1349 結果を受けて
第一王子騎士団と王太子騎士団は別組織だけに命令系統は別。団長は王太子直属で同列扱いだった。
しかし、小隊戦の結果をクオンは考え、二人の団長間における優先順位をつけた。
第一王子騎士団長のラインハルトが上、王太子騎士団長のゼッフェルが下。
これはあくまでも二人の団長間におけるもので、第一王子騎士団が王太子騎士団よりも上位の騎士団ということではない。
騎士団は同列のまま。
現場状況に対応した安全確保の判断は、これまで通り近距離護衛の判断を優先。
近距離護衛任務では筆頭護衛騎士の判断が最優先。筆頭護衛騎士の代理がいない場合は騎士長の判断が優先というルールについての変更もない。
しかし、第一王子騎士団の人員や予算不足の問題を解決するため、近距離護衛の任務については第一王子騎士団だけでこなすのではなく、王太子騎士団の騎士も常時配置されることになった。
これらの決定により、護衛担当と警備担当に分かれていた二つの騎士団は、共に力を合わせて護衛任務を担うことになった。
「レーベルオードの護衛で試験的に導入していたわけか」
パスカルの執務室でロスターがため息をついた。
「パスカルは知っていたのか?」
「知らなかった」
パスカルの護衛については護衛騎士補佐のユーウェインが筆頭騎士で、王太子騎士団からの出向者であるロスターが騎士長を務めていた。
勤務時間による交代の原則として、ユーウェインは第一王子騎士団の騎士、ロスターは王太子騎士団の騎士と交代する。
つまり、近距離は第一王子騎士団、距離を置いての全体的な警備については王太子騎士団という役割分担をそのまま個人の護衛にも反映させた体制で、ゆくゆくは護衛体制自体を全てそのようにしていくための変更だった。
「筆頭騎士以下と騎士長以下で騎士団を分ければ、二つの騎士団から護衛につく騎士を抜擢できる。第一王子騎士団の負担はかなり軽減するだろう」
「そうだね。さすが王太子殿下だよ」
王太子の護衛体制については現状維持になるが、リーナやレーベルオードの護衛体制については二つの騎士団による分担制が正式に導入された。
「ゼッフェル団長は大喜びだ」
小隊戦で負けてしまっただけに、同列扱いだった団長間に上下がつけられてしまう。
その結果、王太子騎士団が軽視され、冷遇につながってしまうおそれがあった。
ところが、実際は逆。
最上位の団長間については下になったが、近距離護衛任務の常時枠を得た。
これは第一王子騎士団の創設によって近距離護衛の担当からはずされ、全体警備や外部派遣等の担当に変更されてしまった王太子騎士団にとっては厚遇であり大躍進。
昔の王太子騎士団が担っていた役割を一部取り戻すことになった。
「ラインハルト団長も良かったと思っているよ」
新しい決定により、第一王子騎士団は護衛騎士の人数を増やさなくていい。
近距離護衛を強化しつつ、人件費を抑制することができる。
「個人的には悲しい……」
ロスターは肩を落とした。
パスカル付きの騎士長は常時王太子騎士団枠になった。
第一王子騎士団枠ではないだけに、ロスターを第一王子騎士団に引き抜く必要がない。
むしろ、騎士長でいるには王太子騎士団の騎士でいなければならなかった。
「第一王子騎士団に引き抜かれなければ護衛騎士にはなれない。もう一生護衛騎士になれないということだ!」
「それはわからないよ」
パスカルは励ましの言葉をかけた。
「第一王子騎士団の人員を補充するなら、すでに現場の状況を理解している者がいい。騎士長やその交代要員から引き抜かれる可能性が上がったと思うよ」
「パスカル付き騎士長から、パスカル付き護衛騎士や護衛騎士補佐になりやすくなったというわけだろう?」
「そうだよ」
「同じだ。出向の時もそうだった。むしろ、出向ではなくなった。常任だ!」
「王太子殿下は未来を見据えて判断されている。国王になった時に騎士団を統合することに向けての取り組みだと個人的には思っているよ」
「だろうな」
「ところで、ユーウェインに大事な話がある。ロスター、留守番を頼めるかな?」
「わかった。トロイが戻る前に行け。でないとうるさいからな」
「ユーウェイン、行こうか」
「はい」
パスカルとユーウェインは執務室を出た。
「ここにしようか」
パスカルは馬での外出を選んだ。
二人が到着したのは王宮地区内にある人工水路がある場所だった。
「馬も僕たちも休憩だ」
「はい」
人工水路で馬に水を飲ませ、木につなぐ。
そのあと、二人は周囲に誰もいないことがわかりやすい見晴らしの良い場所に移動した。
「王太子殿下から内示を聞いたはずだ。でも、ラインハルト団長に答えを伝えていない。もう決めないとだよ」
「どこまで知っているのですか?」
「王太子付きの護衛騎士として、王太子殿下の護衛任務を担当する。命を懸けずに護衛任務を遂行するよう言われたことも知っている」
全部知っているようだとユーウェインは思った。
「ユーウェインの才能は素晴らしい。当然の評価だ。むしろ、遅いぐらいだよ。近衛に入らず王宮騎士団に入っていれば、とっくの昔に第一王子騎士団に引き抜かれていたと思う」
パスカルはユーウェインを見て微笑んだ。
「騎士になる者は護衛騎士になることも目指す。護衛騎士の内示を受けたら天に昇るような気分になるし、夢を実力で叶えたと感じるだろうね。でも、ユーウェインは違う。そうだね?」
「騎士になりたいとは思っていませんでした」
ユーウェインは答えた。
「故郷は遠く、戻るためには相当な危険を覚悟しなければいけません。命を懸けて戻ったところで、自分の立場や生活がどうなるのかわかりません。それなら近衛騎士団に入るのが賢明だと思いました」
「その判断は正しかった」
パスカルはユーウェインの選択を支持した。
「難しい状況だった。未成年だったのに冷静に一人で判断した。すごいよ」
「流されただけでもあります。楽でもありました」
ユーウェインはうつむいた。
「ずっと流されてきました。楽な方へ」
「楽ではなかった。つらかったはずだよ」
「騎士を辞めることができなかったせいです」
ユーウェインは悔しかった。見返したかった。
騎士になり、騎士らしいと思われることで。
だからこそ、近衛騎士団で最低の出自だとバカにされても退団しなかった。
「パスカル様には言います。私の選択は間違っていました。騎士を辞めた方が楽でした。あるいは、近衛から王宮騎士団や警備隊に転職した方が良かったと思います」
「近衛騎士の経歴があれば、転職はしやすいはずだからね」
「王都民に変更したのも、金銭的な意味では失敗でした」
最も高い税金を課せられるのは王都民。
それに比べると、辺境民に対する税金はないのと同じだった。
「私は常に最善の選択をしていたつもりでしたが、そうではありませんでした。人によっては愚かだと思うような選択をしていました」
ユーウェインはパスカルに顔を向けた。
「とても大事なのことなので、友人として相談します。内示を受けるべきでしょうか?」
人生がかかっている。
だからこそ、ユーウェインはパスカルに聞くしかないと思った。





