1339 新年を迎えて
いつもお読みいただきありがとうございます!
お知らせです。
「小国の王女が大国の皇帝に嫁ぐ理由」→短編投稿。
「もう恋なんてしない!と思った私は悪役令嬢」→一章完結済
お読みいただけたら嬉しいです。よろしくお願いいたします!
エルグラードは新年を迎えた。
一年の最後を希望の花火でしめくくったからこそ、新しい年は希望の光で溢れている。
多くのエルグラード国民がそう思っている頃、王宮では新年の行事として国王一家による全体謁見が行われていた。
「新年になった」
ハーヴェリオンは国王らしい威厳ある声で謁見の間に入ることが許された貴族たちに声をかけた。
「エルグラードには多くの希望が溢れている。国王として国民に大きな希望を与えたい。そこで身分差のある婚姻への対応を見直すことにした。エルグラード国籍を持つ者同士の婚姻においては身分差を許容し、原則的にはペナルティを考えないことにする」
エルグラードは身分社会。基本的には同じ身分同士の婚姻が望ましいとされている。
そのせいで貴賤結婚にならないための養子縁組が盛んだが、爵位継承者の婚姻に対する王家の対応は厳しく、内容次第では爵位降格や継承権の消失、領地縮小といったペナルティがあった。
しかし、原則的にペナルティがないということであれば、身分差や家格差がある婚姻が普通にできる。
婚姻相手を決めるための条件が大幅に緩和されることになり、現状よりも多くの選択が可能になるということだった。
「エルグラード国籍を持つ者は、エルグラードとして一つになれる。すでにエルグラードとして結ばれているというのに、婚姻を結ぶことに反対する必要はないだろう」
国王がこのような重大な決定をしたのには理由があった。
「王族の婚姻についても考え直す。平民の女性が貴族の養女として王子妃になったことはあるが、王太子妃や王妃になったことはなかった。だが、今後はわからない。王太子妃や王妃にすることも検討する」
驚いた人々の視線がリーナに向いた。
「去年、リーナはヴェリオール大公妃としてふさわしく活躍した。そのことを国王として正当に評価し、王太子妃のネックレスを着用する許可を与えた」
どよめきが起きる。
国王の発言が意味するのは、現在ヴェリオール大公妃の身分を与えられているリーナがいずれ王太子妃になる可能性があるということ。
平民だった女性が王太子妃、いずれは王妃になるということであれば、まさにエルグラードの歴史が大きく変わることになる。
「リーナ、ヴェリオール大公妃としてより励んでくれるな?」
「はい! 頑張ります!」
リーナが元気よく答えると、国王は満足そうに頷いた。
「新しい年と共に新しいエルグラードになる。皆は目撃者であり証言者だ。喜ぶように」
「国王陛下に忠誠を!」
宰相ラグエルド・アンダリアが叫んだ。
「王家に忠誠を!」
パトリック・レーベルオード伯爵も叫ぶ。
貴族と重臣たちが同意を示すために深々と一礼した。
「国王陛下、王太子殿下、新年の訪れと慶事に謹んでお祝い申し上げます!」
貴族において序列第一位にあるウェストランド公爵が祝辞を捧げると、謁見の間に大拍手が起きた。
「エルグラードは一つだ。非常に喜ばしい。王太子も安心して責務に励むことができるだろう。子どもについても期待したい」
全員の視線がクオンに集まった。
「エルグラードは経済と軍事において大きく動いた。極めて多忙だが、重要な責務については認識している」
「楽しみだ」
ハーヴェリオンはリーナに視線を移した。
「リーナ、男子でも女子でもいいからな?」
「プレッシャーを与えないでほしい。非常にデリケートな問題だ。神が決めることでもある」
クオンは公の場だけに牽制した。
「わかった。謁見はここまでにする。個別謁見は重要度が高い者だけだ。時間の都合上、好物を尋ねることはない。残念で仕方がないが、皆も同じ気持ちだろう」
誰もが去年の新年謁見を思い出す。
今年もないのが残念だ……。
毎年アピールしたかったというのに……。
謁見の参加者はため息を隠すように笑みを浮かべた。
「またですか」
クオンと一緒に個別謁見を終えたリーナは、後宮統括である宰相から届いた伝令内容にため息をついた。
「一月中は後宮に行かないようにだなんて!」
宰相は後宮統括としてまたしても後宮の組織改編を行う。
部署の変更や人事の異動があるため、後宮へは行かないようにという内容だった。
「宰相は忙しい。新年に大きく変更し、一年を通して効果を見るという方法はおかしくない」
国政を統括する宰相と後宮を統括する後宮統括を一人が兼任すれば、国王に近い権限を持つことになる。
さすがに大きすぎると反対する声が多かった。
しかし、両方を統括者として見ることができるからこそのメリットもある。
後宮は王宮や国政から切り離されていたために独自の制度が続いており、旧来の時代から続く悪習や不正が多くあった。
リーナが改善したのは一部だけ。全体を一気に正すような改革が必要だった。
国政や王宮で全体的な統括をしてきた宰相であれば、全体を一気に正すような改革を行いやすい。
歴代最高の宰相と言われるほどの手腕を持って、後宮についても効果的な組織改編をしてくれるだろうとリーナは思った。
「リーナも一月は忙しい。私と一緒に謁見の経験を増やしてほしい。騎馬訓練の視察もある」
「騎馬訓練の視察に行けるなんて嬉しいです!」
リーナの表情はぱっと明るくなった。
「お兄様も参加するのでしょうか? 第一王子騎士団の役職者のままですよね?」
「疾走訓練には参加しない。さすがに二年連続でパスカルが最終勝者になったら、騎士の立場がない」
「そうですね」
「パスカルは本職の騎士ではない。昨年は本職の騎士に認められるための参加だった。認められた以上、疾走訓練に参加する意味はない。かえって逆効果だ」
「わかります。今年の疾走訓練では、本職の騎士で誰が最終勝者になるかがわかるわけですね!」
「そうなる」
「負けません!」
気合十分といった感じのリーナに、クオンは眉を上げた。
「どういうことだ?」
「今年の最終勝者はヴェリオール大公妃付きの騎士です! 大本命がいますから!」
クオンは笑うしかない。
「なるほど。誰のことを言っているのかわかった」
「楽しみです!」
「そうだな」
「視察も大事ですけれど、楽しむことも大事です。一緒にできるなんてお得ですよね!」
リーナらしいと思いながらクオンは笑みを浮かべた。





