1314 耳を疑う
リーナは後宮へ行き、関係者を集めた合同会議を開いた。
そして、その内容が王族妃会議で報告され、各自の意見を出しながら差し入れを何にするかを決定した。
次にリーナが向かったのは国王のところ。
王族会議が行われることをクオンから聞いており、その時に冬籠りの件で許可がほしいため、時間をとってほしいと伝えてあった。
「それで、どんな許可がほしい?」
国王はリーナが来るのが待ち遠しく、その内容も気になって仕方がなかった。
リーナは王族会議に出席していた国王、クオン、エゼルバード、レイフィール、セイフリード、宰相、レーベルオード伯爵を順番に見つめた。
「では、ご説明いたします」
「待ってほしい」
そう言ったのはレーベルオード伯爵。
「私がいてもいいのだろうか?」
宰相は後宮統括を兼任しているだけに同席した方が良さそうだと思ったが、自分は内務省の官僚でしかない。席を外すべきかもしれないとレーベルオード伯爵は思った。
「大丈夫です。でも、守秘義務があるのと、ちょっとした協力をしていただきたいのです。いいでしょうか?」
「協力内容によるかもしれない」
「そうだと思いますので、その件もあとでご説明いたします」
リーナはいよいよだと思いながら深呼吸した。
「では、今年の冬籠りについて内密にお話します。毎年王族妃は夫や息子やその勤務先に差し入れをしていました。ですが、差し入れは任意です。あってもなくてもいいものなのです」
冬籠りは国家的に重要な仕事の期間。楽しいイベントとは違う。
差し入れ側の事情や予算もあるため、このような差し入れをしてほしいというような要望は困る。
また、差し入れを比べるようなことをしてほしくもない。
どんな差し入れでも善意、応援、配慮だとして大切にしてほしい。
勝負のように騒がれないようにしたいことをリーナは伝えた。
「王族妃の差し入れは注目されます。去年は比べられ、勝負のように思われてしまいました。国王府、王太子府、王子府には仕事に集中してほしいです。各長からの通達をお願いできないでしょうか?」
「わかった」
真っ先に返事をしたのはクオンだった。
「去年は素晴らしい差し入れをしてくれた。心から感謝している。だが、勝負のようになってしまったのは、リーナの言う通り残念な部分だった。冬籠りになる度、王族妃の差し入れで騒がしくなるのも問題が起きるのもよくない」
「そうだな」
国王も頷いた。
「差し入れは嬉しいが、あくまでも任意だ。善意や応援であって、勝負する必要はない。官僚たちから要望を出すのも身勝手だ。仕事に集中するよう伝える」
「ありがとうございます!」
リーナはホッとした。
「では、次のお話です。今年の冬籠りの差し入れは、王族妃全員が合同ですることになりました!」
リーナの言葉を聞いた全員が驚愕した。
耳を疑ったとも言う。
「全員だと?」
「合同なのか?」
「王族妃で?」
「五人ということか?」
「よくまとめたな?」
王族たちの本心があらわれた。
「比べたり勝負のように思われたりしないためには、全員で一緒に差し入れをするのが一番だとなりました。ですので、今年は王族妃全員で王族、国王府、王太子府、王子府に差し入れをします!」
「王子府にもするのですか?」
エゼルバードはすぐにこれまでとは違う点に着目した。
「そうです。王子府の重要性は高まるばかりなので、仕事も大変だと思います。王族妃全員で応援したいと思いました!」
「リーナが思っただけだろう?」
セイフリードが指摘した。
「王妃や側妃たちが考えるわけがない。これまでは差し入れをしていなかった」
「仕方がありません。王子の方々が成人するまで、王太子府や王子府が担当する仕事は少なかったので」
国王の妻にとって重要なのは国王府だった。
息子たちが成人したことで王太子府や王子府の重要性が増したが、だからといって夫や自分たちの担当部署がある国王府への差し入れをやめるわけにはいかない。
予算の都合もあり、国王府以外への差し入れをするのは大変。
あえてしてこなかったという王族妃の内情をリーナは話した。
「今年は合同にすることで、王子府にも差し入れできるようにしたいと思ったのです。でも、国王陛下と各長の許可が必要です。差し入れしてもいいですか?」
「もちろんだ」
「喜ぶ」
「楽しみにするでしょう」
国王、クオン、エゼルバードが答えた。
「では、全ての王族府に差し入れするのはいいということで。他にもあります。差し入れをするための部屋がほしいのです。できるだけ大きな暖炉がある部屋で、床が石材だと火災になりにくくて嬉しいです」
「調理場にするのか?」
セイフリードが尋ねた。
「そうです。お湯を沸かせる程度で構いません。去年は外で温めましたが、夜はすごく寒くて大変でした。せっかく温めてもすぐに冷めやすいのもあります。今年は屋内の拠点がほしいです」
「部屋を使うのは構わないが、丁度良い部屋が空いているかどうか」
国王は考え込んだ。
「王族府の部屋でなくても構いません。むしろ、王族府に勤めている官僚全員にとって便利そうな場所の方がいいというか」
「配送拠点ならそうだろうな」
「王族府には守秘義務がある。別の場所でもいいなら、その方がいいだろう。リーナ、一日だけでいいのか? それとも準備を含めた数日間使用できる部屋がいいのか?」
クオンが質問した。
「準備にかなりの時間がかかりそうなので、冬籠りの期間は使用したいです。できれば、ずっと改造したままにしておける部屋だと嬉しいです。来年の冬籠りにも使えるかもしれないので」
すでに来年の冬籠りに使用することもリーナの想定にはあった。
「条件に合いそうな部屋を探させる。父上、あとで話そう」
「そうしよう」
「他にあるか?」
「お父様にあります!」
リーナはレーベルオード伯爵の方を向いた。
「今年の冬籠りは王族妃が合同で差し入れをすることをそれとなく広めてくださいませんか?」
「それが協力の内容か?」
「そうです。王族妃は冬籠りの差し入れで競いません。勝負もしません。団結して、家族や官僚を応援します!」
「話題の方向性をそのように持って行きたいわけか」
「できそうでしょうか?」
「簡単だ。内務大臣に話せばいい」
大臣会議で各大臣に広まる。その部下に伝わる。王宮の官僚中に広がる。
「宰相からも部下に話せば早いだろう」
「補佐官たちに話しておく」
宰相も協力を了承した。
「宰相閣下は後宮統括です。後宮に冬籠りの差し入れを頼みますので、その件につきましてもご留意ください。よろしくお願いします!」
「そうなるだろうと思っていた。後宮統括として問題はないが、現場が多忙になるだろう。後宮統括補佐として調整するように」
「はい! あとは……セイフリード様!」
「何だ?」
「官僚食堂はお弁当の販売を強化すると聞きました。本当ですか?」
「本当だ。移動販売所も臨時で設置するため、わざわざ食堂へ来なくてもよくなる。夕食にもできるだろう。買えた者だけだが」
「では、冬籠りの間は後宮が作る軽食販売を休みます」
「差し入れ作りを優先したいわけか」
「そうです。いいですか?」
「構わない。どうせ飲食物だろう? 販売物が無償の差し入れに代わるだけだ。後宮が儲からなくなるだけで、官僚食堂は儲かる」
「では、それで!」
「リーナ、何を差し入れしてくれるのだ?」
国王は聞かずにはいられなかった。
「温かいもののようだが、お湯でいいといった。お茶か? となると、菓子か?」
去年、王妃は菓子と一緒にお茶を配った。
今年はリーナが考えた特別な菓子とお茶ではないかと国王は推測した。
「聞かないでください。でも、美味しいもの、喜んでもらえるものを考えています!」
「わかった。楽しみにしている」
「リーナ」
セイフリードからも話があった。
「王宮購買部は冬籠り用の菓子を仕入れて扱う。販売品の内容についてはこちらから教えるが、王宮厨房部で作るのではなく外注品だ。まだ話し合っているため、詳細が決まったら教える。かぶらないように気をつけろ」
「わかりました。でも、お菓子でかぶるのは普通なので大丈夫ですよ?」
「かぶりそうなものにするのか?」
「差し入れが何かは秘密です。でも、今年のテーマは全員、団結、かぶっても大丈夫の三つです!」
王族妃全員から合同の差し入れはテーマに合っている。
だが、それだけではなさそうだと男性陣は感じた。
「では、私からは以上です。王族妃会議をするので、これで失礼します!」
リーナは一礼するとすぐに部屋を退出した。
「……驚いた」
国王はどうしても言いたかった。
「正直、奇跡だと思った!」
「リーナには驚かされてばかりいる」
クオンも言いたかった。
「さすがだ! 素晴らしい! 想定外としかいいようがない!」
「完全にそうですね。まさか王族妃全員で合同の差し入れをするとは思いませんでした」
「王族妃会議だと言っていたぞ? リーナが進行役として仕切っているのは明白だ。実質、王族妃のトップではないか?」
「間違いなく王太子妃に相応しい。さっさと王妃にしてしまえば、今の王妃が余計なことをするといって気にする必要もなくなる」
セイフリードの発言を聞いた全員の視線が国王に向けられた。
「まだ退位しない! 離宮で寂しく過ごしたくない!」
「そのようなことを言うなら、莫大な予算をつぎ込んで離宮を建てるな!」
クオンが睨んだ。
「文句を言いたいのであれば、早期引退を阻止しようとした国王府の者に対して言え! とにかく、冬籠りのための部屋を探すのだ! でなければ、差し入れがもらえないではないか!」
差し入れがほしい気持ちが見え見えだった。
「ラーグ、後宮で作るようだ。何を作るのかわかったら教えてくれ」
宰相に視線が集まった。
「私は宰相室にいる。後宮には行かない。守秘義務もある。難しい」
「後宮は国王のものだぞ?」
「だったら自分で調べに行け。ヴェリオール大公妃は仕事に集中してほしいといった。その言葉は官僚に向けてのものであり、宰相は官僚の長だ。仕事に集中する。でなければ、そのあとの聖夜を祝うのは無理だろう」
「クルヴェリオンの結婚記念日のあとはラーグの結婚記念日か」
「一日ぐらい休ませろ。私の妻を激怒させるのは得策ではない。ウェストランドの力を間違ったことに使われると困る」
否定をする者はいなかった。
いつのまにか年末です。
今年、特に後半はなかなか更新できなくてすみませんでした。
来年こそなんとか……体調を整え、執筆に弾みをつけたいです。
インフルエンザや長引く風邪等が流行っているようですので、どうかお体に気を付けて。
良いお年を!