1318 最終日の労い
王太子の執務室にリーナが来た。
大量の重要書類があるため、見ないようにという一言だけでリーナは中に入ることが許された。
「クオン様に差し入れです!」
「心から感謝する」
クオンは嬉しそうに差し入れを受け取った。
「今年はスコーンにしました!」
お茶の時間に間食として食べることを想定。
食べ応えがあり、混ぜる食材で様々な味を楽しめるものということでスコーンが選ばれた。
今年は差し入れ先が非常に多いため、数日前から制作に取り掛かる必要がある。
水分が少ないスコーンであれば消費期限を長く設定できるのも、条件的に合っていた。
「王族への差し入れはスペシャルボックスです!」
スペシャルボックスには七種類のスコーンが入っている。
ハートの形は愛を表し、ラズベリージャム入り。
クローバーは幸福を表し、クルミ入り。
星は幸運を表し、栗入り。
丸は成功を表し、チョコチップ入り。
三角は祝福を表し、はちみつ入り。
ダイヤは宝を表し、レモンピール入り。
王冠は王族を表し、ピスタチオ入り。
「王族妃全員で話し合って、さまざまな味を楽しめるようにしました! 箱もセラフィーナ様に頼んで特別な飾りつけをしてもらいました!」
ただの箱では寂しいため、特別な箱になるよう綺麗な布地を張ったり刺繍をして、七種類のスコーンをあらわすような飾りをつけた。
「多くの知恵と工夫が詰まっている。何よりも王族妃全員からの差し入れであることが嬉しい。リーナのおかげだ」
「喜んでいただけて良かったです。でも、私はきっかけを作っただけです」
王妃や側妃たちが合同で贈ることを了承しなければ無理だった。
全員が集まって意見を出し合ったからこそ、さまざまな形、種類、味のスコーンができ、箱まで美しく飾り付けることができた。
「全員揃うことが大きな価値を生み出し、強い力になります。団結して協力し合うことで素晴らしいものが作れました。かぶっても全然大丈夫です。頑張る気持ちも応援する気持ちもたくさんあった方がいいですから!」
「そうだな」
「各王族府への差し入れについてですが、現場の指揮はヘンリエッタに任せました。去年は現場に出て怒られたので、ちゃんと改善しました!」
クオンはゆっくりと頷いた。
「王族妃らしくあることは大切だ。それについても理解してくれてうれしい」
「昨年は自覚が足りていませんでした。上司として部下を信頼し、任せることも大事ですよね」
「その通りだ。リーナは日々成長している。あまりにも飛躍的で驚かされてしまうが、無理は禁物だ。ゆっくりでいい。リーナらしくあればいいからな?」
「はい!」
リーナは満面の笑みを浮かべる。
それもまたクオンにとってうれしい差し入れになった。
冬籠り最終日。
国王府、王太子府、王子府は終業時間に王族からの通達があった。
その内容は冬籠りを乗り越えたこと、激務への労いだった。
それは毎年のことだったが、今年は労いの証が配布された。
「王族から?」
「チケットだ!」
「色が違うな?」
「そんな……」
「まさか……」
「差し入れも特別だったが、労いもまた特別だった!」
「すごい!!!」
『冬籠りバー、時間限定で開店! 今夜十八時から翌朝六時まで営業。チケット一枚につきドリンク一杯無料。酒類、ジュース、温かい飲み物があります。お疲れ様の一杯をどうぞ!』
王族からの労いとして渡されたチケットにはそう記されていた。
官僚たちは驚くしかない。
カフェがバーになるとは思ってもみなかった。
「行くしかない!」
「お疲れ様の一杯がほしい!」
「王宮で酒が飲めるなんて!」
「乾杯しに行くぞ!」
仕事を頑張ったあとの一杯は美味しい。
王族からの労いであり、王宮内にできた時間限定の特別なバーで飲むなら余計に。
大盛況の冬籠りカフェは王族府の官僚たちに惜しまれつつ閉店したが、そのあとに開店した冬籠りバーもすぐに大盛況。
王族府の官僚たちは満面の笑みを浮かべ、お疲れ様の一杯を味わった。
リーナの冬籠りのお話はここまで。
またよろしくお願いいたします!





