1308 第一の騎士
「見に来てよかった。これほど多くの騎士が私のために尽くしてくれることを誇りに思う」
クオンは自らに忠誠を誓う騎士たちを見渡した。
「私の騎士は選ばれた者ばかりだ。その実力をはかるのは難しい。審査だけでは到底はかりきれない能力と可能性があるだろう。今回の結果は騎士団について考えるための参考にする。良い結果も悪い結果も受け止め、精進してほしい。これからも全員に期待する」
勝敗を越えた言葉によって強まるのは忠誠心。
そして、報われたという想いだった。
「本来、第一王子騎士団と王太子騎士団は別に審査をする。私の意向によって特別な合同審査になった。例年とは違うだけに刺激にもなっただろう。王太子騎士団を労いたい。そして、第一王子騎士団の騎士たちもよくやった」
従騎士における剣の審査はロビンが一位。槍の審査はデナンが二位。
騎士における剣の審査では、第一王子騎士団がかなりの割合で上位を独占。
ユーウェインが剣と馬術の審査で一位になった結果、騎士の総合順位でも第一位。
第一王子騎士団の実力を示すには十分な結果だった。
「ユーウェイン」
クオンはユーウェインを見ると笑顔を浮かべた。
「第一の騎士にふさわしい強さと想いを感じることができた。これからがますます楽しみだ。より励むように」
「はっ!」
「やはり私の騎士は素晴らしい。あのような試合を見ると、私も勝負をしたくなる」
ユーウェインは瞬間的に硬直した。
クロイゼルとアンフェルも最大級の警戒をする。
王太子の武術を披露する機会を作ってはいけない。
エルグラード最高の講師陣の指導を受けながら懸命に全力で訓練した結果、王太子は双剣だけでなく、剣も槍も弓も尋常ではないほどの技能者になった。
武神級に強いことを知った騎士たちが精神的なショックを受けないようにすることもまた、筆頭護衛騎士とその相棒の務めとされてきた。
「王太子殿下、ご夕食時間までに王宮に戻られた方がいいのではないかと」
「ヴェリオール大公妃を待たせてしまいます」
「そうだな。全速力で帰る」
愛する妻との夕食時間を大切にしており、全力を尽くした騎士たちの心を感じたからこその判断。
「……聞いたな?」
「……全速力だ」
クロイゼルとアンフェルが確認するように頷き合った。
王太子付き護衛騎士たちも覚悟を決めた。
王太子殿下は飛ばし屋だ!!!
自己最速でついていくしかない!!!
置いていかれないようにしなければ!!!
王太子付き護衛騎士たちは自らの気持ちを懸命に馬に伝えようとした。
だが、馬の差が如実にあらわれた――というしかない結果になった。
パスカルと追加審査に参加した者は、王太子一行とは別に帰ることになっていた。
「これより反省会を行う」
一室に集められた追加審査の参加者たちは表情を引き締めた。
「王太子殿下にお褒めの言葉をいただけたのはよかった。でも、槍と弓の審査の結果がよくなかった」
やはりその点を指摘されたと誰もが思った。
「第一王子騎士団の勤務時間は長い。訓練しにくいのも、実用優先で剣の腕を磨くのもわかっている。でも、騎士の武器は剣と槍と弓だ。王太子騎士団と比較してみると、明らかに槍と弓の技量が低い」
パスカルは厳しかった。
「王太子騎士団からの出向者が増えていくと思う。出向者に負けないよう槍や弓の技能も磨くように」
「はっ!」
反省会が終わり、帰る準備をすることになった。
ユーウェインはパスカルに同行して王太子騎士団長のゼッフェルに会いにいくことになった。
「大変だったな」
王太子騎士団長ゼッフェルはパスカルを気遣った。
「騎士ではないというのに、騎士を引きつれて来る役目とは」
「王太子殿下の命令でしたので」
「理解している」
追加審査が合同になったのは王太子の意向によるものだった。
それはヴェリオール大公妃付きの騎士の実力を、王太子騎士団の騎士と比較することで調べたかったからに他ならない。
「剣の審査については良い結果が出ましたので、ヴェリオール大公妃の護衛を任せても問題はないという結果に落ち着くとは思います」
「そうだろう。だが、剣だけとは不甲斐ない」
「おっしゃる通りです。より向上していくよう伝えました」
「ロスターの槍を見たか? かなり向上している」
「そうですね。槍の審査では良い結果を残せたので、護衛騎士になれる可能性が増えたかもしれません」
「たんこぶがいる。その者が護衛騎士補佐のままでは越えられない」
パスカルとゼッフェルの視線がユーウェインに向いた。
たんこぶ……。
現状において、パスカル付きではユーウェインが一番。ロスターは二番。
今回の審査でユーウェインは総合一位だったが、ロスターは剣の審査で途中敗退してしまった影響が大きく、総合順位がふるわなかった。
ユーウェインが護衛騎士になれなければ、ロスターもなれないに決まっていた。
「仕方がありません。対戦相手を決めたのは王太子騎士団です」
「ユーウェインが予想以上に強かった」
「僕付きの筆頭です。実力者でないわけがありません」
「だが、近衛だっただろう?」
「近衛騎士団長の推薦で第一に出向させるほどの者です」
「押し付けられたとラインハルトは言っていた。近衛騎士団の資料を見たが、あまり良くなかった」
「古い資料です。若い時ですし、思うように実力を発揮しにくいこともあったでしょう」
「あれでよくラインハルトが第一に引き抜いたな?」
「近衛では学べなかったことを第一では学べます。ユーウェインは努力しています」
「実力を示すことは審査でできるだろう。だが、心は見えない」
「心も磨いています。僕が保証します。信じてください!」
「そうか。パスカルがユーウェインを信じているのはわかっている。叫んでいただろう? 心底驚いた」
パスカルは微笑んだ。
「僕はユーウェインの友人です。第一王子騎士団の者でもありますので、全力で応援したいと思いました」
「パスカルらしい」
ゼッフェルは微笑んだ。
「優秀な騎士を手に入れたな?」
「僕にとっては最高の騎士です」
「それは言い過ぎだ。槍でロスターに負けていたぞ?」
「ここだけの話ですが、ユーウェインは槍が苦手なのです」
ユーウェインは緊張した。
「なぜかおわかりでしょうか?」
「正しく学んでいないからだろう?」
「ユーウェインが子どもの頃に学んでいたのは、領地を荒らす無法者、犯罪集団などの敵を倒す戦闘術です。試合で相手を打ち負かす方法ではなかったせいで、試合のルールや騎士らしさという制限が足枷になり、真の実力を出せないのです」
ゼッフェルは強い視線でユーウェインを見つめた。
「ふむ。実戦の方が強いタイプか」
「師匠、ユーウェインに槍の稽古をつけてもらえないでしょうか?」
パスカルの槍の師がゼッフェルであることをユーウェインは知った。
「僕はほんの少し習っただけですが、それなりに使えます。師匠が槍の達人というだけでなく、教える者としても極めて優秀だからです。そうですよね?」
「デナンを寄越せ。鍛えればかなりの強さになる」
「デナンは護衛騎士になりたがっています。剣の技量を磨かないといけません」
「護衛騎士になりたがる者ばかりか……どこかに最強の槍使いになりたい者はいないか?」
「それは師匠が探してください。取りあえず、ユーウェインを指導してください。従騎士たちもつけます」
「デナンも来るということか?」
「第一王子騎士団の従騎士は三人しかいません。デナンも入っています。槍に興味が出るかもしれません。師匠次第では?」
「よし、わかった! 特別に教えてやろう!」
「では、お願いします。ラインハルト団長にはうまく伝えておきますので」
「ロビンはどうだ? 既婚者だけに護衛騎士にはなれないだろう?」
「二刀流が得意なので、ラインハルト団長が双剣使いとして育てています」
「仕方がない。デナンで手を打つか」
「あげるとは言っていませんのであしからず」
デナンを活用するとは……容赦ない。
師匠でもある騎士団長に対して堂々と交渉。言うべきことははっきり言う。
騎士団の調整役をこなせるはずだとユーウェインは思った。





