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後宮は有料です! 【書籍化】  作者: 美雪
第二章 侍女編
130/1357

130 大宴の間


 大宴の間では午後の選考会が再開されていた。


 クオンは無表情で側妃候補のアピールを見ては評価を書き続けていたが、一方で別のことも考えていた。





 クオンは王太子としてさまざまなことを制限され、それを我慢してきた。


 王太子としてふるまう必要があるのも、相応しくなれるよう努力しなければならないもわかっている。


 だが、王太子らしいということがクオンらしいということではなかった。


 周囲は王太子らしさを優先する。そのせいで、クオンらしさを否定することもある。それがつらい。


 クオンは自分と同じような我慢を弟たちがしなくてもいいように守りたいと思った。


 セイフリードを知る者の多くはその言動の苛烈さに注目するが、本当の姿ではない。


 自分という存在を他者に否定され、王子らしくあれという圧力に押しつぶされないための抵抗のあらわれだった。


 セイフリードには特別な事情がある。


 三人の息子に恵まれた国王は娘が欲しかった。


 王妃も周辺国との政略結婚を見据え、王女がいると役立ちそうだと考えた。


 美しい子供を産みそうな若い側妃が迎えられて身ごもると、誰もが王女の誕生を期待した。


 だというのに、生まれたのは男子――第四王子だった。


 国王も王妃も周囲も赤子に興味をなくし、母親である第三側妃の好きにしていいと言った。


 だが、子どもは王妃が養育する約束だっただけに、第三側妃は自分で子どもを育てる気がなく、世話を乳母や侍女に任せた。


 セイフリードは男子だが、女子のように美しかったため、王女だったらと周囲から余計に思われてしまい、期待を裏切った存在として多くの悪感情をぶつけられた。


 そんな環境で育ったセイフリードは性格が歪んでしまい、自己防衛として暴君と呼ばれるような者になってしまった。


 ……もっと早く気づいていれば。


 クオンはセイフリードと一緒に過ごすため、執務室で読書をするよう伝えた。


 最初は嫌がっていたセイフリードだったが、クオンが居心地の良いソファやテーブルや小物を用意して配慮をすると、しぶしぶと本を持ってくるようになった。


 その甲斐があってクオンとセイフリードの関係は徐々に良い方へ向かっただけでなく、セイフリードが年齢以上に頭が良いことに気づくことができた。


 学校に通っていなかったセイフリードに学校教育の国家試験を受けさせると、次々と合格。


 セイフリードは若干十五歳にしてエルグラード最高峰の大学に首席で入学した。


 そこまでは良かったが、エゼルバードやレイフィールが執務室に来る機会が増えたため、セイフリードが来なくなった。


 大学を卒業したあとは大学院に進学する気でいるのは知っているが、成人するにあたっての問題がある。


 苛烈な言動を控えなくてはいけないこともあるが、優秀な頭脳を良くない方に発揮しないようにする必要もあった。


 ロザンナのアピールの時に披露した言葉遊びもそうだった。


 普通なら悪口のオンパレード。


 だが、ミレニアス語で行うことで、堂々でありつつも発言を隠した。


 詩的趣向、音楽的趣向、論述技巧を取り入れた言葉遊びをすることによってロザンナが本当にミレニアス語に堪能なのかを確認しようとした。


 それでいて、ロザンナだけでなく他の側妃候補についても同じように馬鹿にしているのは明らか。


 まさにブラックユーモアの極致。ひねくれた性格が出ているとしか言いようがない。


 もっと素晴らしいことに才能を使ってほしいとクオンは思うしかなかった。




 側妃候補のアピール中、大宴の間の扉が開かれた。


 現在は王太子と第二王子を迎えた後宮華の会を開催中。誰でも入室できるわけではない。


 入室できたとしても、タイミングを見計らうはずだった。


 そうではない場合は、特殊な者や事情があるということになる。


 クオンとエゼルバードはレイフィールが来たのではないかと思ったが、レイフィールの側近であるローレンだけだった。


 ローレンは真っすぐにロジャーの側に向かい、小声で話しかけた。


「第三王子が貴方の知り合いと一緒にいます。内密の話がありますのですぐに来てください」


 ロジャーは側妃候補のアピールが終わると、すぐにエゼルバードの側へ移動した。


「第三王子に呼ばれました。しばらく席を外す許可をいただきたく」


 エゼルバードは眉をひそめた。


「レイフィールはここに来ないのですか?」

「どのような話ですか?」

「詳細はわかりません」

「なぜ、貴方を呼ぶのですか?」


 ロジャーは一瞬迷ったが、答えることにした。


「私の知人が第三王子と一緒にいるようです。それに関わることではないかと」


 小声ではあるが、会話の内容はクオンにも聞こえた。


「ロジャー」


 王太子が声をかけたため、ロジャーは視線を移した。


「行けばいい」


 クオンがわざわざそう言ったのは、エゼルバードのことは自分に任せておけばいいという意思表示だった。


「行ってきなさい」


 エゼルバードも許可を出した。


 ロジャーは王太子と第二王子に一礼すると、ローレンと共に大宴の間を一時退出した。 


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