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後宮は有料です! 【書籍化】  作者: 美雪
第八章 側妃編
1348/1357

1348 小隊戦(五) ~今度こそ~



「よろしくお願いします!」

 

 午後のリーナは服装を変えていた。


 黄金の塔に行くことがわかっているため、丈が少し短いドレスとブーツにしていた。


「抱えられての移動はクオン様に禁止されました。何かあったのかと心配になるため、本当に緊急な時だけにしてほしいそうです」


 騎士たちの予想通りだった。


「着替えたので動きやすくなりました。ブーツなので走りやすくもなっています!」


 リーナの機動力が増していた。


「リーナ様の安全が第一です」

「何かあれば遠慮なく言ってください」

「助かります!」

「よし、行くぞ!」

「今度は勝つ!」


 王太子騎士団は気合を入れ、リーナと共に黄金の塔の最上階を目指した。





「これは……」


 先頭を任されたロスターは表情をひきつらせた。


 一つ下のフロアに辿り着く螺旋階段の前には椅子が置いてあった。


 審判のために用意された椅子で、王太子騎士団もその椅子を審判から容赦なく奪って活用した。


 第一王子騎士団も同じように椅子を利用することにしたのも、わざわざ最上階の一つ下のフロアまで来たことも明らか。


 椅子の位置は階段を降りた場所の中央部分。


 椅子を避けるか、椅子を移動するかになる。


「どうする?」


 ロスターは警戒態勢を維持しながら仲間に尋ねた。


「避けろ」

「外側だ」


 ロスターは椅子を避けながら外側の壁の方を通ってフロアに降りた。


「見えない」


 階段を降りた場所から見える範囲内において、第一王子騎士団の姿はなかった。


「調べろ」


 椅子があっただけに、第一王子騎士団の者がこのフロアへ来たのは明白。


 かなりの警戒をしながらどこかに潜んでいないかを確認したが、審判しかいなかった。


「いないな」

「椅子だけ置いて戻ったのか」

「わざわざ上まで来るとは意外だ」


 体力を消耗してしまうため、王太子騎士団は階段を上らなかった。


「従騎士だな」

「椅子を置くだけなら一人でいい」

「クロイゼルとアンフェルがわざわざ上に来るわけがない」


 グループ分けの内容は知っている。


 第一王子騎士団の塔組はユーウェイン、ロビン、デナンはそのまま。ラグネスとサイラスがクロイゼルとアンフェルに交代した。


 最も警戒すべき最強の騎士ペアが入っただけに、緊張してしまうというのが本音。


 午前中の塔組にクロイゼルとアンフェルが選ばれなかったのが不思議で仕方がなかった。


 だが、ラグネスとサイラスの二人は普段からリーナの側で護衛を担当している。


 小隊戦に参加しながら、本当の護衛任務も継続できる。


 また、その二人が作戦を立てて実行しやすいように、上位になる王太子付きをあえて入れなかった。


 咄嗟の連携も修正もしやすいメンバーとしてユーウェイン、ロビン、デナンを選んだラインハルトの采配を見事だと思ってもいた。


「下に行こう」


 ロスターが先頭を続けることになった。


 そして。


「またか」


 階段を降りた場所の真ん中に椅子があった。


「警戒しろ」

「今度こそいるかもしれない」

「フェイクかもしれない」

「外側だ」


 椅子はそのまま。外側の方をロスターは通り抜け、誰もいないことを伝えた。


 リーナの側に一人を残し、四人でフロアを捜索するのも同じ。


「いないな」

「また椅子だけ置いていったのか」

「審判泣かせだな」


 階段を降りる。また一つだけ椅子がある。同じ。審判以外はいない。


「フロアを確実に捜索させるためか?」

「捜索は緊張するからな」

「揺さぶりをかけているのだろう」

「心理戦も重要な要素だ」


 そして、ついに変わった。


「最悪だな」


 二階から一階に降りる階段の途中には椅子だけでなくさまざまなものがあった。


 何も置いていない場所がない。


 階段を降りて一階に行くには、邪魔なものを取り除く必要があった。


「ロスター」

「両手を使わないと難しい。援護を頼む」


 ロスターは木製の剣を腰のベルトに挟み、手に取った小物を階段の下に向かって投げつけた。


 そうすることで襲撃を牽制、付近に誰かが潜んでいないかを探るつもりだったが、小物がぶつかる音がするだけだった。


「まさか……全員外か?」

「塔組については塔の中に入る行為はしなければならないという説明だっただろう?」

「椅子を置きに来た。塔の中に入ったということだ」

「突入フラグを立てるための椅子だったのか?」

「階段の途中に物を置いている。それも中に入らないといけない」

「上の階に行って椅子を置く者を一人決め、それ以外は雑多なものを集めて置く作業をしたのかもしれないな」

「全部、私だけで取り除くのか?」


 ロスターが尋ねた。


「通れるようにしてくれればいい」

「踏みつけてもいいようなものはそのままでいいが、リーナ様が安全に通れるようにしなくてはいけない」

「リーナ様がブーツに履き替えられていて良かった」

「確かに。足を守りやすい」


 ロスターは邪魔だと感じるものを選びながら、不意に飛び出されることを警戒するために手に持ったものを投げ続けた。


「ようやくだ……」


 いつ襲撃があるかわからない状態での作業にロスターは精神的な消耗をしていた。


「休憩してもいいか?」

「審判を呼べ」

「審判! タイムを取りたい!」


 ロスターは階段から叫んだ。


 ところが。


「無理!」

「襲撃中だ!」


 デナンとロビンが突如現れた。


 審判は各階にいるため、階段の途中から叫んでもすぐには反応しない。


 階段の方に襲撃予定の騎士がいれば、それを審判の判断で邪魔するわけにはいかないということで交戦中の判断、タイムを取れなくなる。


 第一王子騎士団の塔組はそのように考え、階段の途中を襲撃場所に選んだ。


「来た!」

「撃退しろ!」


 すぐに王太子騎士団の二人の騎士が前に出た。


 ロスターは疲れていたのと武器を持っていなかったために階段を素早く上がる。


 階段で二対二の対戦が始まった。


 とはいえ、十分なスペースがない。


 しかも、デナンとロビンが持っているのは水で濡れているモップだった。

 

 拭く方を突きつけながら振る度に水が飛ぶ。


 古いモップが汚く見えるのもあり、最悪級の攻撃だと王太子騎士団は思いながら木製の両手剣で応戦した。


 本物の武器ではないだけに切りつけることができず、打ち合いになる。


 階段の上にいる方が地形効果で有利なはずだったが、ぶらぶらと揺れるモップの先が視界を狭める。水が飛ぶ。汚い感じがする。戦意をくじこうとしているのもわかっている。


 王太子騎士団側の苛立ちはかなりのものだった。


「誰が考えたんだ!」

「汚いぞ!」

「やり方もモップもだ!」

「それでも第一王子騎士団なのか?」


 王太子騎士団側の文句が止まらない。


 だが、ロビンもデナンも気にしない。


 これはリーナを奪還するための作戦。使えるものは使うだけの話だった。


「そっちも汚い雑巾を使ったじゃないか!」

「教官に投げつけたお返しだ!」


 口でも遠慮なく応戦。


「リーナ様は離れて!」

「モップの水が飛ぶ!」

「確かに……ちょっと嫌ですね」


 リーナは水が飛んでこないよう階段を上った。


 階段の幅が限られているだけに王太子騎士団側は加勢しにくい。


 そのまま時間が過ぎていくが、だんだんと従騎士たちに疲れが見え始めてきた。


「さすがに強い……というか水を含んでいるせいでモップが重いよ!」


 ロビンがつらそうな表情になり、デナンが舌打ちした。


「仕方がない! 交代だ!」

 

 ロビンとデナンが下がると、すぐに階段の影からクロイゼルとアンフェルが出てきた。

 

 二人が手に持っているのはデッキブラシ。


 第一王子騎士団の装備は片手剣だが、王太子騎士団の両手剣に対応するため、攻撃のリーチが長い掃除道具を活用することにした。


「倒せていないではないか!」

「しっかり攻撃しろ!」

「だって掃除道具だし!」

「モップなので……」


 次はデッキブラシと木製両手剣の攻防が始まった。

 

 クロイゼルとアンフェルがデッキブラシを槍のように使って猛攻を仕掛けたため、すぐに王太子騎士団の騎士は耐えきれなくなった。


「交代だ!」

「つらい!」


 王太子騎士団の方も交代しようとしたが、階段の途中で足場が悪いために簡単ではない。


 まずは一人がなんとか二人の騎士の間に入り、疲れた者と交代した。


 そして、もう一人の交代者が同じように二人の騎士の間に入り込んだ時だった。


「捕縛だ!」


 交代したはずのロビンとデナンがマントをかぶせに来た。


 横一列に並んだ三人はマントで視界を奪われてしまう。


 そして、三人を抑えつけるためにクロイゼルとアンフェルがデッキブラシを横に持ち替え、押し倒すように体当たりをした。


「うおっ!」

「なんだ?」

「見えん!」


 突然押された王太子騎士団の者は慌ててしまい、そのままバランスを崩して倒れ込んだ。


 交代したばかりの者も、リーナの護衛として上の段の方にいたロスターも驚くしかない。


「逃げろ!」


 不利だと感じた騎士が叫んだ。


「上に!」


 ロスターに言われたリーナは階段を急いで上がる。


 疲れて交代した騎士がそのあとを追って二階に向かった。


「ロスターに任せた!」


 次の瞬間、無表情のユーウェインが突撃して来る。


「やはりか!」


 双剣による攻撃を受けながらロスターは叫んだ。


「無理過ぎる……」


 場所が悪い。狭い階段では両手剣を使いにくい。


 一人だけの方がましということで仲間がロスターに任せたのは普通だが、ユーウェインは双剣を逆さに持っていた。


 それは持ち手部分を短剣代わりに使うためであり、木製武器である以上は打撃による攻撃になるからこその選択だった。


 息をつかせないほどの素早い連続攻撃が続き、ロスターは両手剣で防戦するしかなかった。


「明日は勤務だというのに!」


 防御しきれない分がロスター自身に当たり、その回数がどんどん増えていく。


 武器の差、攻撃と防御の速度差が如実にあらわれていた。


 これが本物の武器だったら……。


 ロスターはユーウェインの底知れぬ強さを感じずにはいられなかった。


「デナン、結んだ?」

「もう少し!」


 ロビンとデナンがクロイゼルとアンフェルに抑えつけられている騎士たちの足を縄で縛りにかかる。


 一人ずつではなく、あえて二人三脚のように隣の者の足と結ぶよう工夫した。


「早くしろ!」

「抵抗しまくりだな!」


 もがく騎士達をクロイゼルとアンフェルはマントの上から容赦なく抑えつけ、大怪我をしない程度に殴っていた。


 王太子騎士団の騎士としては起き上がって逆にクロイゼルとアンフェルを押し倒したかったが、王太子の護衛任務が待っている二人に怪我をさせるわけにはいかないという気持ちによる躊躇があった。


「行けます!」

「行け!」

「引くぞ!」


 ロビンとデナンは三人の騎士を縛った足に別につけた縄を持って下に降りていく。


 重しのように倒れた騎士の上に乗っていたクロイゼルとアンフェルも素早く移動したため、つながれた三人の騎士は階段をずりずりと引っ張られていった。


「おいっ!」

「痛い!」

「最悪だ!」

「重いなあ!」

「大柄だからな!」


 一階に降りるとデナンは縄の先を奥の方にあるドアノブに結びに向かい、ロビンは外に通じるドアを開けに向かった。


「援護に来て!」


 ロビンの声を聞いた馬車組のラグネスとサイラスが走り出す。


 クロイゼルと一緒にリーナが降りて来た。


 ユーウェインがロスターを抑え、アンフェルが二階で疲れていた騎士を叩きのめし、クロイゼルが奪還したリーナを守りながら誘導する役目をこなしていた。


「ロビン! 交代だ!」

「リーナ様! こっちです!」


 ロビンはリーナの手を引いて外に出た。


 デナンも一緒に外に出たが、すぐにドアを閉めて抑えつける。


 それは塔の中にいる王太子騎士団が外に出るのを防ぐためだった。


「誘導をお願いします!」

「こちらです!」

「追手が来る前に早く!」


 リーナはラグネスとサイラスと合流。


 一緒に馬車へ向かって走り、リーナが馬車の中に入ったために終了になった。


 二回目も第一王子騎士団の勝利だった。





「説明しろ」


 第一王子騎士団と王太子騎士団の作戦と対応の説明が行われた。


「工夫したのはわかる。だが、掃除道具を投げたり突きつけたりするのは騎士らしいとは言えない。緊急時を想定した作戦だけに禁止ではないが、ここにいる者以外には話すな」


 緘口令が出た。


「これで勝負がついた。ラインハルト、ゼッフェル、人事に文句は言うな」

「御意」


 ゼッフェルの表情は曇っていたが、ラインハルトの表情は晴れやかだった。



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