1344 小隊戦(一) ~ロスターの悩み~
こんにちは。猛暑が続く中いかがお過ごしでしょうか?
七月は三つ連載していたのですが、「結婚生活は真っ白で」が完結しました。
ずっと前に書き終えていたものを少しだけ修正しながら投稿していました。
「もう恋なんてしない!と思った私は悪役令嬢」のほうは二章まで終わりました。
こちらはまだまだ連載が続きますので、日々何か読みたい人にはいいと思います。
この機会に読んでいただけたら嬉しいです。よろしくお願いいたします!
「憂鬱だ……」
ロスターの精神的な疲労はまたしても増していた。
「友人として聞く。パスカル、ユーウェイン、選ばれたか?」
王太子が新規人事の参考として行う小隊戦のことだった。
「友人として答える。選ばれていないよ」
パスカルは正直に答えた。
「僕は本職の騎士ではないからね」
「そうか!」
ロスターは表情を輝かせた。
「最大の謎であり懸念事項がわかって良かった! ユーウェインは?」
「答えません」
それがユーウェインの答え。
「私の記憶上、ロスターと友人になってはいないので」
「今すぐ友人になれ! それで解決だ!」
「遠慮します。図々しい友人は面倒なので」
「まあ、答えはわかっている。選ばれないわけがない」
ユーウェインは元団長付きの万能係。
パスカルを大勢の暗殺者から守り抜くだけの護衛力もある。
第一王子騎士団と王太子騎士団が合同で行った追加審査においては剣の技能と長距離馬術で一位。総合でも一位。
去年の疾走訓練では初参加にもかかわらず最終戦まで残り、今年は体調不良にもかかわらず最終勝者になった。
パスカルが最高の騎士と言うのは当然だと思えるほどの実力者。
そして、友人として信頼されていることも、ロスターは知っていた。
「デナンは選ばれていないだろうな?」
パスカルは質問の意味を察した。
それは選ばれてほしくないということだと。
「師匠は本気のようだね?」
「当たり前だ。団長としての力量が問われる。容赦なしだ」
だからこそ、目をかけているデナンには参加してほしくない。
怪我をさせたくない。大事にしたい。他の者は関係ないということでもある。
「従騎士だしな。選ばれるわけがない!」
「そう思いたいだけでは?」
「できるだけ知っているやつとは戦いたくない。小隊戦が終わったあとは勤務だぞ? 気まずい思いをしたくない」
ロスターが王太子騎士団側の小隊メンバーに選ばれているのは明らかだった。
「第一の従騎士は全員素直だ。筋もいい。可愛がりたいというのもわかる」
「ロスターがそんなことを言うなんて思わなかった。面倒だって言いそうなのに」
「私ではない。王太子騎士団の連中の声だ」
「そっちか」
「ラインハルト団長は必勝メンバーを選ぶに決まっている。王太子付き筆頭ペアのクロイゼルとアンフェルは絶対にいる。ヴェリオール大公妃付きの筆頭のラグネスと元筆頭で騎士長のサイラスも順当に選ばれるだろう。これでもう五人だ」
「四人ですが?」
「ユーウェインも入っている。残る五人の候補になりそうな者は誰だ?」
「明らかにスパイ行為です」
「出向者にありがちだね。王太子騎士団に返却しようか?」
「スパイじゃない! 友人として聞いただけだ! 答えるかどうかは任意でいい!」
ロスターは叫んだ。
「だが、私の立場を考えてほしい。出向としてこっちに来ているだけにあれこれ聞かれる。しかも、本当だろうなと言って疑うような眼差しを向けられる。心が痛い……」
「ロスターも大変だね」
「それは王太子騎士団の問題です」
「パスカルは優しい。ユーウェインは冷たい。それも予想通りだ」
ロスターは深いため息をついた。
そして、小隊戦の日が来た。
集合場所は黄金の塔だった。
「ルール説明を行う」
これは小隊戦。個人の技能よりも小隊メンバーと協力し合って目的を達成することができるかどうかが重要になる。
まず、十人のメンバーを二つのグループ、五人ずつに分ける。
一つのグループは馬車組。各騎士団の拠点に見立てた馬車を守る。
もう一つのグループは塔組。黄金の塔に突入する。
第一王子騎士団の塔組は要人護衛の任務と仮定し、襲撃者が潜んでいるかもしれない黄金の塔から脱出する。
第一王子騎士団の馬車組が守る馬車の中に要人が入ったら任務完了。
一方、王太子騎士団の塔組は犯罪者の拠点に監禁された要人を助ける任務と仮定し、黄金の塔に助けに行く。
要人を奪い返して保護、王太子騎士団の馬車組が守る馬車の中に入れることで任務完了になる。
脱出や突入は必ず正面にある出入口からでなくてはいけない。窓からの脱出や突入は禁止。
塔の中に入れるのは塔組だけで、馬車組は必ず外にいること。
塔組に呼ばれた馬車組は支援行動を取れるが、動けるのは二人だけ。他の三人は馬車の警護として残らなくてはいけない。
二時間以内に作戦を完了する。
翌日の勤務に響かないように考え、大怪我をさせないように努める。
装備できる武器は木製で、用意されているものの中から選ぶ。
任務の性質上、二刀流も許可。木製武器は一人につき二つまで所持できる。
黄金の塔の中にあるものを利用してもいいが、金属製の武器などは不可。家具や小物等は可。
相手を倒す必要はなく、要人を自分たちの馬車に入れればいいだけ。
「タイムという特別な権限もある」
タイムの時間は作戦時間の二時間に含まれない。
体調不良、水分補給、トイレ、ルール確認などの対応ができる。
臨時の作戦を考えるためでもいいが、不意をつかれた時や戦闘中で負けそうな時などの一時的なタイムは認めない。
制限時間は一回につき五分。塔組は一人につき一回行使でき、馬車組は五人で一回のみ。
各騎士団の塔組と馬車組のタイムを合わせると最大六回、最長三十分のタイム時間になる。
「それとは別に、勝負が始まる前に各騎士団での作戦タイムを与える。十五分だ」
要人はリーナが務める。
リーナがどちらかの騎士団の馬車に入ればいいが、どちらの騎士団の馬車に行くかは騎士の対応次第になる。
「時計を合わせろ。騎士団長によるグループ分けを行う」
ラインハルトとゼッフェルは選んだ十人を塔組と馬車組に分けた。
「塔の中には審判役の騎士も配置されている」
審判はタイムの発動や終了などについて通達するような役目を担うのが主な役目。
小隊戦の勝敗とは関係がないことや怪我人が出た時などの緊急対応はしてくれる。
「リーナは第一王子騎士団の塔組と一緒に最上階に行け。スタート地点だ。審判の通達に問題がないかを確認してから開始する」
「はい!」
リーナは第一王子騎士団の塔組と一緒に黄金の塔へ入り、最上階へ向かった。
「リーナ様が最上階に到着しました!」
「各階、準備がいいか確認しろ!」
審判たちの通達練習として準備ができたかどうかの確認が行われ、問題ないということになった。
「問題ありません!」
「準備完了です!」
「小隊戦開始!」
第一王子騎士団と王太子騎士団の未来をかけた戦いが始まった。





