫であるロビンの内示を知っていた。
「ということは、私の側にはつかなくなるのですか?」
「デナンがリーナ様の側につくと言っていました」
「ピックは?」
「聞いていません」
「従騎士としては残れるのですよね?」
「そうみたいです。でも、配置換えがあると言っていました」
「警備関係者の入れ替えや再配置はよくあります。詳しくはご説明があるかと」
「そうですね。しっかりと説明してもらいます」
リーナは第一王子騎士団の説明役が来るのを待つことにした。
「ヴェリオール大公妃にご挨拶申し上げます」
団長補佐のタイラーが来た。
「ヴェリオール大公妃の新しい護衛体制が決定しましたので、私の方から説明させていただきます」
これまでは第一王子騎士団の中からヴェリオール大公妃付きが選ばれ、護衛任務についていた。
これからは第一王子騎士団と王太子騎士団による共同護衛体制になることが説明された。
「筆頭護衛騎士はラグネス、騎士長はマルティンが務めます」
「ラグネス、引き続きよろしくお願いしますね」
「これまで以上に励みます」
ラグネスが深々と頭を下げた。
「マルティンは王太子騎士団の担当者ですよね? よろしくお願いします」
「ヴェリオール大公妃付きとしてふさわしく励みます」
「お兄様の護衛は第一王子騎士団の騎士と王太子騎士団からの出向者でした。それと同じような感じになるのでしょうか?」
「見た目はそうです。ですが、王太子騎士団からの出向者ではなく、常時の派遣者になります。より詳しく説明した方がよろしいでしょうか?」
「お願いします」
「これまでは近距離護衛の全てを第一王子騎士団が担当していました。今後は護衛対象に対し、第一王子騎士団枠と王太子騎士団枠を設定。各騎士団から選定された騎士が護衛任務につきます」
各騎士団のまとめ役がわかりやすくなるよう役職も分けられた。
筆頭護衛騎士は第一王子騎士団の護衛騎士が務め、その代理や補佐以下も第一王子騎士団に所属する騎士になる。
騎士長は王太子騎士団の者が務め、その代理や補佐以下は王太子騎士団に所属する者になる。
「これまで騎士長だったサイラスはどうなったのですか?」
「筆頭代理になりました。ラグネスとペアを組み、護衛任務にあたります。マルティンや王太子騎士団のおかげで警備指示の負担が減るため、より護衛任務に集中できるでしょう」
「そうですか。サイラス、これからもよろしくお願いしますね」
「はい。全力で励みます」
後ろに控えていたサイラスは深々と頭を下げた。
「新年の人事により、一部のヴェリオール大公妃付きは異動になりました。何かありますでしょうか?」
「ユーウェインは疾走訓練で最終勝者になりました。お兄様付きでしたが、そのままでしょうか?」
「王太子付き護衛騎士に昇格しました。今後は王太子殿下の護衛任務につくため、クロイゼルの指揮下に入ります」
「お兄様の筆頭護衛騎士は?」
「ハリソンです」
「お兄様が襲撃された時、守ってくれた騎士の一人ですね?」
「そうです。レーベルオード子爵付きの筆頭は護衛騎士補佐でしたが、護衛騎士になりました。実力者が担当しておりますのでご安心ください」
「従騎士のことも気になります。どうなりましたか?」
「ロビンはより多くの経験を積むため、レーベルオード子爵付きに変更されました。団長付きだったデナンはヴェリオール大公妃付き、ピックは王太子騎士団への出向になりました」
「ピックが出向?」
三人の中で最も騎士になりたがっていたのはピック。
しかし、実力的に最も厳しいことをリーナは知っていた。
「マルティン、王太子騎士団において従騎士はどのような扱いになるのでしょうか?」
「騎士の支援業務をしながら、騎士に昇格するための訓練をします」
マルティンが答えた。
「今回の出向はゼッフェル団長からの依頼です。ピックの優秀さを王太子騎士団の従騎士に伝えたいそうです」
「ピックの優秀さを? どんなところが評価されたのでしょうか?」
「自らの役割をわかっており、率先して必要な仕事をすることです」
「わかります。でも、それって普通のことですよね?」
「そうなのですが、王太子騎士団の従騎士においては普通とは言えません」
王太子騎士団の従騎士は実力者揃い。従騎士におけるエリートの集まりだと言われている。
そのため、すぐに騎士に昇格できると思っている者が多く、実技審査での評価を良くするための訓練に励んでいる。
しかし、従騎士にとって最も重要なのは訓練ではない。騎士の補佐や支援及び雑務をする従騎士としての仕事になる。
いくら実力があっても従騎士としての勤務評価が良くなければ騎士になれない。
そのことを王太子騎士団の従騎士に教えるため、追加審査で同僚や仲間のために全力を尽くしていたピックを模範役として迎えることが説明された。
「そうでしたか。ピックが良い意味で評価されているのがわかって嬉しいです」
ピックは王太子騎士団に出向することで、新しい経験を積める。
それがきっとピックを今以上に成長させるだろうとリーナは思った。
「ヴェリオール大公妃として、ヴェリオール大公妃付きになった騎士の全員に期待します。よろしくお願いしますね!」
「期待に応えるよう真摯に務めます。では、これで失礼いたします」
タイラー以下、挨拶に来た騎士の全員が退出した。
緊張していたリーナは大きく息をつく。
「お疲れ様でございました」
「お茶をご用意いたしましょうか?」
レイチェルとヘンリエッタが気遣う。
「後宮のことについての説明役も来ますよね?」
「はい。私の指揮下に入るヘンリエッタたちの変更については先にお知らせしましたが、それ以外の変更等については後宮の説明役が来る予定です」
「宰相閣下は改革を進めるために厳しい変更をしているはず。私が後宮統括補佐のままかどうかが気になります」
リーナだけでなく、侍女の全員が気になっていることだった。





