1323 王族妃の茶会プラン
「知的さを重視する王妃様は、王宮図書室でのお茶会です!」
テーブルセッティングは王妃の色である赤を中心に息子で王太子の色である緑を取り入れ、伝統的な聖夜らしい装飾にする。
飲食物は三種類のスイーツをコース料理のように順番かつ一品ずつ提供。
王宮厨房部の作成したスイーツリストの中からクラーベルが好きなものを二つ厳選。
お勧めはプリン。
最後に出す聖夜のケーキは本のデザイン。図書室という場所に関連づけることで、聖夜らしさを演出する。
「華やかさを好むエンジェリーナ様は、音楽室でのお茶会です!」
テーブルセッティングはエンジェリーナと愛する息子エゼルバードをあらわす白と空色。
神聖でありつつも自由な天空をイメージした装飾にする。
飲食物は三種類のスイーツ。コース式か一度に全てを提供。
エンジェリーナの好きなスイーツを二種、要望を出す。
お勧めはムース。
聖夜のケーキはグランドピアノのデザイン。音楽室らしく、祝福の音色を奏でる天使や音符柄の食器と合わせる。
「動物好きなことで知られるレフィーナ様は、遊戯室でのお茶会です!」
テーブルセッティングは黄色。遠く離れた大地の色で、そこに生息する珍しい動物の絵柄の食器や陶器の置物を飾る。
飲食物は三種。一気に提供する方式。
レフィーナが好きなスイーツを二種。王宮厨房部の作成したスイーツリストのものか、要望を出す。
お勧めは多種多様な動物の形をしたアイシングクッキーの盛り合わせ。
ケーキはレフィーナの好きな動物を模したパンケーキ。
好きなものを全面に押し出し、くつろぎながら過ごす聖夜の茶会を味わう。
「このような感じになります。いかがでしょうか?」
「何て素敵なの!!!」
エンジェリーナは想像以上の茶会プランだと思った。
「それでいいわ! 音楽室は華やかな内装だし、私とエゼルバードをイメージした印象にも演出にもぴったりだわ!」
「そう言っていただけて嬉しいです! 準備に早く取り掛かる方がより細かくこだわることができると思います」
「でも、スイーツが問題ね。要望を出すのは当然だけど、クラーベルやレフィーナのように王宮厨房部のリストから選ぶよう言わないのね?」
「エンジェリーナ様は何もかも決められるのはお好きではなさそうなので、自由に考えていただくのがいいと思いました」
目新しさがないと言ってダメ出しのオンパレードになるのを予防するためでもあることをリーナはあえて伝えなかった。
「王宮厨房部のリストにあるスイーツは多種多様です。お好きなものを選んでもかぶりにくいとは思います」
「プリンで確定にします。リストから選ぶのをもう一種だけにすればかぶりにくいでしょう。本のケーキも茶会の場所に合っています。このままでいいでしょう」
リーナの考えた茶会プランは確かに珍しい。図書室という場所も気に入った。
招待者にも絶賛されるだろうとクラーベルは感じ、プリンの選択をすぐに抑えることにした。
「では、私もアイシングクッキーで確定にします。もう一種類は王宮厨房部のリストからということですね?」
レフィーナもさっさと決めてかぶらないようにしようと思った。
さまざまな動物のクッキーというのも面白く、手が込んでいていいと感じた。
「リストは資料の中にあります。後半のページです」
「チョコレートがいいです」
クラーベルがリストを確認しようとするが、レフィーナはリストを見ることなく決めた。
「私もチョコレートがいいわ」
チョコレートはエンジェリーナの好物だった。
「でも、グランドピアノのケーキに使うかしら?」
「チョコレートクリームにすると茶色のグランドピアノになります。白いグランドピアノがいいということであれば、生クリームをそのまま使うことになるか、ホワイトチョコレートを使うかになりそうです」
「どちらも良さそうだけど……」
エンジェリーナは閃いた。
「そうだわ! チョコレートのスイーツコースにしたいわ!」
我ながら名案だとエンジェリーナは感じた。
「チョコレートのムースとホワイトチョコレートのケーキにすればいいわ。それで茶色と白でしょう? もう一つはどうしようかしら? リーナは何がいいと思う?」
リーナは考えた。
「チョコレートで統一したスイーツコースは珍しく、エンジェリーナ様らしいです。でも、チョコレートばかりだと飽きやすいですよね?」
「そうね」
「二品目をチョコレートパフェにするのはどうでしょうか? パフェなら中身を工夫できます。チョコレートだけにはなりません」
「そうするわ! 準備する者に伝えておいて頂戴」
「わかりました。では、今お話したことについては伝えておきます。より細かい部分については、エンジェリーナ様と王宮側の担当者で打ち合わせをお願いいたします。また、招待客の選定もお願いいたします」
「一番難しいのが招待客選びね。でも、特別なお茶会だから絶対に増やさないわ! 価値が下がってしまうもの!」
「よろしくお願いいたします!」
「リーナ」
クラーベルが声をかけた。
「私の茶会プランを見ると、チョコレートがあるように思えません。定番で人気があるものだけに、二品目に選ぼうと思います。ですが、レフィーナやエンジェリーナとかぶりたくありません。良い案はありますか?」
リーナは考え込んだ。
「レフィーナ様はチョコレートと言いましたが、チョコレートそのものですか? それともチョコレート味のスイーツということでしょうか?」
「チョコレートがいいです」
レフィーネはすぐに答えた。
「クッキーがつまむものなので、同じようにつまめるものにした方がいいと思いました」
レフィーナは元平民だけに、手でつまんで菓子を食べることに抵抗がない。
むしろ、カトラリーを使って食べるスイーツは面倒だと感じる性格だった。
「パンケーキも変えたいです。ソファに座ってする茶会にしたいのですが?」
「では、手で食べることができるようなカップケーキにされますか?」
「そうします。手で取って食べるもので揃えます」
「伝えておきます。詳しくはレフィーナ様と王宮側の担当者とやり取りすることになりますので」
「よろしくお願いします」
「王妃様、レフィーナ様はチョコレートそのものです。手でつまむようですので、王妃様が同じ選択をしなければかぶりません。コース式でカトラリーを使用するものであれば、王妃らしく格調高い感じになると思うのですが?」
「そうですね。コース式にするのも確定です」
「では、チョコレート味のスイーツでいいでしょうか?」
「構いません。ですが、エンジェリーナのスイーツと同じものは避けます」
チョコレートのムース、パフェ、ケーキはダメということ。
「チョコレートタルトはいかがでしょうか?」
「他にはありませんか?」
「お待ちください」
リーナは資料にある王宮厨房部のリストを素早く確認した。
「クレープとか?」
クラーベルは顔をしかめる。
気に入らないというのが明白だった。
「なぜクレープを提案したのですか? 薄くて貧相です。見栄えもよくありません」
「昼食会のあとですので、ボリュームを抑えた方がいいと思ったのです。ケーキを二種にすることもできますが?」
「タルトにします。ボリュームを抑えるため、サイズを小さくしなさい」
「わかりました。小さめのチョコレートタルトということで伝えしておきます。次は王宮側の担当者との打ち合わせになりますので、その時にまた細かい要望をお伝えください」
「わかりました」
「王妃様、エンジェリーナ様、レフィーナ様の茶会はだいたい決まりました。でも、セラフィーナ様はよろしいのですか?」
セラフィーナは茶会を開く要望を出していなかった。
「私は別にいいです。静かに過ごしたいので」
「裁縫や刺繍、編み物などを楽しまれますか?」
ピクリとセラフィーナが反応した。
「編み物を?」
「ずっと不思議に思っていたのですが、編み物はされないのですか?」
「できなくはありませんが、意味がありません。編み物で作るようなものを王族妃は必要としませんから」
予算が限られているため、無駄なことに費用をかけたくないとセラフィーナは思っていた。
「そうですか。編み物茶会を提案しようと思ったのですが」
「編み物茶会?」
「編み物を楽しみながら、お茶やお菓子を楽しみます」
「久しぶりに編み物をする機会にしてもいいとは思います。でも、何を作ればいいのか……」
「毛糸で作ったぬいぐるみはどうでしょうか? モフモフな感じで可愛いのでは?」
「モフモフ!」
レフィーナが反応した。
「セラフィーナ、編み物茶会をしたらどうですか? 毛糸で動物のぬいぐるみを作るのがいいと思います!」
「毛糸のぬいぐるみを作ってほしそうですね?」
「ぜひお願いしたいです! 私の予算から材料費を出します!」
「材料費を出してくれるのであれば、編み物茶会にします。お茶とお菓子だけなら私の予算内でもできそうなので」
「では、編み物茶会ということで。毛糸などの必要なものを用意させるので、セラフィーナ様とレフィーナ様で話し合ってください。担当者に伝えてほしいのです」
「レフィーナ様、あとで時間をいただいても? どんな動物がいいのか聞きたいのです」
「もちろんです! 詳しく話しましょう!」
セラフィーナの茶会も決定した。
「これで全員ですね。良かったです! 私も自分の茶会があるので助かりました。ありがとうございます!」
リーナは王族妃への説明と調整の役目をこなせてホッとした。
「リーナはどんな茶会にするの?」
「私の茶会はクオン様と合同なので、クオン様次第です。他の方とかぶらないように調整することになりそうです」
「ああ、そうよね」
「王太子殿下次第ですか」
「すでに決まっているのですか?」
「いいえ。次はクオン様と話し合ってどんな茶会にするか決めないと」
聖夜の茶会に関するリーナの仕事はまだまだこれからだった。





