1292 一緒に楽しみましょう!
「父上、もう少しだけいいか?」
クオンが口を開いた。
「なんだ?」
「リーナから皆に知らせておきたいことがあるらしい。いいだろうか?」
「わかった。皆、なおっていい。リーナから話があるようだ」
姿勢をなおした人々はリーナへと視線を向けた。
「特別な許可をいただいたので、この場を借りてお知らせします。すでに知っている者もいるとは思いますが、王都で特別なイベントが行われています。今日が最終日です!」
王都で特別なイベントが行われていることも、最終日であることも、その場にいる全員が知っていることだった。
「特別なイベントはすでに大成功です! なぜなら、数えきれない人々が協力してくれましたし、参加して楽しんでくれています。福祉特区の知名度や理解が深まり、王太子領への興味も強まりました。商業の活性化にもつながっているので、王都と王太子領を盛り立てることができたと思います!」
リーナは集まっている人々を見回した。
「私からエルグラード国民である皆に感謝を伝えたいと思います。王都が明るくなりました。寒さを吹き飛ばすような熱気が沸き上がり、心の中にある良心と善意が温かく溢れました。これが王都です! エルグラードが誇るものです!」
リーナは満面の笑みを浮かべた。
「私はエルグラード王太子兼ヴェリオール大公であるクオン様の唯一の妻として、懸命に努めていきます。これからもよろしくお願いします!」
リーナの決意表明。
その言葉には、エルグラード国民である人々への願いも込められた。
「最後に、今日はクオン様の誕生日です。王族の誕生日を祝う行事はずっと控えめでしたよね? でも、去年は結婚式だったのもあって盛大でした。今年も盛大に祝います! 皆で今日を楽しみ、その笑顔をクオン様への贈り物にしましょう! 以上です!」
「斬新で素晴らしい贈り物だ」
クオンもまた笑みを浮かべていた。
「今日は結婚記念日でもある。二人で一緒に楽しもう」
「そうですね!」
「父上、これで終わりだ。このあとは公式デートの予定がある。急いで退出したい」
公式デート!
王太子殿下が?
公式視察の間違いでは?
謁見の間にいる人々は驚いた。
「わかった。先に退出していい」
クオンはリーナをエスコートしてドアに向かった。
「私も急ぐ予定がありますので退出します。セイフリードも一緒です」
「先に退出する」
エゼルバードとセイフリードが一緒に退出した。
二人は特別なオペラが上演されている王立歌劇場に行く予定だった。
「良かった。元通りだな」
国王はホッとした。
不穏な空気に包まれていた王子府だけでなく、第二王子と第四王子の関係もまた良好な方へ戻ったと感じた。
「私も先に退出する。外出の予定がある!」
レイフィールは控えているパスカルの方に顔を向けた。
「パスカル、行くぞ! 友人としてついて来い!」
「喜んで」
パスカルは恭しく一礼した。
「この広間にいる同行者にも通達する。私とパスカルの馬はエルグラードで最速を競うほどだ! さっさと来ないと置いていくぞ!」
レイフィールとパスカルが足早に退出していく。
「堂々だな」
国王は呆れながらも笑顔を見せた。
これまでは第三王子と王太子派貴族という関係のせいで付き合いにくい部分があったが、パスカルは王家の外戚になった。
王太子だけでなく王家全体をより強く支えていくべき立場になったため、レイフィールはパスカルとの友人関係を隠さないことにしたようだった。
「息子たちのために宣言する。特別な予定と理由がある者は急いでいい」
国王は自らが退出するのではなく、どうしても急いで退出をしたい者だけに許可を出した。
真っ先に動いたのはパスカルを護衛する任務についているユーウェイン。
整列しているどの護衛騎士よりも速かった。
そして、ギュウギュウ状態の中にいる若い貴族たちが一斉に扉へ向かい始めた。
「道を開けろ!」
鋭い声が響き渡った。
「第三王子殿下との予定がある者が優先だ! 他の者は動くな!」
叫んだのはセブン・ウェストランド。
その隣にいた妹のラブは驚きに目を見張った。
「珍しくない? お兄様が配慮するなんて」
「自分のためだ」
セブンはそう言うと、扉の方へ向かった。
「えっ! ちょっと! お兄様も第三王子殿下と行くの?」
てっきりラブは自分と同じ予定、王立歌劇場でオペラを観ると思っていた。
「パスカルと一緒に行く。約束した」
レーベルオードとウェストランドは強く結びついている。
いずれ当主になる若き者同士でも。
誰もがそれを強く実感することになった。





