1316 差し入れは?
ついに大注目の差し入れ日が来た。
王族妃全員による合同の差し入れは王族、国王府、王太子府、王子府が対象。
あまりにも人数が多いために、一気に差し入れをするのは不可能。
まずは王族と国王府、翌日に王太子府、翌々日に王子府に差し入れがあるということだった。
国王府内のとある部署の朝礼。
上司が入出すると、部屋にいる部下たちは緊張した。
「おはよう。朝礼を始める。全員が気にしていると思うが、今日は王族妃全員からの差し入れ日だ!」
残業続きで疲れ切っていた上司の表情は活き活きとしており、その口調には力強さが宿っていた。
その理由は王族妃全員からの差し入れ日だからだということを部下たちはわかっていた。
「差し入れについては朝早く開かれた役職者会議で話があった。チケットも渡された。一人につき一枚配布する」
部下たちは驚愕した。
「チケット?」
「食べ物じゃないのか?」
「菓子じゃなく?」
「何のチケットなんだ?」
「温かくないのか?」
「温かい飲み物のチケットかもしれない」
「お茶か? コーヒーか?」
次々と心の声が言葉になった。
「冬籠りの差し入れをもらえる部屋がある。教えなくても知っていそうだけに場所の説明は省略する。わからない者は誰かに聞け」
部下たちは全員、差し入れ用の部屋がある場所を知っていた。
王宮でその場所を知らない者はいないと思えるほど有名になっていることも知っていた。
「チケットは入場券で、差し入れ品との交換券でもある。カウンターにいる者に渡せばいい。非常に簡単だ」
「確かに簡単だ」
「すぐに終わりそうだ」
「品物と交換か」
「仕事場に持ち帰れるものだということか?」
「さあ?」
「混雑していても、配布は早そうだな?」
「まあな」
「さっさと行って来るか」
「では、チケットを配布する。もう一度確認のために言う。一人一枚だからな!」
上司はそう言うと、チケットを二枚手に取った。
「二枚取っていますが?」
「役職者は二枚だ」
「そうでしたか」
「お前たちは一枚だからな?」
最初に受け取った部下はチケットを見て驚いた。
「おおーーーーー!!!」
大興奮。
「何だ?」
すぐ隣にいた者がチケットを覗き込んだ。
「おおっっっ!!!」
やはり大興奮。
「何だ? いいものか?」
「早く渡せ!」
「見せろ!」
チケットが回って来るのを待てず、全員が殺到した。
「これは!」
「すごい!」
「さすがだ!」
「やった!」
「間違いなく今年最高の差し入れだ!」
歓喜する部下たちを見ながら、上司も満面の笑みを浮かべていた。
「冬籠り期間の国王府は二十四時間完全フレキシブルだ。存分に活用しろ!」
「わかりました!」
「いつ行くか悩む」
「もう行く!」
「待ちきれない!」
部屋を走って出ていく者、悩む者、小躍りする者など多種多様。
「重要書類がある! 部屋を無人にするなよ!」
上司はそう言うと部屋を出て行った。
役職者のチケットは二枚。
差し入れを配る部屋に行って詳しい内容を確認し、部下に伝えることができるようにするための配慮だということだった。
「戻って来た者に聞くか」
「そうだな」
「最初だけに混んでいそうではある」
「だが、早く行きたい!」
「そうだな!」
部屋に残った者は手にしたチケットを見つめた。
『冬籠りカフェ、期間限定で開店! 二十四時間営業。チケット一枚につきスイーツセット一つと交換。温かい飲み物もあります。都合のいい日時に来てくださいね!』
そう記載されていた。
「差し入れはチケットのようで、実はカフェだった!」
「店とは思わなかった!」
「しかも、二十四時間営業だぞ?」
「スイーツセットがもらえる!」
「温かい飲み物がある!」
「夜に行く!」
「都合のいい日時ということは、明日でもいいわけか?」
「そうだろう。だが、明日は王太子府に差し入れがある」
つまり、今日だけは国王府だけが対象。
混雑したとしても、独占の状態。
明日は王太子府とまだ交換していない者の合同。
さらに翌日になると王子府も加わる。
営業日は四日間だが、最終日は三つの王族府で交換していない者が絶対に行く。
チケットを無駄にしないためにも、混雑しそうだった。
「まあ、二十四時間あるからな」
「都合で選べるのはある」
「夜中は空いているだろう。さすがに」
「取りあえず、今の内に仕事をする」
「そうだな」
「さっさと書類を片付けよう」
残った者は自分の机に戻り、仕事を始める。
カフェに行く時間を作るため、全力で励むことにした。