1302 従騎士の審査
王太子騎士団にとって、今回の審査は追加というよりもほぼ通常審査。
対象者が多いのもあって、先に審査を始めていた。
「王太子騎士団は朝早くから審査を開始しているらしい」
「俺たちはこっちへ来るだけで時間がかかる。だから、あとの方ってわけだ」
「第一の者がいない組は先に始められる」
剣と槍の技能審査は対戦式。
勝った者だけが残り、別の対戦で勝った者と戦う。
負けるまでそれが延々と繰り返される。
しかし、このような審査だからこそ、早く負けた方がいい場合もあると従騎士たちは説明された。
「勝つのが難しい相手ばかりなら、さっさと負けて別の審査で上位を狙った方がいいわけか」
「そりゃそうだよ。疲労も少ないし怪我もしない」
「中途半端になるよりは、一種目でも良い成績を残せた方がいいということだな」
全員、騎士団に入団できるだけの実力がある。
そのような者が競い合う中、上位の成績を残すのはかなり難しい。
全種目で高成績を狙うと中途半端な結果になりやすいため、得意なものを優先して良い成績を残せるようにする。
但し、これは王太子騎士団における暗黙の常識。
同じ騎士団の対戦者であれば実力がわかりやすいが、騎士団が違うとわかりにくい。
どのような選択をするかは自分次第だということも三人は教えられていた。
「俺が勝ち抜くのは難しいだろうなあ」
ピックは対戦式の審査にかなりの不安を感じていた。
以前、王宮騎士団の従騎士と対戦した時は余裕だったが、王太子騎士団の従騎士の実力ははるかに上だと聞いていた。
「一番強い従騎士がいるのは王太子騎士団みたいだしね」
各騎士団の従騎士による交流試合がある。
そこで毎年優勝するのは王太子騎士団の従騎士だということだった。
「ここで実力を示すことができれば、従騎士において第一王子騎士団が最強と言われるようになるかもしれない」
デナンがそう言うと、ピックが頷いた。
「夢だな!」
「重い夢だよ」
ロビンはラインハルトに呼び出され、従騎士による剣の審査で一位を狙うよう言われてた。
「頑張って一位を目指すしかないけれど」
「デナンも団長たちになんか言われたのか?」
「槍で上位を狙えるようであれば狙えと言われた。そのためであれば他の技能審査を棄権してもいいことになっている」
「俺は矢をできるだけ当てとけばいいだろうって」
弓は的当ての審査。点数を競うだけで、対人戦ではなかった。
「ピックが一番気楽だ」
「プレッシャーがなくていいな」
「それだけ実力がないってことだぜ? 正直、悔しい。初戦ぐらいは勝ちたいけれど、それすらも難しいのが現実ってわけだ」
「頑張れ!」
「応援しているからな!」
三人は励まし合った。
そして。
「やっぱりダメだった」
剣の審査でピックは初戦負けした。
「相手がでかいよ! 大男との対戦って感じだ」
「体格差は力の差になるから」
「最初から全力で攻められたな」
王太子騎士団の騎士は大柄ばかり。
小柄のピックはとても小さく見える。
よくそれで騎士団に入れたなと言われてしまうような体格差があった。
「一撃がめちゃくちゃ重かった」
「両手剣だしね」
「騎士団の特色としての差もある」
第一王子騎士団における剣は片手剣。もう片方には盾あるいは盾代わりの小手を装備するのが正式になっている。
王太子騎士団は両手剣が正式な装備。盾は必要時における臨時装備で、常用装備ではない。
つまり、武器の差や武器の持ち方の差がある。
追加の審査における武器は怪我を防止するため、訓練時に使う木製武器を使用することになった。
試合前に片手用でも両手用でも好きな種類とサイズを選べるとはいえ、王太子騎士団は普段から重い武器を自在に操る訓練をしている。
第一王子騎士団は人員不足で勤務優先。訓練時間がなかなかない。
力や体力、訓練の差が影響するのは必至だった。
「ロビン、何気に不利かも?」
ロビンは速度で勝負をするタイプ。
両手剣を使う王太子騎士団の者より攻撃速度では上回るが、試合としての勝負をつけにくいのではないかとピックは思った。
「有効打を入れればいいだけだよね?」
「そうだけど、両手剣の方が長い。こっちが攻撃できないタイミングから攻撃に入れる」
有効な攻撃を対戦相手に一回当てると一本という扱いになり、その本数で勝者が決まる。
人数が多いため、最初の方は時間をかけないよう一本先取で勝ち抜けできる。
ピックは素早く動くことで一本を取る気だったが、逆に一本を取られてしまった。
「受け流そうとしたのが良くなかった気がする」
それがデナンの考え。
「受け流せなかったね。最初からしっかりと受ける気でいたほうが粘れたとは思う」
「両手剣の攻撃は重そうだから、まともに受けるのは不利だと思ってさ。逃げ腰になったのは認める」
「俺は攻撃を受ける方でやってみる。ロビンはそれを参考にすればいい」
「ごめん。二人を情報収集役にしてしまって」
「気にするな。第一王子騎士団の従騎士は三人しかいない。助け合うのは当然のことだ」
「何回も勝ち続けないと、一位どころか上位にもなれないからな」
「教官の方が大変そう」
従騎士よりも騎士の方が大人数。
その分多く勝ち抜かなければ上位成績者になれない。
「教官が負けるわけないじゃん!」
「合間の時間に見に行こう」
「槍や弓の審査もある。順番に気をつけよう」
三人は従騎士の審査を受けながら、騎士の審査も見に行くことにした。
お読みいただきありがとうございました!
別作品になりますが、「謎解きに誘われて」の第四章まで完結しました。
第四章でミリアムとレイモンドの関係に変化が……!
また、第一章で書かれていなかった途中問題の答えも本文内に入れました。
お読みいただけたら嬉しいです。
よろしくお願いいたします!





