1330 ふさわしい贈り物
食事が進み、切り株のケーキが登場した。
今回は国王の妻が優先。
クラーベル、エンジェリーナ、レフィーナ、セラフィーナの順番で名前が書かれているクッキーを置いた。
「次はセイフリードにしよう。成人したからな」
成人したということで、子どもたちの中において最優先の権利を与えられたのはセイフリードになった。
「次は大活躍だったリーナだ」
「ありがとうございます!」
リーナはクッキーをセイフリードが選んだ場所の隣に置いた。
「僕の隣でいいのか?」
「セイフリード様にはたくさん助けていただきました。これからも家族として助け合っていきたいということで隣にします!」
「あとは長男から順番にする」
クオンがセイフリードの空いている方の隣にクッキーを置いた。
「私もセイフリードに支えてもらった。これからも支え合いたいと願いながら隣にする」
「兄上とリーナの配慮はとても嬉しい」
セイフリードは素直にそう言うと、優越感の笑みを浮かべた。
「エゼルバードは兄上の隣にするのか? それともリーナの隣か?」
「レイフィールに順番を譲ります」
「いいのか?」
レイフィールは驚いて眉を上げた。
「今夜は寛大な気分なのです」
「さっさと置いて金貨があるかどうかを調べよう」
レイフィール、そして、エゼルバードがクッキーを置く。
誰がどのケーキをもらうかが決まった。
「さて、金貨を手にしたのは誰だ?」
「ないですね」
リーナのケーキには入っていなかった。
「でも、大丈夫です。金貨の加護がなくても自分の力で幸せになれますから!」
「さすがリーナだ! 頼もしい!」
「ない」
クオンのケーキにも入っていなかった。
次々と調べた者から、ないという声が上がる。
「セイフリードのケーキではないか?」
全員の視線を受けたセイフリードはため息をついた。
「今日はいつも以上に食べている。一口でも厳しい」
「無理はしなくていい」
クオンが言った。
「だが、全員が注目している。金貨があるかどうかだけは調べてくれないか?」
「レイフィールがケーキを食べればわかる」
「消去法か」
レイフィールが苦笑した。
「ナイフで切るだけはしたらどうだ? 全く食べないのであれば、それから調べたあとでケーキをもらう」
「そうする」
セイフリードはケーキにナイフを入れたが、途中で止めた。
「……硬いものがありそうだ」
「おっ!」
「当たりですか?」
「別の位置から切ってみなさい」
セイフリードが別の部からケーキを切ると、金色の輝きが見えた。
「当たりだ!」
「一年間を幸せに過ごせる」
「良かったですね」
「おめでとうございます!」
「まさに成人祝いだな!」
次々と祝福の声が上がった。
「レイフィールにやる」
セイフリードはケーキの皿を差し出した。
「約束だ」
「そうだな」
レイフィールは皿を受け取るとナイフで金貨だけを取り出し、ナプキンで綺麗に拭いた。
「金貨はセイフリードのものだ」
レイフィールは微笑みながら差し出した。
「もらうのはケーキだけだからな。私に金貨を拭かせるためにそのままくれたのだろう?」
セイフリードは口角を上げた。
「レイフィールならそうすると思った。エゼルバードにはやらない」
「私には自分で引き当てた金貨があります。通算成績においては最高枚数の保持者ですからね」
エゼルバードは寛大な気持ちを失うことなく笑みを浮かべた。
「レイフィールは得をしましたね? 金貨に触ったので、少しは幸せを分けてもらえるかもしれません」
「考え方次第だな。だが、セイフリードの幸せだ。どんな幸せか楽しみすればいい」
「そうする」
本当に一年間を幸せに過ごせるのかどうか。
セイフリードは試したいと思った。
「ついにこの時が来た!」
晩餐会が終わると、贈り物の時間になる。
国王から王家の序列順に贈り物が渡されるのが慣例だった。
「クルヴェリオンへの贈り物だ」
「感謝する」
「次はエゼルバードだ」
エゼルバードは贈り物をもらうと、すぐに兄の元へ駆け寄った。
「兄上は何をもらったのですか?」
「今は教えられない」
「そうですか。わかる時が楽しみです」
レイフィール、セイフリード、そして女性の順番になり、王妃であるクラーベルが贈り物の箱を受け取った。
次はリーナの順番。
「リーナ、今年は最後に渡したいのだが、それでもいいか?」
「はい!」
リーナは素早く最後尾に並び直した。
「エンジェリーナに」
「ありがとうございます」
レフィーナ、セラフィーナも受け取り、いよいよリーナの番になった。
「リーナに与えるものについては全員に教える」
国王は最後に残った箱のリボンを取り、蓋を開けた。
中から取り出したのは宝飾品用の箱で、豪華なネックレスが収められていた。
「王太子妃のネックレスだ」
王太子妃にはその身分をあらわすティアラ、ネックレス、イヤリング、指輪の四点が与えられる。
婚姻時に王太子から贈られる指輪だけは新しいものが制作されるが、ティアラ、ネックレス、イヤリングの三点については王家の所有する宝飾品として管理されており、代々受け継がれていることが説明された。
「王太子妃にするかどうかだけでなく、王太子妃の宝飾品を贈るかどうかも国王が決める。指輪はすでに持っているな?」
「はい。クオン様からいただきました」
「王家に嫁ぐことは極めて栄誉なことだが、それに見合う責任を持つことになる」
クオンが心からリーナを愛し、妻に望んでいることはわかっている。
しかし、リーナが王太子の妻としてふさわしいかどうかを愛情だけで決めることはできない。
エルグラードや王家にとってふさわしいかどうかも考慮し、父親としてではなくエルグラードの国王として許可するかどうかを判断しなければならない。
その結果、まずは側妃にして様子を見ることを国王は説明した。
「リーナはとても頑張っている。ヴェリオール大公妃という立場にふさわしく行動し、素晴らしい結果を出した。エルグラード国王として冷静かつ公正に評価したい。だからこその贈り物だ。胸を張って受け取ればいい」
「ありがとうございます!」
リーナは国王から王太子妃のネックレスが収められた箱を受け取った。
「良かったな、リーナ」
クオンは微笑んだ。
「エルグラードの王太子妃になるのは簡単なことではない。だが、不可能でもない。王太子妃の指輪やネックレスを与えられたことがその証拠だ。着実に近づいている」
「そうですね!」
リーナも同じように思った。
「クオン様の妻として頑張るのはもちろんのこと、国王陛下、王家の方々、国民からも王太子妃にふさわしいと思われるように頑張ります!」
「王太子妃の宝飾品はまだ二つある。全てが揃うように頑張ってくれることを期待しているからな?」
国王は満面の笑みを浮かべた。
「リーナであれば大丈夫でしょう。実力者ですからね」
エゼルバードも微笑む。
「そうだな。来年も活躍するのは間違いない」
「どんな風に活躍するかだな」
レイフィールとセイフリードはそう言いながら頷いた。
「エルグラードはより強く繁栄していくために動いている。私も父上もますます忙しくなるだろう。家族全員が王家として団結し、支え合っていきたい」
「大丈夫だろう。冬籠りで王族妃が団結し、聖夜の茶会で王族が団結したからな!」
「そうですね」
「すでに団結している!」
「維持すればいいだけだ」
聖夜の晩餐会に集まった家族全員が、エルグラード王家として団結している。
そのきっかけを作ったのは、間違いなくリーナだった。





