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後宮は有料です! 【書籍化】  作者: 美雪
第八章 側妃編
1315/1356

1315 気になって仕方がない

 あけましておめでとうございます。

 連載開始から八年以上……読者様のおかげでここまで続いています。

 誤字脱字、未修正の指摘も助かっています。本当にありがとうございます!

 今年もコツコツ頑張りますので、よろしくお願いいたします!



 翌日の朝礼。


 国王府、王太子府、王子府の官僚全員は、今年の冬籠りの差し入れについての通達を受けた。


 王族妃からの差し入れについては、全員からの合同になる。


 競い合うつもりも勝負するつもりもないからこその決定。


 王族妃一同、家族やエルグラードのために激務期間に突入する官僚を応援している。


 それをあらわすための差し入れを楽しみにしてほしい。


 しかし、騒がれると準備がしにくい。仕事に集中してほしいという内容だった。


「王族妃全員から?」

「合同だと?」

「信じられない!」

「耳を疑うような内容だ!」

「奇跡だ!」


 毎年、王族妃たちは何を差し入れするかで張り合っていた。


 特に去年は王妃とヴェリオール大公妃の対決がかなりの話題になった。


 それだけに、王族妃全員が合同で差し入れするという通達は驚愕以外のなにものでもなかった。


 だが、優秀な官僚が集まる王族府だからこそ、去年の騒ぎようは確かに王家としては問題で好ましくない、対策が実施されるのは当然だろうと思った。


「とにかく、差し入れがあることはわかった」

「王族妃全員からな!」

「すごいことだ」

「価値が跳ね上がった!」

「光栄だな」

「内容が気になる……」

「そうだな。国王陛下の妻だけなら外注の菓子だろうが、ヴェリオール大公妃がいる!」

「王族妃全員からという案は、ヴェリオール大公妃のものではないか?」

「そう思った」

「今のヴェリオール大公妃には勢いがある。これに乗らない手はない」

「王都中を自らの力で熱狂させるほどの手腕がある!」

「あれほどのことができる女性は世界中に一人だ!」

「さすが王太子殿下だ! 世界で唯一無二の女性を選んだ!」

「王妃も大人しくするしかない」

「太刀打ちできる相手じゃないな」

「そもそも、器の違いは去年の対決で証明されているが?」

「王族妃全員ですることにメリットが多いのは事実だ」

「冷静に見てもこの案は最良だろう」

「王子府まで差し入れすることにもなるとは思わなかった」

「対象が大幅に拡大された」

「楽しみだ!」

「楽しみに過ぎる!」

「だが、仕事に集中しなければならない!」

「頑張る! 差し入れのためにも!」

「そうだ! 頑張ろう!」


 朝礼のあととは思えない盛り上がり方だった。


 そして、王族妃全員が合同で差し入れをすることが速報として伝わり、午前中の間に王宮中に伝わった。





 冬籠りに突入した。


 毎年、官僚にとっては大変な時期ではある。


 今年は経済同盟による内政、外交、軍事配置の変更によって官僚たちは極めて忙しいことを自覚していた。


 だが、王太子夫妻の婚姻時も極めて忙しかった。


 それを乗り越えた経験が官僚たちの自信になっていた。


 そして、王族妃全員が合同でする冬籠りの差し入れという楽しみもある。


 差し入れ対象は王族と王族府だが、差し入れの内容によっては関係者にも贈られるかもしれない。


 そもそも、王族妃全員が合同でするということ自体が驚くべきことであり、すごいことだった。


 どんな差し入れなのかが気になる。その話をするだけでも気分が上がる。


 最新の情報を知るためには職場で仕事に励めばいい。あちこちの情報が最も入りやすい。


 王宮にいる官僚全員が、差し入れ日を待ち遠しく思っていた。





 パスカルの執務室に極めて珍しい人物が来た。


「なぜ、私の執務室に? 御用があるのであれば、遠慮なく呼んでいただければと思うのですが?」

「情報収集に来た」


 セイフリードは部屋の中を見回した。


「下げろ」

「下がって」


 部屋にいたユーウェインとトロイを下げると、パスカルはセイフリードにソファ席を進めた。


「椅子がよろしいでしょうか?」

「ソファでいい。隣に座れ。内密の話になる」


 二人は並んでソファに座った。


「リーナの差し入れの件だ。大丈夫なのか?」


 セイフリードは気になっていた。


「王宮厨房部と王宮購買部は儲け時だとわかっているだけに、かなりの力を入れている」

「そうですね」

「菓子の種類も少しだけのつもりだったが、需要を考慮して多くなった」


 王宮厨房部はセイフリードの指示通り、冬籠りのために弁当を量産することにした。


 だが、王宮購買部は契約の関係から外部から仕入れる菓子を当初よりも増やすことになった。


 そうなると、菓子の差し入れをする者と内容的にかぶる可能性が高くなる。


 冬籠りの差し入れでかぶるのは普通だが、王族妃全員からの差し入れかぶるのはよくないとセイフリードは思っていた。


「甘いものということは聞いた」

「誰から聞いたのですか?」

「絶対に秘密にするな?」

「します」

「第三側妃だ」


 つまり、セイフリードの生母。


「会ったのですか?」


 いつの間に、とパスカルは思った。


「僕への差し入れを渡す役目をするらしい。当日の予定と会える時間を確認したいと言われた」

「なるほど」

「お前は忙しそうだけに僕の方で直接対応した。外出の予定はない。差し入れをもらうだけならすぐに終わる。問題はない」

「それなら良かったです」

「意外と口が堅かった。王妃と第一側妃から同時に睨まれるのが怖いと言って逃げようとした」

「うまい逃げ方です」

「だが、第三側妃の予算は少ない。金がないのにどうするのか気になった。僕の名誉にかかわると言って問い詰めた」

「うまく逃げ道を塞ぎましたね」

「得意分野で活躍すればいいということで、冬籠り用の費用はゼロだったと白状した」

「ゼロ?」

「ゼロだ」

 

 さすがのパスカルもゼロというのは意外だった。


「それで、殿下はどのような推理を?」

「正直、わからない。甘いものという情報だけで許してやった」

「なるほど」

「後宮の購買部も力を入れている。宰相が許可したせいで菓子をたくさん売っている」

「知っています」

 

 後宮の軽食課が冬籠りの差し入れの件で作業をする必要があり、買物部の軽食販売やカフェの営業が休みになった。


 そこで冬籠りの期間については昔のように後宮購買部が外部から仕入れた菓子を販売することになった。


 取引先や条件も見直しているため、種類も価格帯も新しくなっている。


 貴族や平民に評判の菓子が得な価格で売っており、王宮の横にある後宮なら徒歩圏内で買いに行きやすい。


 しかも、職場まで直接配送してくれるサービスもある。


 後宮に入れる許可がある者が大量に買い込んでいる状態で、パスカルも差し入れとしてかなりの菓子を購入していた。


「リーナが掲げたテーマは全員、団結、かぶっても大丈夫だ」

「そうですね」

「かぶらないでもかぶりにくいでもない。かぶっていることがわかっているのだと思う」


 セイフリードはパスカルの反応をうかがった。


「リーナは大注目されている。指揮を取っている差し入れでかぶると、官僚たちに落胆されてしまいそうだ。急激に評価が落ちてしまうかもしれない」

「リーナのことが心配なのですね?」

「差し入れのことは社交界にも伝わる。貴族たちの間でも話題に上がるのは確実だ」


 セイフリードは心配でたまらなかった。


「お前はどんな差し入れなのかを知っているのだろう?」

「執務室に籠っているような状態ですが?」

「知らないわけがない」


 パスカルは微笑んだ。


「実は知りません」

「本当か?」

「殿下には嘘をつきません。ただ、飲食物ということは知っています」

「冬籠り用の部屋を確保している。配るだけなのか?」

「楽しみにされてください」


 パスカルは微笑んだ。


「私も楽しみにしています。きっと大丈夫です。信じましょう、リーナを」


 セイフリードはうつむいた。


「だが……」

「王都のイベントをご存知のはず。リーナはいつまでも殿下に注意されてばかりの侍女ではありません。成長しています」


 リーナが自分から離れていくようで、セイフリードは素直に喜べなかった。


 官僚食堂や購買部で扱う菓子の情報を流したのに、リーナが後宮側の情報を流さないことにもイラついていた。


「一緒に行きますか?」

「どこに?」

「後宮に。リーナが準備している王宮の部屋でも構いません。王族であれば見にいけます。誰も部屋に入るなとは言いません」

「僕を利用する気だな?」

「いいえ。殿下を一人で行かせるわけにはいかないからです。私は殿下の筆頭側近。楽しみに待つことよりも殿下の不安を解消することの方が優先です。当然ではありませんか」


 セイフリードは息をついた。


「行かない。我慢できない子どもではない」

「国王陛下も気になって仕方がないようですが、差し入れを楽しむために執務を頑張っているそうです」

「同類か」

「待っているだけで、喜びと幸せがやって来ます。王族には最高のものが届くでしょう。私は家族であっても貴族。最高のものはもらえません」


 セイフリードはパスカルを見つめた。


「僕に愚痴るとは思わなかった」

「愚痴ではありません。本心です」

「僕に我慢させるため、優しさだけでなく正直さまで使うわけか」

「殿下の心に寄り添うには、私自身の心が必要だと感じました」


 セイフリードは立ち上がった。


「お前が年上で残念だ。僕と同世代なら家族同然の友人にしてやったというのに」


 パスカルもゆっくりと立ち上がった。


「部屋まで送りましょうか?」

「廊下に護衛がいるからいい」

「わかりました」


 セイフリードは部屋を出て行った。


 すぐにトロイが入っている。


「ユーウェインは?」

「セイフリード王子殿下が連れていきました。部屋まで護衛しろと命令していました」


 護衛騎士とは言わなかった……!


 パスカルは気づいた。


「セイフリード王子殿下が珍しく笑みを浮かべていましたが?」

「僕に勝ったからだよ」

「勝った?」

「護衛騎士とは言わなかった。護衛という言葉について、深く考えていなかった。やられたよ!」

「まんまとユーウェインを奪われたわけですね」

「部屋まで貸しただけだよ。すぐにユーウェインは戻ってくる。たぶんね」

「そうでないと困ります。書類が山積みなので」

「トロイもユーウェインに戻って来てほしいよね?」

「当然です。冬籠りなので」

「頼もしい者は多くいた方がいいからね」


 パスカルは柔らかな笑みを浮かべた。


「お任せください! ユーウェインがいなくても大丈夫です!」


 トロイは自信満々に答えた。


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「セイフリード王子殿下が連れていきました。部屋まで護衛しろと命令していました」 あははははは セイフリードも大好きです!! 大分上手に人付き合い?してて微笑ましい(≧▽≦) そして巻き込まれ体質のユ…
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