1346 小隊戦(三) ~作戦VS作戦~
「タイム終了です!」
「続きを開始します!」
第一王子騎士団側のタイムが終わった。
「第一が来るぞ」
黄金の塔の一階で待機していた王太子騎士団の騎士たちは、第一王子騎士団の塔組とリーナが最上階へ行く間に、一階にある使えそうなものを調べた。
そして、審判役のために用意された椅子や掃除道具などを集め、床の内に置いた。
そうすることで歩きにくい場所を作り、普通に歩いて通れるルートを一カ所に絞った。
足場が悪ければ、咄嗟に散開するような行動が取りにくい。
第一王子騎士団の機動力を奪い、要人のリーナが何も置かれていない場所を通ってドアを目指すよう仕向ける作戦だった。
また、先陣を切るのはユーウェインだと予想しており、階段から降りて来たユーウェインの姿を見て当たったと思っていた。
「これは……」
ユーウェインは驚いていた。
階段の下、一階の床の上に見えるのは雑多なもの。
歩きにくくすることにより、階段からドアまでのルートを一つにする作戦であることがすぐにわかった。
利口だ……。
さすが王太子騎士団だと思いながらも、ユーウェインは動じることはなかった。
一番重要なのは、王太子騎士団の騎士たちがどのような行動に出るかであり、それに対応できるかどうか。
そして、王太子騎士団の方もまた驚いていた。
ユーウェインしかいない……?
普通は護衛をしながら全員が順番に降りて来る。
だが、二階から降りて来たのはユーウェインだけ。続いて降りて来る者がいない。
リーナを護衛する第一王子騎士団の塔組は、偵察するための一人とリーナを護衛する四人に分けたということだった。
チャンスだ!
一人ならやりやすい!
一対三なら王太子騎士団の方が有利だと王太子騎士団の騎士たちは思った。
「やれ!」
命令を出したのは王太子騎士団の方。
ユーウェインに向かって雑巾が投げられた。
もちろん、新品ではない。何度も使用されているようなものだった。
雑巾……。
黄金の塔の中にあるものは利用していい。
掃除道具も利用できるのはわかっていたが、ユーウェインとしては雑巾が飛んで来るとは思っていなかった。
普通は武器のようなものを投げる。
当たっても大怪我になりにくいことが重要だったが、当たりたくはないという意味では柔らかいものでも汚い雑巾でも同じ。
双剣装備の状態のため、剣で振り払う。
そのタイミングを見越して王太子騎士団の三人が飛び出した。
着用していたマントをはずしておき、それを広げてユーウェインの視界を塞ぐ。
そのままかぶせて押し倒し、縄などで縛ってしまうつもりだった。
ありがちな方法ではあるが、効果は抜群。
ユーウェインを武器ごとマントで抑え込むことができた。
「おお!」
「やった!」
「成功した!」
武器と武器による対戦を回避。現地にあるものやマントを利用した方法で仕掛けたのが効いた。
翌日の勤務のために怪我をしないためか、ユーウェインがほぼ抵抗をしなかったのもある。
だが、そのあとだった。
ユーウェインを縛る前に上からデナンが降りて来た。
その手にあるのは掃除に使用するデッキブラシ。剣よりもリーチが長い。
元々棒術が得意であり、槍の名手ゼッフェルに指導を受けたことでめきめきと実力が上がっている。
続くのはロビンで両手短剣。接近戦で挑まれたら非常に厄介な相手。
木製武器だけに殺傷能力は低いが、連続殴打は痛い。打撲になるのもわかっている。
王太子騎士団の三人はすぐに距離を取った。
「まずい!」
「下がれ!」
「三人です!」
ロビンが叫んだ。
デナンは容赦なくデッキブラシを振り回し、王太子騎士団の騎士たちをユーウェインから遠ざけた。
ロビンは素早くユーウェインを覆ったマントをどけて解放。
減らせそうだった戦力があっという間に復帰してしまった。
「くそ!」
「やられた!」
「そういうことか!」
王太子騎士団の騎士たちはすぐに悟った。
ユーウェインが一人で来たのは、一階に何人いるのかを確認するための囮。
これは実戦ではないため、大怪我をさせないようにすることもわかっている。
マントを利用して捕縛しようとしてきたため、あえて抵抗はせず、デナンとロビンが助けに来るのを待っていた。
「ラグネス!」
名前を呼ばれたラグネスがリーナを背負って降りて来た。
それを護衛するのはサイラス。
その姿を見て、王太子騎士団側は驚いた。
「リーナ様!」
「まさか!」
「なぜ?」
普通に考えれば、リーナは自分の足で降りて来る。
その方が移動しやすく、護衛としても武器を持ち続けることができ、守りやすいはずだった。
だというのに、ラグネスは武器を持つことを放棄してまでリーナを背負っていた。
具合が悪い、怪我をした、疲れているなどさまざまな理由が瞬時に思いつくが、正解はわからない。
緊迫した状況では一瞬の判断や行動が勝敗を分けることもある。
ユーウェイン、ロビン、デナンが王太子騎士団の三人を阻む間に、サイラスが先行しつつリーナを背負ったラグネスと共にドアを目指して走った。
「援護してくれ!」
正面の出入口の扉を開けたサイラスが叫んだ。
第一王子騎士団の馬車組から支援を受け持つ二人がすぐに全速力で走り出す。
王太子騎士団側の馬車組は支援に行けなかった。
なぜなら、呼ばれていない。
開いた扉の影になる部分で王太子騎士団の騎士は待ち伏せをしていた。
扉が開いて第一王子騎士団の騎士とリーナが出て来たら、後ろから近づいてリーナを確保、馬車へ走る作戦。
だからこそ、後ろから近づく前に大声で支援を呼ぶわけにはいかなかった。
リーナを護衛していた第一王子騎士団側の塔組はそれを読んでいた。
一階に降りて三人だと確認したことで、残る二人は外で待ち伏せしていると判断した。
場所は扉が開いた時に見えにくい場所と予想。
だからこそ、サイラスは勢いをつけて両扉を開け、片方の扉については壁に押し付けるように抑えることで、隠れていそうな騎士の動きを封じることにした。
逆側の扉の影にいたロスターは困った。
リーナが立っているのであれば、腕を引っ張って馬車へ連れて行ける。
抱きかかえることも想定していた。
だが、ラグネスが背負っている。
リーナを保護しなければならないのに、ラグネスの背中から引き剥がすようにして降ろすのは強引な方法だけに安全とは言えない。
リーナの安全が最優先。これは小隊戦であって本物の犯罪者相手ではない。
だからこそ、何が何でもリーナを奪還するための行動を取りにくかった。
「援護してくれ!」
ロスターは馬車組の応援を呼んだ。
だが、その間にもラグネスは全力で走り、サイラスが呼んだ第一王子騎士団の馬車組からの応援も全速力で近づいていた。
さすがユーウェインだ!
ラグネスは全力で走りながら、ユーウェインの鋭さに感心していた。
当初、リーナは普通に自分の足で降りて移動するはずだったが、背負う方法に変更した。
靴のせいで無理に走らせて転んだら困る。
リーナが取り合いになり、手を引っ張り合うような状況になってしまうかもしれない。
それらを防ぐには、誰かが背負った方がいい。
王太子騎士団の目的はリーナを確保することだけに、リーナを背負ったラグネスに攻撃しにくくなる。
リーナを無理に引きはがすべきかどうかもためらう。
その迷いによって行動を遅らせ、馬車組の援護と合わせてリーナを守り抜き、馬車に入れるという作戦だった。
「こっちだ!」
「パスカルが馬車で待っている!」
第一王子騎士団側の馬車組は、リーナを安心させて誘導させるための声掛けをすることになっていた。
黄金の塔から五人の騎士たちが一対一で対応していた場合、リーナが一人で脱出してくる可能性もある。
その時、第一王子騎士団の馬車を選んでもらうには、馬車へ誘導するために迎えに行く必要がある。
王太子騎士団も同じように迎えに行く可能性があるため、差をつけるための行動としてパスカルの名前を出すのが有効だと考えていた。
「リーナ様!」
「こちらの馬車に王太子殿下がいます!」
「そちらは犯罪者です! こちらに来てください!」
王太子騎士団側もやはりリーナへの声かけは考えていた。
だが、馬車へ向かって走っているのはリーナを背負ったラグネス。
王太子騎士団の声かけが効くわけもない。
「王太子殿下はそこにいる!」
「馬車の中にはいない!」
小隊戦の結果を見るため、二つの馬車の間に設けられた椅子にクオンは座っていた。
ロスターも王太子騎士団の騎士たちもリーナを奪還するためにラグネスを追ったが、対応は後手に回った。
その結果、ラグネスは馬車の方から援護に来た騎士に守られながら馬車に辿り着き、背中から降ろしたリーナを馬車に乗せた。
勝負はついた。
第一王子騎士団の勝ちだった。
「全員を呼べ。どのような作戦を立てたのかを報告させる」
まずは勝者になった第一王子騎士団側の塔組、馬車組の作戦が説明された。
そのあと、敗者になった王太子騎士団側の塔組、馬車組の作戦が説明された。
どちらもリーナの安全を最優先にして作戦を立てていた。
しかし、ラグネスがリーナを背負って馬車を目指すのは予想外。
馬車組のサポートも、第一王子騎士団の対応の方が圧倒的に早かった。
この二つの部分が勝敗の行方に大きな影響を与えたのは間違いなかった。
「王宮に戻って昼食にする。午後は逆だ。王太子騎士団がリーナを護衛しろ。第一王子騎士団は奪還して保護する方だ。昼食中に各騎士団で作戦を立てておけ。十五分の作戦タイムはなしだ」
まさかの二戦目!!!
クオンの言葉に全員が驚いた。





