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後宮は有料です! 【書籍化】  作者: 美雪
第八章 側妃編
1298/1357

1298 夫婦の誓い



 王宮へ戻る馬車の中。


「感動しました……」


 リーナは満たされた気持ちで胸がいっぱいだった。


「熱かったです。人々の想いが強く感じられました!」

「そうだな」


 クオンも素晴らしいオペラだったと感じた。


「これは史実を元にしたオペラだ。大まかな流れは合っている」

「アイギス様とリカルド様も王立歌劇場にいたのですね」


 リーナは全然気づいていなかった。


「私も驚いた。昼の公演に招待されているのは知っていたが、夜の公演に参加したいと言い出したのだろう」


 誕生日当日の昼の公演はエゼルバードとセイフリードによるリハーサルのようなもので、外交関係者も特別に招待した。


 南方に進出した時代のエルグラードの勢いは強く熱かった。


 これは史実であり、エルグラードは攻め込んで来た国々を攻め返して国境線をより南に変更、現在の国境線とほぼ同じになった。


 デーウェンやフローレンと同盟を結んだのも南方進出時代。


 昼の公演でオペラを観たアイギスとリカルドは、夜の公演で役者が演じるはずだったデーウェン人やフローレン人のセリフを自ら叫び、クオンやエルグラードとの絆を強く示そうとしたのだと思われた。


「今頃、社交で盛り上がっているだろう」

「そうですね」


 混雑を避けるため、クオンとリーナの二人は終幕後すぐに退出したが、エゼルバードたちはアイギスやリカルドたちと社交するために残っていた。


「レイフィールは号令を出すのに慣れている。さすがだと思える勇壮さだった。エゼルバードやセイフリードも素晴らしかった」

「そうですね。でも、セイフリード様があのようなことに参加するなんて……びっくりです」


 四人の王子が黒い軍礼装だった理由を本当の意味で理解できたとリーナは思った。


「黒い軍礼装は役作りの一環というか、衣装だったわけですね!」

「女性も楽しそうだったが、男性が好みそうなオペラだったかもしれない」

「そうですね」

「現在、エルグラードは海沿いの国々に対して怒りを感じている。それをあらわすためにも、題材として取り上げたのは丁度良かっただろう。エゼルバードも意識しているに違いない」


 南方進出時代と同じ。海沿いの国々に対して、エルグラードは怒りを感じている。


 絶対にエルグラードは勝利する。海沿いの国々は手痛い敗北を味わうことになる。


 歴史は繰り返す。思い出せというメッセージが込められているということだった。


「そんな感じがしました」

「どこが一番印象に残った?」

「それはもちろん、クオン様が立ち上がって命令するところです!」


 名場面中の名場面だとリーナは思っていた。


「完璧な司令官でした! オーラがありました。本物ですからね。とてもかっこよかったです!」

「嬉しい」


 クオンは喜んだ。


「私は王太子だからな。いついかなる時も威厳をもって命令ができなければならない」

「威厳がありました! まさにエルグラード王太子でした!」

「そうか」

「でも」

「でも?」

「出番もセリフも一つだけでしたね」


 クオンは笑った。


「少なかったか?」

「国王陛下は二回でした」


 最初の場面と最後の場面。


「国王だからな」

「レイフィール様の出番も二回でした」

「軍務統括だからな。号令者として適任ではある」

「エゼルバード様の出番は一回でしたけれど、印象がとても良かったです」

「冷たく厳しい感じだったように思うが?」


 華やかで慈悲深いと言われる第二王子とは真逆。


「敵には容赦ない外務統括らしくてぴったりでした!」

「なるほど。そういう意味か」

「クオン様やレイフィール様が南にいるのであれば、王都から援軍を連れて行くのはエゼルバード様だと思うので、それもぴったりでした。フローレンを先導するようなセリフもセイフリード様が適役だと思いました」

「配役もセリフも合っていた。だからこそ、よりオペラが楽しめた」

「そうですね!」

「私は幸せだ。今夜のオペラは家族や友人、エルグラード国民からの贈り物だ」

「私も楽しかったです。あんなに素晴らしい贈り物をいただけて幸せです」

「まだある」

 

 クオンは微笑んだ。


「部屋で渡す」

「わかりました」


 クオンは部屋に戻って二人きりになると、リーナの前で片膝をついた。


「クオン様?」

「聞いてほしい。結婚してから一年経った」


 リーナは優しさ、誠実さ、真面目さ、正直さといった多くの魅力を持っている。


 クオンはどうしてもリーナと結婚したいと思った。


 リーナがインヴァネス大公夫妻の娘ではなくても。


 そして、クオンは自らの信念を貫き、リーナと結婚した。


 幸せだった。


 苦労も困難もあるとしても、自分が守ろうと思った。


 だが、守るのは大変なことだった。


 リーナにつらい思いを何度もさせてしまった。


 それでも、リーナと一緒にいたい。


 夫婦として。ずっと。


 これまでのことを思い出し、考え、反省し、改善することをクオンは伝えた。


「愛している。私の唯一の妻として一生側にいてほしい。クオンとしてもエルグラード王太子としてもそう思っている。受け入れてくれるか?」

「もちろんです! クオン様の唯一の妻として一生側にいます! どんなクオン様だって私の夫です!」

「とても嬉しい。どんな私もリーナの夫だ」


 クオンは立ち上がるとリーナの手を取り、左の薬指につけた指輪を外した。


「これは回収する」

「結婚指輪を?」


 リーナは驚いた。


「新しい指輪にする」

「そうでしたか」


 クオンはポケットから取り出した新しい結婚指輪をリーナの指につけた。


「リーナによりふさわしい指輪になった。よく見てほしい」


 リーナはじっくりと新しい結婚指輪を見つめた。


 前の指輪とほぼ同じように見える。


 しかし、エルグラード王太子妃という文字が刻まれていた。


「私からの内示だ。公には秘密であり、正式な身分はヴェリオール大公妃のままになる」

「国王陛下はご存知なのでしょうか?」

「結婚指輪だけならいいと言われた。王太子妃のティアラやセットの宝飾品はまだだ」


 リーナを正式な王太子妃にするにはそのことを公式に発表し、王太子妃の証である宝飾品を全て与え、それらをつけた姿を披露しなくてはならない。


 結婚指輪も証の一つだが、全部は揃っていない状態。


 将来、リーナが王太子妃になることを見越し、結婚指輪だけ先に与えるということだった。


「リーナは実力を示した。誰よりも王太子妃にふさわしいことは明白だ」

「この指輪って……私がイベントをする前から作っていましたか?」

「当然だ。結婚する前からリーナを王太子妃にする気だった。先にヴェリオール大公妃の称号と指輪を与えたが、最終的には王太子妃になる。指輪を作らないわけがない」

「でしたら、私の実力は関係ない気がするのですが?」

「関係ある。この指輪をいつ与えることができるかはわからなかった。リーナが自らの覚悟と強さを示してくれたおかげで早くなった」

「そうでしたか! 頑張った甲斐がありました!」


 リーナは満面の笑みを浮かべた。


「本気で努力する者は必ず報われる。その証拠だ」

「とても嬉しいです! ピカピカですね!」

「宝飾品を贈ってもあまり喜んでいない気がしていたが、これは嬉しいようだな?」

「嬉しいに決まっています! 唯一の妻の証ですし、努力が評価されたのですから!」

「王太子妃の指輪をリーナがつけているということは、他の女性がこの指輪をつけることはないということだ。王太子妃の座は予約済みだとわかるだろう」

「予約の証でもあるのですね!」

「秘密とは言ったが、周囲に指輪を見せびらかすのはいい。牽制になるだろう」


 ヴェリオール大公妃の称号に続き、新たな牽制として王太子妃の結婚指輪が追加されたということだった。


「見せびらかすのはちょっと恥ずかしいですけれど、牽制ならしないとですね?」

「今日からまた一緒に努力しよう。夫婦としても、エルグラードの王太子夫妻としても」

「そうですね。一緒に頑張りましょう!」


 二人は見つめ合い、誓いの口づけを交わす。


 一年前に立てた夫婦の誓いがより強いものに変わった証だった。


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