135 次の催し
身支度競争の次は、侍女見習いによる手紙配達リレー競争だ。
まずはスタート地点から少し距離がある場所に用意された箱を開ける。箱の中には封筒が沢山入っているため、自分の番号が書いてある封筒を探す。封筒を見つけたら、その中にあるカードを見る。
カードには届ける相手が書かれている。個人名ではなく、側妃候補、役職付き侍女、侍従、官僚、貴族、王族などと様々に指定されているため、対象者に届ける。
対象者にはカードの受け取り確認としてのサインをして貰う。
封筒とサイン付きのカードを持って戻ると、次の順番になっている侍女見習いに交代。
チームの全員が手紙を届けてサインを貰って戻ったら、封筒やカードを全部箱に入れてゴールする。
四十二チームのうち、先着五位までが加点対象。
届けた相手がサインをしてくれるとは限らないため、サインをしてくれそうな相手を選んで届けるのが重要だった。
手紙配達リレー競争が始まると、第一走者の四十二人が箱にめがけて突進した。
まずは四十二個ある箱の中から、自分の側妃候補の名前が書かれた箱を探す。
箱を早く探すことも早く届けることにつながる。しかも、箱の中にある封筒から自分が胸につけているのと同じ番号の封筒を探す必要もある。
「頑張って!」
「右の方に箱があるわ!」
「左の箱は誰も見ていないわ!」
「早く封筒を探して!」
この出し物は声援が許可されていたせいで、一気に場が盛り上がった。
侍女見習い達は次々に封筒のカードにある届ける相手を見て、大宴の間に散らばった。
届ける相手の中には王族もいる。非常に届けにくい相手ではあるが、目に留まるチャンスでもある。
侍女見習い達は上座に鎮座する王族に向かって果敢に叫んだ。
「王族の方にお届けものです! ご確認いただけないでしょうか?」
位置的にいって、侍女見習いが懇願したのは第三王子。
本来は王太子と第二王子しか出席する予定ではなかったが、第三王子も見学中だ。
王族という指定であるため、第三王子でもいい。
そうして、第三王子は身分が低い者や平民にも気さくに声をかけると知られているため、王太子や第二王子よりも声をかけやすいと感じた侍女見習いが多かった。
「仕方がない。こっちに来い」
王太子や第二王子が応えるわけもないと感じたレイフィールは自分が対応役を務めることにした。
「カードに受け取り確認のサインをいただいて戻ることになっているのですが……」
「サインか」
だが、王族が余興でサインをするわけにはいかない。
「王子と書け。それがサイン代わりだ」
レイフィールは側にいる侍従に指示を出した。
第三王子の側にいけば、侍従が王子と記入してくれるとわかり、王族のお題になった侍女見習い達は全員レイフィールの方へ向かった。
その様子を見た後宮の上位関係者はため息をつくしかない。
後宮華の会は王太子や第二王子を歓迎する催しであり、後宮の印象を良くするための催しだ。
第三王子の機嫌を取るのが悪くはないが、最も機嫌を取りたい王太子の機嫌取りにはならない。失敗だった。
入賞は五位までのため、五チームがゴールすればそこまで。
審判が全ての手紙をチェックし、指定された相手のサインを貰っているかの確認する間に他のチームがゴールしていく。
審判が駄目だと判断すると、六位以降のチームが繰り上がる可能性がある。
参加している侍女見習いも、応援する侍女や侍女見習いも、緊張しながら順位が確定するのを待った。
審判は非常に厳しく審査したため、サインが不十分という場合が多くあった。
やり直し、ゴールとは認めないと言われてしまうチームが続出したため、ゴールが遅くてもしっかりと誰に届けたのかがわかるサインを貰っていたチームが一位に認定された。
ただ早ければいいというのではなく、客観的にみてきちんと仕事ができているかを重視した審判の判断が思わぬ結果につながった。
手紙配達リレー競争の次は、侍女による整理整頓競争。
大宴の間の中央に大量のアイテムが用意される。
アイテムの中には側妃候補の名前が記入されたアイテム、側妃候補用のアイテム、何の記入もないダミーのアイテムがある。
侍女は自分が仕えている側妃候補名前があるアイテムや側妃候補用のアイテムを各十個探して持ち帰る。
そして、持ち帰ったアイテムを用意された箱に綺麗に整理整頓して入れるという内容だ。
整理整頓された箱を見て審判が合格と判断したチームの内、先着順で五位までが入賞、加点対象。
整理整頓競争が始まると、参加する侍女が一斉に大量のアイテムに向かって走り出した。
「頑張ってください!」
「全部で二十個です!」
「名前が十個、候補用が十個です!」
声援が飛び交う中、侍女達は手前にあるものから順番にどんどんアイテムが自分の仕える側妃候補のアイテムかどうかを確認した。
侍女の数が少ないため、一人で何個も持ち帰らなければならない。しかも、側妃の名前が記入されたものと側妃候補用のものがある。
事前にルールについては説明を受けていたため、各チームでどのようにすれば一番効率よくできるかを考え、作業分担するチームが多かった。
「終わりました!」
「確認をお願いいたします!」
「整理整頓をしました!」
次々と声と手が上がるが、四十二チームあるだけに整頓整理を判断する者は複数いる。
「合格だ。このチケットを持ってゴールへ行け!」
「ありがとうございます!」
最終判断は合格と書かれたチケットを持った侍女が審判の元へ行き、順位を書いて貰うことで決定する。
今回は最も早く箱の確認を願い出たチームが一位になった。
「やったわ!」
「一位よ!」
「凄い!」
参加していない侍女見習い達は大喜び。
大宴の間の雰囲気はかなりの盛り上がりを見せた。
しかし、クオンはその様子をまったく見ていなかった。
整理整頓競争が始めると、伝令が早急に判断して欲しい書類を持って来た。
クオンは書類に目を通してサインを始めた。つまりは、執務を優先した。
それは王太子として当然のことだが、後宮の関係者にとっては嬉しくない。
後宮華の会の時間が長いからこそ、終わるまで待てないというのも理解可能だが、せめてもっと書類の数を少なくして欲しいと思うほど、届けられたファイルは分厚かった。
クオンはこの書類を理由にして退出することを考えたが、この後で弟達との話し合いがあることを思い出し、仕方がないとばかりにその場で書類を片づけることにした。
早く、早く終わってくれ!
わざわざ王宮から書類を持って来るとは!
後宮華の会の最中だというのに!
後宮関係者が心の中で叫ぶ中、エゼルバードも兄が書類仕事を始めたことを気にしていた。
次は借り物競争だというのに!
それにはリーナが参加する。
今度こそ兄がリーナを見てどんな反応をするかを楽しみたいエゼルバードは、書類の処理が早く終わるよう強く念じていた。





