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後宮は有料です! 【書籍化】  作者: 美雪
第八章 側妃編
1351/1356

1351 メリーネへの内示



 パスカルに呼び出されたメリーネは相当緊張していた。


「お呼びとか」

「秘密の話がある」

「はい」


 それはわかっていた。


 なぜなら、メリーネが呼び出されたのは以前使ったことがある部屋――取調室だった。


「秘書室長として頑張っているね。評価しているよ」


 パスカルはにっこり微笑んだが、メリーネの不安は増すばかり。


「まずは質問がある」

「どのような質問でしょうか?」

「結婚したいかな?」


 メリーネにとってパスカルは国王よりも恐ろしい人物。


 それだけに、パスカルから結婚という言葉が出ること自体が想定外だった。


「……それはどのような意味でしょうか?」

「結婚願望があるかどうかを確認しておきたい。特殊な立場だからね」

「特殊な立場なので結婚はできません」

「守秘義務を守れるなら結婚できるよ」


 メリーネにとってあまりにも驚くべきことだった。


「結婚できるのですか?」

「結婚してはいけないと言った覚えはないよ?」

「そうですが……」

「いつか誰かと結婚したい? もしくはすでに結婚したい相手がいる?」


 メリーネは目を細めた。


「政略結婚のお話でしょうか? それとも結婚を理由に退職しろということでしょうか?」

「別の話だ」

「と、いいますと?」

「人事変更が必要になる」


 宰相が後宮統括としてまたしても大きな改革をした。


 後宮は一月中に組織改編及び人事変更を行い、二月から新体制に移行しなければならない。


「秘書室がなくなる。誰かから聞いたかな?」

「いいえ。初めて知りました。ですが、秘書室の予算が一ヵ月分しかないので、何かありそうだとは思っていました」

「後宮の予算を削るためだ。ヴェリオール大公妃の部署は王子府内にある。後宮にある秘書室は不要だと判断された」

「そうでしたか」

「秘書室長の上司はヴェリオール大公妃だ。でも、人事権はない。秘書室をなくした宰相が秘書室長を助けるわけもない。メリーネの真の上司は誰だったかな?」

「レーベルオード子爵です」

「つまり、真の上司としてどうするかを考える必要がある」

「なるほど」


 メリーネは納得した。


「あらためて伝えたい。王族付きは実力以上に心が大事だ。忠誠心のことであり、主君のために自らの力を最大限に活用して尽くさなくてはならない。自分自身や何らかの目的のために主君を利用してはいけない。大義名分をかざしても、それは忠臣のすることでない。主君の信用を裏切る行為だ」

「わかっております。私は一生をかけて償います。そのためにも、今後どうすればいいのか教えていただきたいのですが?」

「密命だ。裏になってほしい」


 メリーネの優秀な頭脳はすぐに言葉の意味を察した。


「どのような情報収集をすればよろしいでしょうか?」

「今回の組織改編で上位部と役職が激減する。でも、国王府の手先は新設される運営管理部に残る。リーナが後宮内を改善したせいで解雇する理由が見つかりにくい。そこでメリーネの出番だ」

「国王府の手先を辞めさせるための情報を収集するわけですね?」

「すでに後宮長は飾りだ。補佐も同じ。国王府のいいなりだ。赤字運営や予算削減を理由にして給与を大幅に減らした宰相を恨んでいる。後宮改革に協力しないどころか、邪魔しようと考えている。そこで補佐をなくして秘書に変えることにした」


 侍従の仕事を侍女の仕事に変えた前例がある。


 それは男性の仕事でも女性にできるのであれば振り替えることができるということ。


 パスカルは後宮統括を兼任している宰相と話し合い、上位役職者の補佐を秘書に替えることを了承させた。


「後宮長の秘書として働きながら、後宮内に不正や問題がないかを確認してほしい。怪しい点や使えそうなことがあれば報告を」

「わかりました」

「本当にわかっているのかな?」

「飾りの後宮長の面倒を見ながら情報収集をするのでは?」

「他の上位者も監視してほしい」

「情報収集の一環ですのでわかっています」

「じゃあ、頼んだよ。裏後宮長の役目をね」

「裏後宮長!」


 衝撃のあまり、メリーネは叫ばずにはいられなかった。


「後宮長が放り投げた後宮長の仕事をすることになる。秘書というのは表の立場、実際は裏の後宮長みたいなものだよ」

「確認します。私には強い権限を与えないというお話があったと思うのですが?」

「メリーネは真の上司に従って暗躍するだけだ。強い権限を持つのは真の上司であってメリーネではない。違うかな?」

「違いません。愚問でした。申し訳ありません」

「後宮長の秘書をうまくやれるほど、後宮を思い通りにできそうな誘惑が芽生えるかもしれない。でも、飾りの後宮長を操っても仕方がない。国王府に目をつけられ、今度こそ後宮長を傀儡にした罪で裁かれるだけだ。そうなった場合、助けることはできない。絶対に気をつけるように」

「わかりました」


 メリーネは頷いた。


「ですが、ご懸念には及びません。私が改心したこと、優秀であることを証明できると思います!」

「ついでに結婚相手も探すといいよ。期待はできないけれどね。メリーネの理想は相当高いから」


 反論できない。する気も起きない。


 自分の理想がいかに高いかをメリーネはよくわかっていた。


「結婚相手として気に入らない相手から言い寄られたら、それも報告してほしい。うまく使えば職権乱用、解雇か交代の理由にできる」


 無用者を排除するため、利用できることは利用すると……。


 パスカルの優秀さと恐ろしさをメリーネは感じずにはいられなかった。


 だが、さすが真の上司、王族の側近を務める者だという尊敬の念もあった。


「はっきりと伝えておく。メリーネが目指した後宮改革はする必要がない。リーナと宰相が改善と改革を行い、後宮を正しく導いている。メリーネはそれを支え、守っていくのが役目だ」

「わかっております」

「これはかつて後宮長だった父親に全ての責任を押し付けた国王府への復讐になり、親孝行にもなるだろう。本望かな?」


 メリーネの表情は一瞬で光輝くように明るくなった。


 父親の無念を果たすために王都へ来た。


 その夢は幾度となく暗礁に乗り上げ、希望を失いかけ、谷底に落ちてしまったことさえある。


 だが、苦難を乗り越えた先にあったのは夢の実現。


 パスカルによって真の忠心を証明するための機会が与えられただけでなく、父親を左遷に追い込んだ国王府への復讐までが用意されていた。


「本望です!!! 心から感謝いたします!!!」

「裏後宮長の活躍を期待している」

「はい! お任せください!」


 メリーネの胸に込み上げるドキドキはどうにも止まらなかった。



 お読みいただきありがとうございました!

 短編「呪いのダイヤモンドをもらったら」を投稿しています。

 時間がある時に見ていただけたら嬉しいです。


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― 新着の感想 ―
裏後宮長!!!! メリーネさんにこんな日が! パスカル、、、、恐ろしい子 いよいよ王家の闇的なものを掃除する時がきたのか?!
2025/09/15 12:49 みんな大好き応援し隊
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